お料理説明・背景
私たちのアグリトゥーリズモではお客様と共にテーブルを囲んで食事をする。オープン以来30年間、主人が大切にしてきた時間。
そのキッチンと味を守ってきてくれたのはここで働いてくれる地元のマンマたち。3年前から調理長をしているアンナマリアは、若干20歳で結婚したばかりの主婦初心者だった頃、私の主人が母のように慕っていた大好きな故Zia Vera(ヴェーラおばさん)の家で家事を手伝ってくれていた。「ヴェーラからは色んな事を学んだのよ。鶏のローストだって串の刺し方一つ知らなかったもの」と笑いながら言う。今では鶏のローストは彼女の得意料理の一つだ。
毎晩の夕食のメニューは宿泊客のデーターを見ながら私が決めている。連泊される方も多いので毎晩メニューは違う。2週間、1ヶ月滞在される方も。そうなると地元の郷土料理だけではレパートリーも追いつかない。またリピーターも多いので時々新しいものにもチャレンジしている。でも基本はいつも、農園で採れた新鮮で旬な素材と郷土料理。
今回の料理はとてもシンプル。伝統的な料理ではないけれど、ウンブリアの代表的な食材、夏トリュフとキアニーナの2つを使う。
ウンブリアでは大きく分けると3種類のトリュフが採れる。白トリュフ、ネーロプレジャート、夏トリュフ(別名スコルツォーネ)だ。 ここウンブリアの南側は、わずかな地域で白トリュフ、ネーロプレジャートも採れるが、夏トリュフの宝庫だ。夏トリュフ、スコルツォーネは6月から9月にかけて熟し採取できる。主にトキワガシ(どんぐりの木)やツクバネガシ等の木の多い森に自然発生する。トリュフはこれらの木の下で見つかる。木の根に宿るからだ。白トリュフやネーロプレジャートほど香りは強くない為、料理の上に直接削ったり、ソースとしてかけたりするだけではなく、味付けに利用するのにも適している。また、他のトリュフ程の高級食材ではないのでふんだんに使った方がおいしい。
トリュフ狩りには訓練された犬がお供する。塊茎が熟しその最上の芳香を放した時に犬の嗅覚がキャッチするのだ。そしてご主人のポケットからご褒美をもらう。いい季節には30分であっという間に両手一杯になるほど、おもしろいぐらいに見つかる。採れた夏トリュフはきのこ用ブラシ等で綺麗に土を洗い落とし、自然乾燥させる。キッチンペーパーにくるみ、ガラスの保存瓶の中にいれる。(キッチンペーパーは随時交換)上手に保存すれば冷蔵庫で1週間程は保存可能。又は、真空パックに詰め、冷凍保存も可能。
もう一つの食材キアニーナは、主にウンブリアとトスカーナで飼育されているとても大きな牛で、真っ白な毛と長い脚が特徴。
雄は大きいものだと1700kgにも。そして丘の上の緑の牧草地に白い動物が点々としている風景は、ウンブリアの代表的な田園風景の一つ。
その肉は脂肪がとても少なく、“ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ”としても名を馳せた品種。その背の高さと巨大な姿態から2000年以上前、エトルリア人、ローマ人そして第2次世界大戦前まで労働用の牛として育されていたという。
今回このレシピで使用するのはその中でも貴重な後部の腿、ジレッロ。脂肪も少なく、筋もないとても柔らかい部位。綺麗にスライスできるので祝日やパーティーの際のお料理にもおすすめ。
ウンブリア州Amelia(アメリア)の近郊でアグリトゥーリズモ“サン・クリストフォロ”を主人と共に経営。1986年にオープンしたアグリトゥーリズモは今年で30周年。当初からBIO農業をしているが、7年前から正式にBIO農園として認定。
作り方
- 牛肉の周り全体にローリエとニンニクのスライス、ねずの実をはりつける。(特に肉の膜の無い所に。塩分を直接通りにくくするため)(写真a 参照)
- 卵白を角が立つまで泡立てる。(写真b 参照)
- 少しずつ粗塩が入ったボールへ卵白を加えていき、塩がまとまるぐらいのペーストにする。(写真c 参照)
- オーブンシートを引いた耐熱皿の底に塩ペーストを約2cm程ひき、1の肉をのせる(写真d 参照)
- さらに周囲を塩ペースト(厚さ2cm以上)で完全に覆う。塩が薄すぎると肉に一度に火が通りすぎてしまうため要注意。(写真e 参照)
- 約180~200度に熱したオーブンで焼く。(焼き時間の目安は最初の1kgに約25分。更に1kgにつき20分足す。2kgのお肉だと約45分目安)
- 途中焼き加減が気になる場合は、写真fのように塩釜のサイドを包丁等でたたいて、蓋を開けるようにし、ミートサーモを刺してみるか、肉の端に切り込みを入れて確認してみる。(写真f 参照)
- 焼き上がったら塩釜から肉を取り出し、アルミホイルでしっかり覆い、別の容器に入れ15分以上休ませる。その際に出て来る肉汁はとっておく。焼き加減が足りない場合は一旦アルミホイルで覆った後、塩釜の中に戻す。この余熱でも随分火が通る。 ※肉をそのまま塩釜の中に入れておくと塩分がしみ込みすぎて塩辛くなるので注意。(写真g,h 参照)
- トリュフソースをつくる。約半分量のトリュフはチーズおろしで細かくおろす。約4分の1量とおろした時に残った小さな欠片はナイフで細かくみじん切りに。残りの4分の1量は仕上げ用においておく。(上からスライスする)(写真i 参照)
- 小鍋にオリーヴオイルとニンニク一片を丸ごと入れ、香りが出始めたら火からおろす。ニンニクを取りだし、粗熱を取る。9のトリュフ、塩を加え、まぜ合わせたのち、8でとっておいた肉汁を加えてトリュフソースをのばす。(写真j 参照)
- お肉をスライスし皿に盛り、ソースをかける。その上に残しておいたトリュフをトリュフスライサーでスライスする。好みにもよるが、夏トリュフはあまり香りがきつくないので多めにたっぷりと。(写真k 参照)