お料理説明・背景
「ローマ郷土料理には、臓物はなくてはならない存在なのよ!」
そう言って、手馴れた様子でアバッキオ(乳飲み仔羊)の臓物を調理していくルチーラ。心臓は歯ごたえがあるから細かく切る、肺は柔らかいから大きめにカット、など、ローマの下町生まれ下町育ちで幼い頃からモツ料理に慣れ親しんでいるだけあり、目をつむってもどこをどう扱えばいいか熟知している。
調理中に「味見してみて」と差し出された臓物は味わいにクセがあり、私の顔は少しゆがんだ。その様子をみてルチーラはいたずらっ子のように笑った。
「コラテッラ」とは、アバッキオ(乳飲み仔羊)、アニェッロ(仔羊)、カプレット(仔ヤギ)の臓物(主に、肺、心臓、肝臓)のこと。ちなみに、アバッキオとアニェッロの違いは、アバッキオは、まだ主にお乳だけで育った生後1ヶ月頃の赤ちゃん仔羊なのに比べ、アニェッロは少し成長した仔羊。他の州に行くと、アバッキオとアニェッロを区別せずに混ぜて扱うところもあるが、ローマでは柔らかく味にくせのないアバッキオが好んで食べられる。
もともとコラテッラは、ローマのクチーナ・ポーベラ(貧しいレシピ)を代表する食材だった。その証拠に、屠畜場のあった「テスタッチョ地区」へ、肉を売りに来た羊飼の報酬代わりとして支払われていたほどだ。ただ、今では毎回見つからない少し貴重な食材となった。前もって馴染みの肉屋で予約したり、運がよければ肉屋の店員が作業場の奥から探して持ってきてくれる。 今回、テスタッチョ地区付近にルチーラと食材調達に行ったところ、肉屋の青年がたまたまあったコラテッラを売ってくれ、世間話をしているとおまけのお肉までくれた。今でも受け継がれる下町情緒に心が温かくなる。
その後は、ルチーラのマンマの家で調理。てきぱきと作業をこなしていく彼女の後ろで、優しそうな表情で材料を渡したり、かき混ぜたりとアシスタントするのが、夫のマッシミリアーノ。そしてその様子を見守るルチーラのマンマ。言葉で頼まなくてもお互い助け合う、自然なハーモニーが流れているのが心地良い。 そんな下町情緒やコッチ家の愛がこもったコラテッラは、思わず笑みがこぼれるほどおいしかった。
ローマとカラブリアに1年のうち半年在住。世界40カ国を旅した後、フレグランスや旅をメインに国内外で執筆活動をしている。
作り方
- 各臓物の血や汚れを抜くように、水でよく洗い流す。
下ごしらえ
作り方
- アバッキオの各臓物の白い部分(スジ、脂肪)を包丁で取り除く。(写真a 参照)
- 各臓物を細かく切る。心臓部分は歯ごたえがあるので他の臓物よりも細かく切る。(写真b,c 参照)
- オリーヴオイルを熱したフライパンに臓物と塩、コショウを加えて強火で炒め、白ワインを蒸発させるように加えていく。時間に余裕がある場合は、まず肺から炒め、5分後に心臓を加える。同様に、5分後に肝臓を加えて約10分ほど炒めるとより良い食感に仕上がる。(写真d 参照)
- 粗みじんに切ったタマネギを入れて一緒に炒める。(写真e,f 参照)
- タマネギに火が通ったら、半月切りのスライスにしたズッキーニを入れて弱火で15分ほど炒める。(写真g 参照)
- お皿に盛って仕上げにレモンを絞り、出来上がり。