マンマのレシピ

マンマの紹介

  • マリア・プジェリ(Maria Puzielli)さん
  • カラブリア州チェトラロ町在住
  • 得意料理:カラブリアの食材を使用したパスタ

お料理説明・背景

カラブリアの料理レシピ本を見ていると、印象的な形で目に飛び込んできた「ピッチラート・ディ・パスクア」。マリアさんに聞いてみると、「チェトラロでは、Candieliere(キャンドル立て)と呼ぶのよ。戦前に主に食べられていた、カラブリアのパスクア(イースター)の伝統的なドルチェよ。」と、教えてくれた。

より宗教深いと言われている南イタリア。マンマが子ども時代には、パスクア前のクアレシマという40日間の四旬節は、女性は黒いベールを常に被り、食事は野菜中心だった。季節のエンダイブという野菜や、栄養をつけるためのリコッタのポルペットーネなど......食べ物も水も最小限の摂取を心がけていた。そして聖金曜日の断食と昼から日没までの教会でのお祈りを終え、パスクア当日の朝の礼拝から帰ると、家族や親しい人々の大人数でのランチが始まる。「外で遊びまわれる春の陽気な気候のなか、クローゼットの中の一番エレガントな服を着て教会へ行き、パスクアの新しいスタートのムードの中で、ご馳走に囲まれて、一年で一番幸せな瞬間だったのを覚えてるわ」と、マリアさん。

カラブリアでデザートが出てくるのが年に数回だったマンマの子ども時代に、ランチの後に出てくるこの「キャンドル」と「卵」というシンボルを含んだ、パスクアの「生まれ変わり」という気持ちを後押ししてくれるドルチェを一年中待っていたそう。また、町のお医者さんとして有名だったマリアさんのパパは給料として、お金の代わりに卵で支払われていたこともあったほど、カラブリアの人々にとって卵は高級だったそうだ。
しかし戦後、徐々に卵形のチョコレートの導入など近代化していき、どんどん忘れられていったこちらのレシピ。確かに、小麦粉、砂糖、卵というシンプルな材料を使用した素朴な味は、クラシカルな南イタリアの情景を連想させる現代では、あまり口にしない味わいだ。

また、ところ変われば、名前も伝統も地域の色に染まるイタリアのレシピ。こちらのドルチェも例外ではなく、デコレーションの卵の数は奇数が縁起が良い、家族の最年長が特大サイズを食べる、家族内にカップルがいる場合は彼女のマンマが彼氏に特大ハート形につくったこちらのケーキに彼の年の数の卵(40歳なら40個!)をのせてプレゼントする......など、カラブリア内でも様々な伝説があるのも面白い。

そんなマリアさんはというと、キャンドルをのせて、炎が消えるまでにお願い事をしていたそう。今回のように、素朴なレシピに各々のユーモアやドラマが刻み込まれ続けていくのが、イタリア料理の魅力の一面だと改めて感じた。

レポート:西川彩奈(Ayana Nishikawa)
ローマとカラブリアに1年のうち半年在住。世界40カ国を旅した後、フレグランスや旅をメインに国内外で執筆活動をしている。

材料

カラブリア風ドルチ・ディ・パスクア(4人分:直径25㎝のタルト型1台分)

・小麦粉500g
・ぬるま湯(約50度)220ml
・卵9個(4個生地用、5個飾りつけ用):常温に戻しておく
・グラニュー糖120g
・イースト5.5g
・ラード80g
・塩適宜
・バター適宜
・粉砂糖適宜

作り方

  1. 大きなボウルに小麦粉250gを入れ、指で軽く真ん中に穴をあけておく。(写真a 参照)
  2. 1であけた穴にイースト、50度のぬるま湯を半量入れて混ぜる。残りのぬるま湯を加え、さらに混ぜる。(写真b,c 参照)
  3. 写真dのようになったら、タオルと生地がくっつかないように小麦粉(分量外)を軽く表面に振りかけ、タオルをかけて室温のオーブンの中で約1時間醗酵させる。(写真d,e 参照)
  4. 2倍の大きさほどに生地が膨らんだら、小麦粉250gを加えて軽く混ぜ合わせる。(写真f,g 参照)
  5. 真ん中に生地用の卵4個、グラニュー糖、塩少々、ラードを加える。手で全体が均等になるように混ぜ合わせる。(写真h,i 参照)
  6. 生地を寝かせた後ボウルからスムーズに取り出しまとまりよくするため、また表面の乾燥を防ぐため、小麦粉(分量外)をつけた両手で生地を取り上げ、生地全体の表面にまぶせていく。柔らかいので素早く回しながら、小麦粉を足してつけていくのがコツ。(写真j 参照)
  7. 生地を馴染ませるため、1時間寝かせる(タオルやラップはかぶせる必要なし)。
  8. バターを型に塗る。(写真k 参照)
  9. 生地をボウルから型に置き、中央から外側に向かってフラットになるよう、手で小麦粉を極少量軽く表面に馴染ませながら形を整え、余分な生地は切り取る。(写真l 参照)
  10. 9で外側の端に余った生地をデコレーション用に使用するので、細く切っておく。(写真m 参照)
  11. 表面に軽くナイフで切り込みを入れ、常温に戻しておいた生のままの卵をのせていく。(写真n,o 参照)
  12. 10の生地でデコレーションしていく。(写真p 参照)
  13. 表面に小麦粉があるとオーブンで焼く際に焦げやすくなるので、ティッシュなどで軽く取り払っておく。前もって200度で余熱しておいたオーブンで焼く。
  14. こまめにチェックしながら、竹串などで刺して中まで焼けたら取り出す。(目安約15~20分)。粉砂糖をふるいで振って完成!(写真q 参照)
  • a. 小麦粉の真ん中に指で穴をあける
  • b. イーストとぬるま湯半分を入れて混ぜる
  • c. 残りのぬるま湯を入れて混ぜる
  • d. ひとまとまりにする
  • e. 室温で1時間置く
  • f. 2倍の大きさになった状態
  • g. 小麦粉を加える
  • h. 卵、ラード、塩、グラニュー糖を加える
  • i. 手で混ぜ合わせる
  • j. 全体を小麦粉で覆い1時間置く
  • k. バターを型に塗る
  • l. 生地を型に入れて形を整える
  • m. 余った生地を細く切る
  • n. ナイフで切り口を入れる
  • o. 卵をのせる
  • p. 細長い生地でデコレーションし、オーブンで焼く
  • q. 中まで焼けたら粉砂糖をふって完成

お料理ポイント

「レモンやオレンジの皮を細かく刻んで、5の際に生地に混ぜると爽やかな味わいになるわよ」とマリアさん。また、7で寝かせた後の生地を細長く切り、三つ編みやハート、バタフライなど色々な形にアレンジしたり、カラースプレーのチョコものせたりと、楽しみながらつくれるレシピ。