お料理説明・背景
マテーラのナターレ(クリスマス)の風物詩にペットレがある。
12月8日の祝日から、1月6日までのひと月に及ぶナターレシーズンを通して食べられる。ペットレと聞けば、ナターレを連想して気分も華やぐ、マテーラ人にとっては季語に等しい。
さて、ご存じ「スパゲッティ」の語尾に-ataが付いて「スパゲッタータ」に変わると、「みんなでさんざんスパゲッティを食べること」という意味になる。辞書にはなくても、各地の味もおんなじで、ポレンタならポレンタータがあり、ペットレならペットラータがある。
時に「行事」のニュアンスも含む。マテーラでも風物詩が高じて、オープンスペースで赤ワインといっしょに振る舞うペットラータ(ペットレ祭り)が大小、催されたりもするのだが、通常、ペットラータは家々で繰り広げられる。
ペットラータは、「ペットレを食べながら、ワインでも」という気軽なホームパーティーであり、気の置けない友達と集うナターレならではの口実なのである。日本人の「みんなで鍋でも」というのに似ている。
-ataが大好きなナスタッシアが、ペットラータをしてくれるという。「ヒロコの友達にも声かけておいてね。」 家に友達が大挙して押し寄せるのはしょっちゅうとして、それがいったい何人になるのかさえ、彼女には大した問題ではないらしい。 ゲストが1人増えただけで大騒ぎするわが身と比べ、この高貴なまでの鷹揚さよ。三十を超したばかりの若きナスタッシアだけど、この南イタリアのマンマぶりには惚れぼれする。
まあ、人数が増えても減っても、椅子さえあれば平気なところが、ペットラータのいいところか。ペットラータは、アペリティーヴォ(食事酒)の位置づけなのだ。お酒とおつまみがあればいいので、招待する側もされる側も気安い。もっともアペリティーヴォといいつつ、“さんざん”ペットレを食べるのだけれど。
この日は、大人12人、子ども10人のペットラータになった。
小麦粉の風味、生イーストの風味、大さじ1杯の塩が調味料らしい調味料のペットレは、そのままで単純においしいのだが、プレーンなだけに、何にでもよく合う。サラミとチーズに目がないナスタッシアの、ペットラータのテーブルをご参考までに。
【ナスタッシアのペットラータのテーブルメニュー】
★ペットレ2種(プレーン、レーズン入り)、小麦粉2㎏分
★サラミソーセージ2種(州産黒豚のソップレッサータ、サルシッチャ)
★チーズ2種(スカモルツァ洞窟熟成タイプ、ペペロンチーノ入り羊乳カチョッタ)
★ナスタッシア製、新オリーブの塩漬け
★プリミティーヴォ・ディ・マテーラD.O.C.(アルコール14.5%、赤)
寒い冬の夜は、目の前で揚げるあつあつのペットレがなによりのご馳走である。 ナスタッシアが、さらに1㎏の小麦粉を追加で捏ねだした時は、いくらなんでも…...と笑ってしまったのだが、いやはやどうして。騒々しくお喋りしつつ、気づけば22人で、小麦粉2㎏分のペットレをほぼ平らげていた。恐れ入りました。
友達と集う口実はいくつあっても素敵なもの。今年の冬は、ペットラータで、マテーラ風アペリティーヴォはいかがでしょう。
2003年渡伊、同年よりマテーラ在住。数々のTV番組のコーディネートや取材コーディネーター、翻訳、寄稿(伊語/日本語)を軸に、地域のよろずプロモーター(でありたい)として活動。
作り方
【手順】生地を捏ねる(15分)→発酵させる(2時間)→揚げる
- 生イーストにぬるま湯を加え、指先でゆっくり揉みほぐしながら溶かしていく。(写真a 参照)
- 耐熱性のボウルに小麦粉、塩を入れる。1を加え、混ぜ合わせていく。(写真b,c 参照)
- ぬるま湯を数回に分けて加えながら、粉っぽさがなくなるまで混ぜたら、十分に空気を含ませながら10分ほど捏ね、粘り気のある柔らかい生地に仕上げる。(写真d,e,f 参照)
- 3を大皿などで密封し、暖炉や温水暖房まわりなどほんのり暖かい場所で、2時間かけてゆっくりと発酵させる。ほぼ2倍に膨らむ。(写真g 参照)
- 揚げ油を高温に熱する。大さじと指を赤ワインで濡らす。4をスプーン半量ほどすくい、指さきで油に落とす。淡い小麦色に膨らんだら、キッチンペーパーにとって油を切る。すぐにサーブする。(基本のペットレ)(写真h 参照)
- 後半は、ペットレ生地にお好みでレーズンまたはハーブを混ぜ込み、5の要領で揚げる。(写真i 参照)