お料理説明・背景
「すでに口論に発展してます!」取材に行ったその日、カメラ片手にキッチンに入るとバルバラがご主人のフラヴィオと互いに視線の火花を散らしながら私にそういった。
一家に二人の料理人は要らないといつも思うのだが、このブラッツェッリ家にも如何せん主婦と主夫がいて、共に大の料理好き! 鶉は丸一羽を出すものだと主張するバルバラ、ももの部分だけ残し、後はリゾットに混ぜ込むものだと言い張るご主人。
、、、困ったものです! ここはひとまず行司を務めるしかないと「バルバラのリゾットを食べにきたんだから、今日はフラヴィオはお休みしてようよ」と、私。それで口をへの字に曲げてフラヴィオは散歩に出かけたのだった。
前回、ロンバルディアの平野部の人たちが好んで野鳥を食べるという食文化について彼女が話してくれたので、今度はちゃんと鳥が獲れた時の料理をと思い、彼女の得意料理『鶉のリゾット』を紹介してもらった。鶉はもちろん養鶏場でも飼育しているが、野生のものは身が締まって味が深く、皮がぷりぷり。バルバラが丸のままリゾットと食べさせたいのは、その食感を貪るようむしゃむしゃ食べるのがおいしいと知っているからだ。
昔は野生の鶉をよく近所のハンターが持ってきてくれたそうだが、今はそれも難しくなり、野生のものはほとんど手に入らないという。「今日の鶉は野生のじゃないけど吟味して買ってきたからおいしいわよぉ!」
子供の時に味わったあの味、原風景、そういったものが大人になってからの味覚の基準になるのは日本人もイタリア人も同じなんだなとつくづく思う。
「おっと、ごめんよ!」リゾットのためのもも肉を骨から外していたバルバラの隣を大鍋を重そうに抱えて散歩から戻ったフラヴィオがすり抜けると、ガスレンジの前に仁王立ちし嬉しそうに中身をかき混ぜだした。「ちょっとぉ、何で今、それやりだすかな!?」大鍋の中身を覗くとよく肥えたイチジクがいっぱい。ジャムかぁ、、、と私が思っていると、「ほらほらまた手が止まってる!」とからかい半分にチェックを入れられたバルバラがまたまた眉間にうっすらシワをつくる。
本当は仲が良いのだ。もっと突き詰めると料理好きのカップルは、真剣な大げんかになる前に意外と簡単に仲直りできる。ほら、目の前においしいものをぶら下げられるといつの間にが顔がほころんで、腹を立てていた理由などどうでも良くなってしまうものだ。、、、そうでしょ、バルバラ?
ピエモンテ州在住。農林水産省を退職後2000年に渡伊。静かな山村に暮らし、農・経・食文化コーディネートでイタリア全土を駆け巡る。
作り方
- ブロードをつくる。鶏ガラや牛すね肉など(500gほど)、ニンジン(2本)、セロリ(2本)、玉ねぎ(1個)、ニンニク(1かけ)、ローリエ(2葉)、塩ひとつまみ、全てを3.5リットルの水に入れ、1時間半ほどコトコト茹で、一晩おいて脂肪が凝固するのをまってから濾しておく。
- 鶉の表面に残っている羽毛をガス火で焼き切り、取り除く。(写真a 参照)
- 大きめのフライパンを火にかけ、オリーヴオイル大さじ4を温め、ニンニク、ローズマリー、セージを入れて香りをつける。(写真b 参照)
- 程よく温まった3に丸のままの鶉ともも肉を入れて塩、こしょうをし、表面を焼き、少し焦げ目のついたところでブロードを入れ蓋をする。30分から40分、中火で火を通す。(写真c 参照)
- 4から鶉を取り出し、もも肉のみ身を骨から外しざく切りにしておく。鶉4羽は冷めないようにオーブンなどで保温しておく。(写真d 参照)
- 玉ネギをみじん切りにする。(写真e 参照)
- 別のフライパンで予め玉ネギを炒めておき、4の鶉を取り出した焼き汁の残るフライパンに玉ネギを入れる。(写真f 参照)
- 7に米を入れ、焼き汁に米をなじませるように炒める。白ワインを振りかけさらに炒める 。(写真g 参照)
- 水分が飛んだところでブロードを足し、再びかき混ぜながら火を通し続ける。水分がなくなったらまたブロードを足す。これをリゾットが好みの硬さになる少し手前まで繰り返し、最後に骨から外した5のもも肉も入れて、さらに少量のブロードを足して水分を飛ばす。ここで一旦塩加減をチェックし、味を調える(パルメザンチーズの塩味も考慮して加減すること)。(写真h 参照)
- パルメザンチーズを振りかけ、バターを入れて均一になるまで混ぜ、火を止めて休ませる。リゾットを皿に盛り、鶉に羽根を休ませてあげて出来上がり!(写真i 参照)