お料理説明・背景
涼しげな口元で彼女がこの妙な料理の名前を口した。「っえ?何?うぜる・なんちゃら?」「そう、ウゼリン・スカパァ」「うぜりん・すかぱっ、、、」ロンバルディア州のマンマ、バルバラと二人でぱぁぱぁ繰り返した。
秋はハンティングの季節だ。獲物は丘や山岳部なら野ウサギや大きめの山鳥などもあるだろうが、彼女の住む平野部では鳥ならベッカッチャやツグミなど小型の渡り鳥が多い。一昔前までのロンバルディア人ならそれを串に刺して炉で丸焼きにしてワイワイ楽しんだ。 「それがね、いつも獲れるとは限らないの、野鳥だから。」つまり、ハンターの腕と運にもよるわけだ。 「で、ない時はどうする? テーブルにね、これを鳥に見立てて焼いてだすわけ。Uccellini sono scappati.(小鳥は逃げちゃった。)て言ってね。」それがロンバルディアの方言では「ウゼリン・スカパァ」になる。なるほど、イタリア語のScappatiがロンバルディアでは"パ"にアクセントでスカパァか。また口々にぱぁぱぁ言ってみる。
バルバラは酪農一家に生まれた。が、イタリアに好景気が訪れた70年代後半、彼女の父親は牛乳輸送を専門に行うようになり、最終的には足腰の強い運輸業者にまで成長した。でも、バルバラが今でも楽しく思い出す幼少の頃の思い出は牛を飼っていた頃のことだという。ここに牛舎、ここに干し草が積んであってと指で見取り図まで描きだした。「あの頃は秋になると何千、何万という小鳥で空が埋め尽くされてたのよ」と、懐かしがった。トウモロコシを刈り取った後の薄暗く果てしないパダーナの平野が暮れゆく、黒雲のごとく猛スピードで空を駆ける野鳥たちの巨大な群れ、それを一心に目で追う少女バルバラの後ろ姿が目に浮かんだ。
「おやおや、お嬢さん方、口より手を動かさないと俺たちのお腹は満たされませんぜ。」散歩に出かけていたはずの男性陣の声に慌てて時計を見ると長針があっという間に何回転かしていた。隣で4歳になるジャコミーノが「お腹空いた」を連呼する。スカパァのつけ合わせにするジャガイモの皮を慣れた手つきで夫のファビオが剥きだした。
スカパァは結構手軽な料理だ。串を焼き終えてジャガイモのピュレを添えて食卓に上ったのは間もなくだった。アツアツを口に入れて驚く。パンチェッタが塩気の効いた香ばしい焼き加減の薄皮なら、ロース肉は鳥皮の下の脂肪分の少ない胸肉さながらだった。さらにセージがさっぱり感を生んでいる。この地域の人が、昔はいかにジビエを欲した人たちだったか、そして家族を食卓でがっかりさせないためにマンマたちがどれ程考えあぐねていたかがわかる。日本でも比較的見つけやすい食材でつくるこの一品、是非お試しあれ!
ピエモンテ州在住。農林水産省を退職後2000年に渡伊。静かな山村に暮らし、農・経・食文化コーディネートでイタリア全土を駆け巡る。
作り方
- 豚ロース肉をクッキングシートの間に挟みシートの上からのす。こうすると繊維が壊れない。イタリアの肉たたきでなく、一般的な凹凸のある肉たたきならシートは要らない。(写真a 参照)
- ロース肉を5~6cm幅になるように縦長に切り、セージをのせる。(写真b 参照)
- 厚めのパンチェッタを6~7mmの賽の目に切り、セージの上からまんべんなくロース肉にのせ、パンチェッタがこぼれないように巻いていく。(写真c 参照)
- 3の上からさらに今度はスライスしたパンチェッタを巻き、串に刺し、サルシッシャも一切れ5~6cmに切り刺す。(写真d 参照)
- 一本の串に巻きロース肉が3つとサルシッチャ2切れを交互に刺す。(写真e 参照)
- フライパンを温め、バターを溶かし入れたところに、残りのセージをちぎり入れ、ローズマリーも枝から外し入れ、香りをバターにつける。(写真f 参照)
- 串を入れ、こんがり焦げ目がつくように焼き、こしょうをふる。(写真g 参照)
- 火がとおったら仕上げの白ワインをまわしかける。(写真h 参照)
- ワインが肉汁と煮詰まるくらいまで焼きあげる。ここまでの加熱時間は20分前後。(肉質による加減が必要!)(写真i 参照)
- ジャガイモを茹でる。圧力鍋なら皮つきで10分ほど、鍋で茹でるなら皮を剥いてぶつ切りにし20分ほど。茹であがったらマッシュする。(写真j 参照)
- 弱火で温めた鍋に1のジャガイモを入れ、バターを加えよく混ぜ、さらに温めた牛乳を入れる。均一になるまでよく混ぜ、塩とこの場合はナツメグで香りづけして出来上がり!(写真k 参照)