vol.55よりスタートした新コーナー「新時代のシェフを訪ねて」(提供:亀屋食品株式会社)
これからの日本のイタリア料理業界を担ってゆく若手シェフの半生と、思い入れの深い一皿にまつわるストーリーをご紹介していきます。
5回目は、長野県白馬村にある「LE VERDURE」の守本直樹さん(43)です。
もともと農業に興味があり、オープン時からシェフを務める守本直樹さんももちろん畑に出る。そんな守本さんの手がける料理は畑作業をするからこそ生まれてきた。「目の前に来た食材から始まるのではなく、畑に行って、野菜を採って、こうしたいと思ったものが料理になるんです」夏にお通しとしてメニューに並んでいた「夏アスパラと季節の貝のクリアなスープ」は、アスパラとトマトの出汁で作ったコンソメスープ。暑い日の畑作業で水を飲みながら「これが野菜の出汁だったらいいのに」と話したことがきっかけでできたものだが、このように畑の情景からさまざまな料理を思いつくのだとか。
また、守本さんは野菜や米を育てる中で見聞きしたことも料理で表現する。例えば、タマネギは葉が倒れたときに最も甘みが乗っていると聞いたら、その甘さを味わう料理を作り、上に細かく刻んだ葉を倒れたように飾って仕上げた。お客さんには料理からその裏側にあるストーリーも楽しんでもらいたいのだという。
どの料理も伝統のレシピにはない食材を使い、見た目も華やかだが、どこか親しみがある。それは大好きだという郷土料理を修業した経験あるがゆえ。「一つ要素を加えるだけでオリジナルの味になる。少し変わったことをしていても、郷土料理というベースがあるから筋が通るんです。郷土料理が食べ続けられているのはもちろんおいしいから。それにバランスがちょうどいい。そのよさは外さずに、でも、ここでしかできないことを考えています。そういう料理でないと僕が作る意味がないと思っているんです」
今回作ってくれたグリーチャに使ったのは、守本さんが修業をしたピエモンテの郷土パスタ、タヤリン。「店によって作り方がさまざまで、みんな自分のタヤリンがいちばんだと思っているんです。それもイタリア的ですよね」そう言う守本さんのタヤリンは、自社畑で育てた小麦「ゆめかおり」を使っている。黒っぽい色と味の濃さと香りの強さが特徴の小麦で、グルテンが強くないため通常よりも少なめの水分で硬めの生地にしているのだという。
パスタに限らず、イタリアと気候、天候の異なる日本で現地と同じように作っても同じ味や歯応えにはならない。修業先でタヤリンをゆで上げるときにはいつも「クロッカンテ(アルデンテのような、食感よく噛み切れる感じ)か?」と聞かれていたように、タヤリンは細麺ながら歯応えが大事なパスタ。現地で食べたパツッという歯切れのよさを再現するため試行錯誤してたどり着いたのが今の配合と作り方だった。
守本さんが目指しているのは、日本でないと、白馬でないと食べられない、そして、イタリア人がおいしいと認めてくれる料理。イタリア人のお客さんに郷土料理を学んだこと、タヤリンが好きなことを話すと「『わかっているな、それがあるからおいしいんだぞ』と言ってくれるんです」と守本さんは笑った。
焼きナスのグリーチャ
ローマの名物料理、グリーチャをピエモンテ州の郷土パスタ、タヤリンとナスでオリジナルにしたメニューは、脂と相性がいいナスをおいしく食べるために考えたもの。グアンチャーレの脂とうま味をたっぷり吸ったナスのピューレのソースとパツッという歯切れのよい自家製タヤリンがよく合う。最初にナスのソースのみで食べたら、トマトソースやジェノヴェーゼなどでさまざまな味の組み合わせを楽しんで。
材料(1人前)
・タヤリン 80g
・グアンチャーレ 30g
・丸ナス(ソースの具材用) 30g
・ナスのピューレ 40g
・白ワイン 10g
・水 80g
・塩 適量
・ペコリーノ・トスカーノ 10g
(飾り用)
・トマトソース 大さじ1
・ジェノヴェーゼ・オイル 少々
・リコッタ・チーズ 小さじ1
・長ナス・チップ 2、3枚
・グラナ・パダーノ・クロッカンテ 15g
・ビキーニョのオイル漬け(ブラジル原産の唐辛子。無ければシシトウやパプリカを食感よく炒めたもので代用可能) 少々
・バジル・フリット 少々
・マイクロ・バジル 少々
下ごしらえ
1)ナスのピューレを作る
・丸ナス 500g(3本くらい)
・長ナス(もしくは千両ナス) 90g(1本)
※作りやすい分量。多くできるので、小分けにして冷凍保存がおすすめ。パンに塗って食べてもおいしい。
①丸ナスの皮とへたを取り、3〜5mmにスライスして、オリーヴオイルで色をつけないように炒める。
②長ナスをコンロに乗せて焼き網の上で焼き、皮とへたを剥く。
③ミキサーでペースト状にする。
2)トマトソースを作る
「なつのしゅん(種と水分の少ない中玉トマト)」(なければホールトマト缶)を1/3まで煮詰めてペースト状にしたものに塩で調味裏漉して滑らかな状態にする。
3)ジェノヴェーゼ・オイルを作る
・バジル 150g
・オリーヴオイル 150g
・ニンニク 3g
・アーモンド 100g
バジル、オリーヴオイル、ニンニク、アーモンドをミキサーにかける。
3)飾りを作る
①薄切りにした長ナスを60℃のオーブンで5時間乾燥させる。
②すりおろしたグラナ・パダーノをオーブンシートに薄く広げて、電子レンジで20秒ほど(軽く色づくまで)加熱する。
③バジルを150〜160℃の揚げ油に生のバジルを入れて、泡がなくなってきたらざるに引き上げて油をしっかり切る(パチパチ弾けるので一枚ずつ。いっぺんにたくさん入れると油が溢れて危ないので注意)。
作り方
1)グアンチャーレを5mm幅のバトン状に切る。
2)フライパンにオリーヴオイルを引かずにグアンチャーレをカリカリになるまで炒めて脂を出し切る。
3)白ワインを加える。アルコールを飛ばして、水分がなくなるまで火にかける。
4)水を加えて水の中にうま味を出し、味が足りなければ塩を加えて味を調整する。
5)4)に下ごしらえしたナスのピューレと炒めた丸ナスを加える。
6)沸騰したお湯に塩を入れ、タヤリンを2分間ゆでる(ゆで時間は太さにより異なる)。
7)タヤリンをゆでている間に、別のフライパンで温めておいたトマトソースと、ジェノヴェーゼ・オイルを皿に敷いて、リコッタ・チーズを飾る。
8)ゆで上がったタヤリンを5)にからめて、7)の皿に盛る。上に、長ナス・チップ、グラナ・パダーノ・クロッカンテ、ビキーニョのオイル漬け、バジル・フリット、マイクロ・バジルを飾り、ペコリーノ・トスカーノをすりおろしてかけたら出来上がり。
ポイント
グアンチャーレから出たおいしい脂を味わうために、オリーヴオイルを使って炒めないこと。家で作る場合は、トマトソースやジェノヴェーゼなど装飾用の食材はなくてもOK。また、ナスのピューレの代わりに、グアンチャーレから出た脂で刻んだナスを炒めてパスタとからめるだけでもおいしくできる。
LE VERDURE
0261-85-2161
長野県北安曇郡白馬村神城15560
https://www.farmhakuba.jp/ristorante.html
文:河部紀子 写真:日高奈々子 写真提供:LE VERDURE
https://italiazuki.com/?p=59200
◾️新時代のシェフを訪ねて2 ITALIAN GARAGE村田友哉さん
https://italiazuki.com/?p=60371
◾️新時代のシェフを訪ねて3 PIZZERIA Kiraku 川村修也さん
https://italiazuki.com/?p=61568
◾️新時代のシェフを訪ねて4 Antica Pizzeria L’ASINELLO 大削恭介さん
https://italiazuki.com/?p=63295
これからの日本のイタリア料理業界を担ってゆく若手シェフの半生と、思い入れの深い一皿にまつわるストーリーをご紹介していきます。
5回目は、長野県白馬村にある「LE VERDURE」の守本直樹さん(43)です。
〝畑で〟生まれる唯一無二のイタリアン
白馬の雄大な自然に囲まれた「LE VERDURE」は、「白馬農場」という農業法人が母体のリストランテ。自社畑で育てた旬の食材をおいしく調理し、白馬の魅力を伝えている。もともと農業に興味があり、オープン時からシェフを務める守本直樹さんももちろん畑に出る。そんな守本さんの手がける料理は畑作業をするからこそ生まれてきた。「目の前に来た食材から始まるのではなく、畑に行って、野菜を採って、こうしたいと思ったものが料理になるんです」夏にお通しとしてメニューに並んでいた「夏アスパラと季節の貝のクリアなスープ」は、アスパラとトマトの出汁で作ったコンソメスープ。暑い日の畑作業で水を飲みながら「これが野菜の出汁だったらいいのに」と話したことがきっかけでできたものだが、このように畑の情景からさまざまな料理を思いつくのだとか。
また、守本さんは野菜や米を育てる中で見聞きしたことも料理で表現する。例えば、タマネギは葉が倒れたときに最も甘みが乗っていると聞いたら、その甘さを味わう料理を作り、上に細かく刻んだ葉を倒れたように飾って仕上げた。お客さんには料理からその裏側にあるストーリーも楽しんでもらいたいのだという。
どの料理も伝統のレシピにはない食材を使い、見た目も華やかだが、どこか親しみがある。それは大好きだという郷土料理を修業した経験あるがゆえ。「一つ要素を加えるだけでオリジナルの味になる。少し変わったことをしていても、郷土料理というベースがあるから筋が通るんです。郷土料理が食べ続けられているのはもちろんおいしいから。それにバランスがちょうどいい。そのよさは外さずに、でも、ここでしかできないことを考えています。そういう料理でないと僕が作る意味がないと思っているんです」
今回作ってくれたグリーチャに使ったのは、守本さんが修業をしたピエモンテの郷土パスタ、タヤリン。「店によって作り方がさまざまで、みんな自分のタヤリンがいちばんだと思っているんです。それもイタリア的ですよね」そう言う守本さんのタヤリンは、自社畑で育てた小麦「ゆめかおり」を使っている。黒っぽい色と味の濃さと香りの強さが特徴の小麦で、グルテンが強くないため通常よりも少なめの水分で硬めの生地にしているのだという。
パスタに限らず、イタリアと気候、天候の異なる日本で現地と同じように作っても同じ味や歯応えにはならない。修業先でタヤリンをゆで上げるときにはいつも「クロッカンテ(アルデンテのような、食感よく噛み切れる感じ)か?」と聞かれていたように、タヤリンは細麺ながら歯応えが大事なパスタ。現地で食べたパツッという歯切れのよさを再現するため試行錯誤してたどり着いたのが今の配合と作り方だった。
守本さんが目指しているのは、日本でないと、白馬でないと食べられない、そして、イタリア人がおいしいと認めてくれる料理。イタリア人のお客さんに郷土料理を学んだこと、タヤリンが好きなことを話すと「『わかっているな、それがあるからおいしいんだぞ』と言ってくれるんです」と守本さんは笑った。
〈レシピ〉
焼きナスのグリーチャ
ローマの名物料理、グリーチャをピエモンテ州の郷土パスタ、タヤリンとナスでオリジナルにしたメニューは、脂と相性がいいナスをおいしく食べるために考えたもの。グアンチャーレの脂とうま味をたっぷり吸ったナスのピューレのソースとパツッという歯切れのよい自家製タヤリンがよく合う。最初にナスのソースのみで食べたら、トマトソースやジェノヴェーゼなどでさまざまな味の組み合わせを楽しんで。
材料(1人前)
・タヤリン 80g
・グアンチャーレ 30g
・丸ナス(ソースの具材用) 30g
・ナスのピューレ 40g
・白ワイン 10g
・水 80g
・塩 適量
・ペコリーノ・トスカーノ 10g
(飾り用)
・トマトソース 大さじ1
・ジェノヴェーゼ・オイル 少々
・リコッタ・チーズ 小さじ1
・長ナス・チップ 2、3枚
・グラナ・パダーノ・クロッカンテ 15g
・ビキーニョのオイル漬け(ブラジル原産の唐辛子。無ければシシトウやパプリカを食感よく炒めたもので代用可能) 少々
・バジル・フリット 少々
・マイクロ・バジル 少々
下ごしらえ
1)ナスのピューレを作る
・丸ナス 500g(3本くらい)
・長ナス(もしくは千両ナス) 90g(1本)
※作りやすい分量。多くできるので、小分けにして冷凍保存がおすすめ。パンに塗って食べてもおいしい。
①丸ナスの皮とへたを取り、3〜5mmにスライスして、オリーヴオイルで色をつけないように炒める。
②長ナスをコンロに乗せて焼き網の上で焼き、皮とへたを剥く。
③ミキサーでペースト状にする。
2)トマトソースを作る
「なつのしゅん(種と水分の少ない中玉トマト)」(なければホールトマト缶)を1/3まで煮詰めてペースト状にしたものに塩で調味裏漉して滑らかな状態にする。
3)ジェノヴェーゼ・オイルを作る
・バジル 150g
・オリーヴオイル 150g
・ニンニク 3g
・アーモンド 100g
バジル、オリーヴオイル、ニンニク、アーモンドをミキサーにかける。
3)飾りを作る
①薄切りにした長ナスを60℃のオーブンで5時間乾燥させる。
②すりおろしたグラナ・パダーノをオーブンシートに薄く広げて、電子レンジで20秒ほど(軽く色づくまで)加熱する。
③バジルを150〜160℃の揚げ油に生のバジルを入れて、泡がなくなってきたらざるに引き上げて油をしっかり切る(パチパチ弾けるので一枚ずつ。いっぺんにたくさん入れると油が溢れて危ないので注意)。
作り方
1)グアンチャーレを5mm幅のバトン状に切る。
2)フライパンにオリーヴオイルを引かずにグアンチャーレをカリカリになるまで炒めて脂を出し切る。
3)白ワインを加える。アルコールを飛ばして、水分がなくなるまで火にかける。
4)水を加えて水の中にうま味を出し、味が足りなければ塩を加えて味を調整する。
5)4)に下ごしらえしたナスのピューレと炒めた丸ナスを加える。
6)沸騰したお湯に塩を入れ、タヤリンを2分間ゆでる(ゆで時間は太さにより異なる)。
7)タヤリンをゆでている間に、別のフライパンで温めておいたトマトソースと、ジェノヴェーゼ・オイルを皿に敷いて、リコッタ・チーズを飾る。
8)ゆで上がったタヤリンを5)にからめて、7)の皿に盛る。上に、長ナス・チップ、グラナ・パダーノ・クロッカンテ、ビキーニョのオイル漬け、バジル・フリット、マイクロ・バジルを飾り、ペコリーノ・トスカーノをすりおろしてかけたら出来上がり。
ポイント
グアンチャーレから出たおいしい脂を味わうために、オリーヴオイルを使って炒めないこと。家で作る場合は、トマトソースやジェノヴェーゼなど装飾用の食材はなくてもOK。また、ナスのピューレの代わりに、グアンチャーレから出た脂で刻んだナスを炒めてパスタとからめるだけでもおいしくできる。
LE VERDURE
0261-85-2161
長野県北安曇郡白馬村神城15560
https://www.farmhakuba.jp/ristorante.html
文:河部紀子 写真:日高奈々子 写真提供:LE VERDURE
▼これまでの連載記事▼
◾️新時代のシェフを訪ねて1 VIA DEI PEPI岡本紘明さんhttps://italiazuki.com/?p=59200
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◾️新時代のシェフを訪ねて4 Antica Pizzeria L’ASINELLO 大削恭介さん
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