お料理説明・背景
カンパーニア州アヴェリーノ県ヌスコは、州都ナポリから東へ車で1時間半くらいのところにある、昔ながらの面影を残した村だ。
取材は2012年のことだからもう12年も前のことになる。カンパーニア州の特集でチレント地方の取材をする途中で、当時連載的に組んでいた腕効きシェフのレシピという企画で訪れたのが「ラ・ロカンダ・ディ・ブー」のアントニオ・ピザニエッロさんだった。店は中世の面影を残す小さな村の中にあったのに、店内は意外にも、洗練されたスタイリッシュなデザインが印象的だった。
最初に案内されたのは車で10分ほど行ったところにあるポンテ・ロミートにある彼の菜園だった。彼の出身地でもある。そこで農家に依頼して、野菜から小麦まで栽培してもらっているというのだ。畑を案内しながら、土を触り、匂いを嗅いでいかにこの場所が健全であるかをアピールしている。そして、小さなナイフでこの後我々のために使う野菜をササっと収穫した。その姿がなんかスマートでかっこよかった。
レストランに戻りレシピの取材で準備していたのは、旬のソラ豆を使ったショートパスタだった。地中海ダイエットでも知られるチレント地方もよく豆を食べるが、同じ様にアヴェリーノ周辺でもさまざまな豆を食べるという。自家製の小麦を使って、手際よくパスタを作る。少し寝かせている間にソースに取り掛かる。シンプルなオイルベースのソースだが豆の甘味とうま味を十分に感じることができとてもおいしい。本誌を見返すと、「アヴェリーノに来たら豆料理食べなきゃ」と吹き出しに書いてあった。それだけこの地方の豆料理が庶民にとって大切な郷土料理と話していたのだ。
他の皿も地域の特産や旬の食材を使った料理が並んだ。それらは郷土料理を昇華させた料理でありながらも、手を入れ込み過ぎていない、ベースのしっかりした食材の味を活かしたセンスのよい料理で、どれもおいしく食べたのをよく覚えている。
現在、レストランは閉店しているようで、アントニオ・ピザニエッロさんはニューヨークで料理人をやっているようだが詳細は追えていない。でも、この取材のとき「将来はローマやミラノ、またはイタリア以外の大都市で店を開くのが夢で、地元の食材や伝統を発信していきたい」と語っていたので、その夢が実現したのかもしれない。
昔の記事や取材ノートを見返しながら、当時の畑の様子や、飄々と料理をするアントニオ・ピザニエッロさんの姿を思い出し、また彼の料理を食べたいと思った。
作り方
- 生地は、小麦粉で土手をつくり、お湯を少しずつ足しながら混ぜ、ひとつにまとめていく。
- (1)をぬれた布きんで包み20分置く。
- (2)を適当な量を取り、直径1cmくらいの棒状に伸ばし、包丁で6cm間隔に切る。
- 中指の腹を使って前後に伸ばす。できたものはくっつかないように並べておく。(写真a,b 参照)
- フライパンに、エクストラ・ヴァージン・オリーヴオイルを入れ、オイルが温まったら、タマネギを透明になるまで炒め、グアンチャーレを入れる。(写真c 参照)
- 続いて、ソラ豆、コショウ、野菜のブイヨンを入れ、全体がしんなりしたら、塩を2つまみ足して弱火で少し煮詰める。(写真d,e 参照)
- (6)から1/3量のソラ豆を取り除いておき、他はミキサーに入れ、なめらかなソースにする。
- たっぷりの沸騰したお湯に塩を入れて、(4)のフジレッティを3分ゆでる。
- (7)のソース、1/3量のソラ豆をフライパンで温め、ゆでたフジレッティを加える。
- 火を止めてからペコリーノを入れ、エクストラ・ヴァージン・オリーヴオイルを回しかける。(写真f 参照)
- お皿に盛り、ミントの葉を飾ってでき上がり。