お料理説明・背景
三人兄弟の長女として育ったマルゲリータさん。品行方正でとびきり面倒見がよい彼女は教師という天職に恵まれた。教え子たちと友情や愛情を分かち合い、人として誰かの役にたつことの意味ややりがいを知り、退職後からは末期がんの人をケアするボランティア団体の支部長を務める。困っている人を献身的に助ける彼女の周りは常に温かく支えてくれる人であふれている。
今回、彼女が紹介するのが、プーリア料理として名高い「パンツェロッティ」だ。あなたのおふくろの味は?と聞かれると、この料理を挙げるプーリア人は多いだろう。州都バーリ発祥といわれ、手のひらサイズの半月型をした揚げピザだ。今では北から南までプーリア州の隅々で食べられている。さらに、貧困から逃れるために移住したプーリア人によりイタリア全土に持ち込まれ、国内各地で見かけるようになった。
日本の旅行者にはミラノのルイ―ニというお店が有名で、パンツェロッティをミラノ名物と勘違いしている人も多いが、れっきとした元祖プーリア料理だ。この逸品が誕生したのは16世紀。とある農婦が余ったパン生地で家にあったトマトとモッツァレラチーズを包んで油で揚げた。これが驚くほどおいしく、瞬く間にバーリの家庭で広まったのである。
料理名は方言でお腹を意味するパンツァからきている。揚げているうちにどんどん生地が膨らみ、ふっくらとした形になるからだ。尚、1つの場合の呼び方はパンツェロットになり、2つ以上がパンツェロッティとなる。州南部のサレント地方ではカルツオーネと呼ぶ地域もあり、さらに、ナポリでは格段にサイズが大きくなり、揚げピザを意味するピッツァ・フリッタと呼ばれる。
包む具材の組合せはトマトとモッツァレラが定番だ。他にはトマトの代わりにチーマ・ディ・ラーパ(青菜)や炒めた牛肉を入れたりする。プーリアのホームパーティーでは欠かせない料理でマンマがキッチンでせっせと仕込み、揚げたてをみんなに振る舞う。小ぶりなので一人5~6個はパクパクといける。マルゲリータさんも自宅でよく客人にパンツェロッティをご馳走するそうだ。
作り方はシンプルだが、生地を仕込む作業はちょっとした経験値が必要になる。その日の気温と湿度により、生地の仕上がりが異なるからだ。プーリアでは母から娘へ受け継がれるひと皿で、何度も一緒に作り、その微妙な調整の具合を体で覚える。尚、バーリではストリートフードの定番でパンツェロッティの専門店(パンツェロッテリア)も存在する。旅行で立ち寄った際にはぜひトライしよう!
イタリア政府公認添乗員。世界遺産の町アルベロベッロで会社員として勤務する傍ら、自宅にてチーズと郷土料理の教室「南イタリアチーズ&料理教室」を主宰。オリーブオイルソムリエとチーズテイスターの知識をベースにプーリアの食を探求する日々を送る。
作り方
下ごしらえ
- フレッシュトマト、モッツァレッラチーズを1cm角の大きさに切る。バジルは手で食べやすい大きさにちぎる。(写真a 参照)
- ザルにトマト、モッツアレラチーズ、バジルを入れて混ぜ、塩コショウをして1~2時間ほど水分を切る。(写真b 参照)
作り方
- 片手鍋にぬるま湯を用意し、塩を入れる。ボウルに強力粉、イースト菌、オリーヴオイル、牛乳、砂糖を入れ、軽く手でかき混ぜる。(写真c 参照))
- 1のボウルに塩が入ったぬるま湯を少量ずつ加え、手でよくこねる。(写真d 参照)
- 生地が耳たぶくらいの硬さになったら、ボウルから取り出す。目安として、指で押すと跡がのこる程度。(写真e 参照)
- 取り出した生地を一口大の大きさに丸め、全部で30個ほどつくる。(写真f 参照)
- 生地を濡れ布巾で覆い、常温で30分(夏)から1時間程度(冬)休ませる。(写真g 参照)
- 麺棒で生地を直径12㎝程度の大きさに伸ばす。(写真h 参照)
- 生地にティースプーン2杯くらいの具をのせて半月型になるように成形する。(写真i 参照)
- 閉じ口をフォークの先で強く押し、揚げたときに具が出るのを防ぐ。(写真j 参照)
- 180℃の油でこんがりきつね色に揚げる。(写真k 参照)
- 揚げたてをお皿に盛り付け、すぐに頬張る。(写真l 参照)