ドロミティの谷からベンヴェニュイ‼ラディン語を話すイタリアの村
四方、どこを見てもゴツゴツの岩山がそびえるファッサ渓谷。標高1,400mに位置するドロミティの谷の村、カナゼイの夏は登山や避暑に訪れる観光客で大いににぎわい、冬にはスキー拠点としても大人気だ。
“Benvegnui!!”と出迎えてくれたのはCesa Roticを経営するジルダさんとマルコさんの若い夫妻。Cesa Roticは、1979年にジルダさんの祖母がオープンした居心地の良いB&Bである。
その祖母がまだ幼かった頃、夏になると家族みんなで近所の家畜小屋に移って過ごし、住んでいる家を観光客に貸すようになった。それがこのゲストハウスの原点。ジルダさんはそんな祖母の先見の明に深く感謝しているそうだ。
さて、ファッサ渓谷を散策していると、ところどころイタリア語とは異なる表示があることに興味がわいた。これは単なる方言ではない。一つの言語、その名もラディン語である。ドロミティ地域を中心に話される、話者約3万人の希少言語だ。
ラディン語については、『イタリア好き』50号の連載「地方のイタリア語」の中でも詳しく紹介されているが、実際に触れてみるともっと知りたくなる。この地で生まれ育ったジルダさんにそんな好奇心を伝えると、多忙の合間を縫って興味深い話をしてくれたので、ここでぜひ共有したい。
そもそも、ラディン語とイタリア語ってどれくらい似ていて、どれくらい違うのだろうか。ジルダさんによると、ラディン語は5種類の方言に分かれ、渓谷ごとに少しずつ異なるのだが、ファッサ渓谷で話されるラディン語は一番イタリア語に近いんだとか。特に文法はかなり似ているため、単語の違いのほうが大きいようだ。
「観光客が多い地域なので、外から来るイタリアの方とは自然にイタリア語になりますね」というジルダさん。逆にどれくらいラディン語を使用しているのか聞いてみると、
「家族や地元の人たち、役場やお店の人とは子どもの頃からラディン語を話しているし、娘と話すときもラディン語を使うようにしています」
と、子どもの頃から当たり前のようにラディン語を使用。学校での授業はイタリア語で行われるものの、
「英語やドイツ語を学ぶのと同じ感覚で、ラディン語の単語を習ったり、童謡を歌ったりしますよ。」
小・中学校では週に1~2時間、ラディン語という科目があるらしい。
日々の生活の中でも、テレビなどのメディアを通してラディン語に触れる機会はしっかりとある。
「イタリアの公共放送、RAIのローカル版には毎日ラディン語のニュースの時間があります。ラディン語のラジオ番組もいろいろあって、たとえば郷土料理のレシピをラディン語で説明してくれる“Che metone pa anché sorafech?”という番組が好きですね」
えっ?と番組名を聞き取れずに戸惑っていたら、イタリア語に訳してくれた。“Cosa mettiamo oggi in pentola / sul fuoco?”(今日は何を鍋に入れて火にかけようかしら?)ラディン語の響きは独特で、なかなか難しい。
ラディン語ならではの言い回しを教えてもらうと「他にももっとあるはずなんだけど、なかなか思い浮かばない…」と前置きした上で、 “Ties te mez desche un jebia”を挙げる。全く見当がつかないが、「イタリア語だと“Sei in mezzo come il giovedì”って感じかな。」つまり、直訳は「君は木曜日みたいに真ん中にいる」⇒⇒⇒「そこ、邪魔だからどいて」ってニュアンスだというからおもしろい。こんな話を通して、たとえ話者数は少なくとも、ラディン語は大切にされ、暮らしに根付いている言語なのだと感じられた。
実は、3度の来日経験があるほど日本好きのジルダさんとマルコさんは、娘の名前を日本語にするほど、その響きが好きなのだと言う。
「日本では自然豊かな田舎町もたくさん回りましたよ。町から遠いと不便なこともあるけれど、山村は静かで落ち着いていてやっぱり好き。今後も無理のない範囲でアットホームなB&Bを続けていきたいと思っているので、日本の皆様もぜひファッサ渓谷にお越しの際はお立ち寄りくださいね」とジルダさん。
もし日本からのお客様がここに滞在すれば、彼らと日本の話で盛り上がること間違いない。山登りやスキーの後のほっと一息、くつろげる我が家のようなCesa Roticで過ごしてみては。
Un ringraziamento a
B&B Cesa Rotic
Via de Costa 236
38032 Alba di Canazei (TN)
Website
“Benvegnui!!”と出迎えてくれたのはCesa Roticを経営するジルダさんとマルコさんの若い夫妻。Cesa Roticは、1979年にジルダさんの祖母がオープンした居心地の良いB&Bである。
その祖母がまだ幼かった頃、夏になると家族みんなで近所の家畜小屋に移って過ごし、住んでいる家を観光客に貸すようになった。それがこのゲストハウスの原点。ジルダさんはそんな祖母の先見の明に深く感謝しているそうだ。
さて、ファッサ渓谷を散策していると、ところどころイタリア語とは異なる表示があることに興味がわいた。これは単なる方言ではない。一つの言語、その名もラディン語である。ドロミティ地域を中心に話される、話者約3万人の希少言語だ。
ラディン語については、『イタリア好き』50号の連載「地方のイタリア語」の中でも詳しく紹介されているが、実際に触れてみるともっと知りたくなる。この地で生まれ育ったジルダさんにそんな好奇心を伝えると、多忙の合間を縫って興味深い話をしてくれたので、ここでぜひ共有したい。
そもそも、ラディン語とイタリア語ってどれくらい似ていて、どれくらい違うのだろうか。ジルダさんによると、ラディン語は5種類の方言に分かれ、渓谷ごとに少しずつ異なるのだが、ファッサ渓谷で話されるラディン語は一番イタリア語に近いんだとか。特に文法はかなり似ているため、単語の違いのほうが大きいようだ。
「観光客が多い地域なので、外から来るイタリアの方とは自然にイタリア語になりますね」というジルダさん。逆にどれくらいラディン語を使用しているのか聞いてみると、
「家族や地元の人たち、役場やお店の人とは子どもの頃からラディン語を話しているし、娘と話すときもラディン語を使うようにしています」
と、子どもの頃から当たり前のようにラディン語を使用。学校での授業はイタリア語で行われるものの、
「英語やドイツ語を学ぶのと同じ感覚で、ラディン語の単語を習ったり、童謡を歌ったりしますよ。」
小・中学校では週に1~2時間、ラディン語という科目があるらしい。
日々の生活の中でも、テレビなどのメディアを通してラディン語に触れる機会はしっかりとある。
「イタリアの公共放送、RAIのローカル版には毎日ラディン語のニュースの時間があります。ラディン語のラジオ番組もいろいろあって、たとえば郷土料理のレシピをラディン語で説明してくれる“Che metone pa anché sorafech?”という番組が好きですね」
えっ?と番組名を聞き取れずに戸惑っていたら、イタリア語に訳してくれた。“Cosa mettiamo oggi in pentola / sul fuoco?”(今日は何を鍋に入れて火にかけようかしら?)ラディン語の響きは独特で、なかなか難しい。
ラディン語ならではの言い回しを教えてもらうと「他にももっとあるはずなんだけど、なかなか思い浮かばない…」と前置きした上で、 “Ties te mez desche un jebia”を挙げる。全く見当がつかないが、「イタリア語だと“Sei in mezzo come il giovedì”って感じかな。」つまり、直訳は「君は木曜日みたいに真ん中にいる」⇒⇒⇒「そこ、邪魔だからどいて」ってニュアンスだというからおもしろい。こんな話を通して、たとえ話者数は少なくとも、ラディン語は大切にされ、暮らしに根付いている言語なのだと感じられた。
実は、3度の来日経験があるほど日本好きのジルダさんとマルコさんは、娘の名前を日本語にするほど、その響きが好きなのだと言う。
「日本では自然豊かな田舎町もたくさん回りましたよ。町から遠いと不便なこともあるけれど、山村は静かで落ち着いていてやっぱり好き。今後も無理のない範囲でアットホームなB&Bを続けていきたいと思っているので、日本の皆様もぜひファッサ渓谷にお越しの際はお立ち寄りくださいね」とジルダさん。
もし日本からのお客様がここに滞在すれば、彼らと日本の話で盛り上がること間違いない。山登りやスキーの後のほっと一息、くつろげる我が家のようなCesa Roticで過ごしてみては。
Un ringraziamento a
B&B Cesa Rotic
Via de Costa 236
38032 Alba di Canazei (TN)
Website