マンマの紹介
- アンナマリア・ディンノチェンテ(Annamaria D’Innocente) さん
- アブルッツォ州サンブチェート在住
- 得意料理:サーニェ(※)、キタッラ(※)、ラビオリ、ニョッキなど手打ちパスタ全般。手打ちパスタ店を経営していたこともあるパスタ名人。「Faccio subito!(すぐやるわよ!)」と言って、毎回2〜3種類のパスタを手早く作る。週末になると彼女の料理を食べようと親戚や近所の友人が集まる。そんな時いつも「ここはみんなの港ね」と嬉しそうに笑う。 (※)アブルッツォの郷土パスタ
お料理説明・背景
手早く作れてアレンジが容易、それでいて少し珍しさもあるのでおもてなしにも良さそうな一皿。
一般的にクレープと言えばフランスの、しかもスイーツのイメージが強い。実際、イタリア料理としてクレープを食べる事自体、あまり馴染みが無い上に、スープに浸して食べるというのは本場フランスでも聞いたことがないように思う。
ところがアブルッツォ州の北側に位置するテラモ県では、実はとてもメジャーな郷土料理のひとつ。このちょっと風変わりな料理の誕生エピソードは19世紀前半に遡る。当時、テラモのフランス公館の食堂でアシスタントとして働いていた料理人エンリコ・カストラーニは、ある日、パンの代わりに、と用意していたクレープ生地を誤って容器ごとチキンスープが入った鍋の中に落としてしまう。捨てるわけにもいかずそのままスープとして提供してみると、意外にも評判が良かった、というのがよく知られた話だ。
この料理は家庭で簡単に揃うシンプルな材料で、必要な分だけすぐに作れる上にアレンジの幅が広いのも、長く親しまれている所以だろう。例えば、ラザーニャ生地の代わりにミートソースやチーズを重ねてオーブンで焼いたり、リコッタチーズやほうれん草を筒状に包んでカネロニしたり、ひき肉やチーズなどを入れて袋のように包んだりする。もちろん今回の様にシンプルに食べるのも、忙しいときや少し胃が疲れているときにも優しくてお勧めだ。
また、私にとってはクリスマスの一皿というイメージもある。通常、アブルッツォ州の多くの家庭では、クリスマスには鶏や七面鳥で出汁をとったチキンスープに、カルドーネと呼ばれる、アーティチョークの茎を丁寧に下処理して刻んだものや小さなミートボール、チーズをたっぷり入れたクルトン(の様なもの)を入れたものが出される。家庭によってはここに今回のクレープも入れる。私のクレープスープ初体験はまさにこのクリスマス仕様のものだった。これから温かいスープが恋しくなる季節。最初は少し抵抗があるかも知れませんが、一度騙されたと思って、試してみてはいかがでしょうか。
ちなみに、水、塩の代わりに牛乳、砂糖を入れると甘いお菓子のクレープとして楽しめます。
2002年のアブルッツォ留学をきっかけに、現在は大阪とアブルッツォの2拠点生活を行う。関西を中心に都市計画コンサルタントとして地域ブランディングに携わる傍ら、SNSや寄稿などを通して州の魅力やくらしを発信している。