ヴェノスタ渓谷(後編) ロマネスク芸術を巡る旅
アルト・アディジェ地方、スイスやオーストリアとの国境にあるヴェノスタ渓谷。前編ではレージア湖の鐘楼やステルヴィオ峠を取り上げましたが、今回ご紹介したいのは、この地域一帯に散らばるロマネスク建築。小さなアルプスの村々を巡っていると、まず目を引くのが大小の教会です。素朴な外観の小さな中世の教会は風情があり、興味をそそられます。
かつて、商人など多くの人が行き来し発展していったこの地域は、ヨーロッパ北部からの巡礼者たちもローマやエルサレムを目指して通っていたため、数々の教会が建てられたのだそう。
山の上の教会などは常に鍵がかかっていて公開されていない、もしくは週に一度のガイドツアーのみ、と予定を合わせるのが難しく、外観だけ眺めて泣く泣く引き返すときも多いです。
ただし、鍵の所有者に連絡をして開けてもらったり、近隣のホテルやバールが鍵を管理している場合には、鍵を借りに行ったりすることもあります。重厚な鍵が時代を感じさせるとともに、ローカル感半端ないのがこの教会巡りの味わい深いところです。
開館時間のはずなのに閉まっている、なんてことも何度も経験しているので、緑豊かで長閑なこの田舎を周遊するには、柔軟性やゆとりが大事だとつくづく感じます。しかし、もし中には入れなかったとしても、外観をしっかり見ると貴重な何かがあるかもしれません。がっかりしすぎず探してみましょう。
たとえばこれは、教会の外壁に彫られた魔物のような架空の存在。このように教会入口の外側や外壁によく配置されているモンスターは、魔除けの役割を果たしています。つまり、キリスト教は悪を寄せ付けず、守られているのだということを表す典型的なロマネスク美術なのです。
フレスコ画が見事に残る教会は、スタッフによって管理されていることもあります。中でもイチオシなのが、ナトゥルノという村のサン・プロコロ教会。
1180年頃に建てられたロマネスク様式の鐘楼が美しく、まず目に入りますが、実はもともとの建設はもっともっと古く、内部には800年頃の、カール大帝の時代に描かれた貴重なフレスコ画も残ります。フレスコ画は長い間、漆喰に覆われていたおかげで奇跡的に保存状態がかなり良く、特に有名なのが、こちらのブランコに乗ったかのような聖人。
伝承によると、これは3世紀末にヴェローナの司教であった聖プロコロのエピソードが描かれたものです。まだキリスト教が公認されていなかった時代、当時のローマ皇帝ディオクレティアヌス帝から迫害を受けていた聖プロコロは、ロープを使って城壁を越え、ヴェローナから脱出したと言われています。
また、スイスとの国境の村、トゥーブレにも素敵なロマネスクの教会が。
中に入ると天井にまで残るフレスコ画が圧巻で、見応えたっぷりです。
これらのフレスコ画はゴシック様式へと移っていく1220年頃のもの。教会自体はロマネスク建築でも、改築や増築、フレスコ画を新たに描くなど、時代の流行りに合わせてアップデートされていくのはよくあることなんです。
さて、『イタリア好き』の今月号は修道院特集ですが、ここにも立派な中世の修道院が。
このモンテ・マリア修道院は標高1340メートルに位置し、ヨーロッパで一番標高の高いベネディクト会の修道院として知られています。
「オーラ・エ・ラボーラ」と大きく掲げられていますが、特集をご覧になった方なら、その意味もきっとおわかりになるはず。
教会のポルターレ(正面入り口)にはロマネスク様式がはっきりと見て取れます。
さらに、この周辺は中世のお城も魅力的。
1200年代後半に建てられたロマネスク様式の素敵なコイラ城は、その面影を残しながらも後にゴシック様式、ルネサンス様式へと改築、増築されていったのがよくわかります。
そして、ヴェノスタ渓谷の少し外れには、アルト・アディジェ地方で最も重要なお城の1つ、チロル城が孤高の姿を見せるのです。
お城の内部にある教会の入口に彫られた1140年頃の彫刻は必見中の必見。
いくつものモンスターたちが出迎えてくれますが、アダムとイヴのこの部分だけを見ても、このクオリティの高さに驚かされます。
今回はほんの一部の例をそれぞれの歴史には触れず、駆け足で取り上げてみました。このエリアにはまだまだたくさんのロマネスク様式が点在しているため、ゆったりとアルプスの大自然を楽しみながら、じっくりとロマネスク芸術に浸ってみてはいかがでしょうか。
かつて、商人など多くの人が行き来し発展していったこの地域は、ヨーロッパ北部からの巡礼者たちもローマやエルサレムを目指して通っていたため、数々の教会が建てられたのだそう。
山の上の教会などは常に鍵がかかっていて公開されていない、もしくは週に一度のガイドツアーのみ、と予定を合わせるのが難しく、外観だけ眺めて泣く泣く引き返すときも多いです。
ただし、鍵の所有者に連絡をして開けてもらったり、近隣のホテルやバールが鍵を管理している場合には、鍵を借りに行ったりすることもあります。重厚な鍵が時代を感じさせるとともに、ローカル感半端ないのがこの教会巡りの味わい深いところです。
開館時間のはずなのに閉まっている、なんてことも何度も経験しているので、緑豊かで長閑なこの田舎を周遊するには、柔軟性やゆとりが大事だとつくづく感じます。しかし、もし中には入れなかったとしても、外観をしっかり見ると貴重な何かがあるかもしれません。がっかりしすぎず探してみましょう。
たとえばこれは、教会の外壁に彫られた魔物のような架空の存在。このように教会入口の外側や外壁によく配置されているモンスターは、魔除けの役割を果たしています。つまり、キリスト教は悪を寄せ付けず、守られているのだということを表す典型的なロマネスク美術なのです。
フレスコ画が見事に残る教会は、スタッフによって管理されていることもあります。中でもイチオシなのが、ナトゥルノという村のサン・プロコロ教会。
1180年頃に建てられたロマネスク様式の鐘楼が美しく、まず目に入りますが、実はもともとの建設はもっともっと古く、内部には800年頃の、カール大帝の時代に描かれた貴重なフレスコ画も残ります。フレスコ画は長い間、漆喰に覆われていたおかげで奇跡的に保存状態がかなり良く、特に有名なのが、こちらのブランコに乗ったかのような聖人。
伝承によると、これは3世紀末にヴェローナの司教であった聖プロコロのエピソードが描かれたものです。まだキリスト教が公認されていなかった時代、当時のローマ皇帝ディオクレティアヌス帝から迫害を受けていた聖プロコロは、ロープを使って城壁を越え、ヴェローナから脱出したと言われています。
また、スイスとの国境の村、トゥーブレにも素敵なロマネスクの教会が。
中に入ると天井にまで残るフレスコ画が圧巻で、見応えたっぷりです。
これらのフレスコ画はゴシック様式へと移っていく1220年頃のもの。教会自体はロマネスク建築でも、改築や増築、フレスコ画を新たに描くなど、時代の流行りに合わせてアップデートされていくのはよくあることなんです。
さて、『イタリア好き』の今月号は修道院特集ですが、ここにも立派な中世の修道院が。
このモンテ・マリア修道院は標高1340メートルに位置し、ヨーロッパで一番標高の高いベネディクト会の修道院として知られています。
「オーラ・エ・ラボーラ」と大きく掲げられていますが、特集をご覧になった方なら、その意味もきっとおわかりになるはず。
教会のポルターレ(正面入り口)にはロマネスク様式がはっきりと見て取れます。
さらに、この周辺は中世のお城も魅力的。
1200年代後半に建てられたロマネスク様式の素敵なコイラ城は、その面影を残しながらも後にゴシック様式、ルネサンス様式へと改築、増築されていったのがよくわかります。
そして、ヴェノスタ渓谷の少し外れには、アルト・アディジェ地方で最も重要なお城の1つ、チロル城が孤高の姿を見せるのです。
お城の内部にある教会の入口に彫られた1140年頃の彫刻は必見中の必見。
いくつものモンスターたちが出迎えてくれますが、アダムとイヴのこの部分だけを見ても、このクオリティの高さに驚かされます。
今回はほんの一部の例をそれぞれの歴史には触れず、駆け足で取り上げてみました。このエリアにはまだまだたくさんのロマネスク様式が点在しているため、ゆったりとアルプスの大自然を楽しみながら、じっくりとロマネスク芸術に浸ってみてはいかがでしょうか。