2000年前は何を食べていた?2人の名シェフによる古代ローマ料理のフュージョン
以前、2021年秋の『イタリア好き』ワイン特集号で「古代ローマ遺跡の上に実るブドウ」を紹介した。赤ワインの名産地ヴァルポリチェッラでこのブドウ畑を所有するワイナリー「フランキーニ」は、遺跡発掘作業のために樹齢90年ものブドウの木々を別の畑に移植。あれから1年以上経ち、ブドウの木々は順調に育っているという。
この古代ローマ遺跡に残されたモザイク床の発掘も進み、公開に向けて国が整備中だが、そんな折、フランキーニの新作赤ワイン「インぺリウム」発表に合わせて企画されたのが、古代ローマ料理の再現だ。とはいえ、このコンセプトとシェフのアイデアのフュージョンであることは最初に断っておこう。
腕を振るうのは、在外イタリア大使館や海外の一流レストランで経験を積んできたシェフ、ヌンツィオとアンジェロ。
彼らによると、古代ローマ時代には前菜、プリモ、セコンドという現在のイタリア料理にあるようなスタイルはなく、食事の途中によくフレッシュフルーツを口にしていたという。が、今回はフルーツはなし。前菜もあえて一品用意したとのことだった。しかしながら、調理はローマ人に倣って炭火焼き、もしくは窯の使用が徹底された。
最初に出されたのは古代ローマ風の平べったいパン。当時のパンは酵母を使わず、炭火で焼かれていたそうだ。古代小麦の一種グラノットを使い、しっかりと焼き跡が残った炭火焼パンは、噛むと表面はカリッ。口には素朴な甘みが広がった。
前菜としてはグラノットを茹でたもの。プチプチした食感が美味しく、そこに合わせられた野草セイヨウイラクサやラムソン(クマニンニク)が豊かな風味を加えていた。
トマトもジャガイモもまだまだなかったような時代だ。ローマ人たちは野草や香草を多用していたとのこと。たとえば、利尿作用および殺菌作用のあるゼニアオイの葉や消化促進やリフレッシュ効果のあるというブルスカンドリ(野生ホップの新芽)などもその一つである。
メインで食されていたのは今と同じく肉や魚で、好んで食べられていたという淡水魚の中からウナギ料理を2種類味わった。体長1メートル近くのウナギの皮をはいで丸焼きにし、一皿目は叩いて野草と巻き、ローストしたものをハチミツ甘酢のマリネに。
二皿目はとろとろの脂身をセルリアックに載せ、野生のアスパラを添えて。セルリアックは古代ギリシャの頃からすでに知られていたようだ。濃ゆいウナギを食べつつ、セルリアックが口の中を洗ってくれるような感覚で、絶妙の組み合わせであった。ソースには、これまた古代ローマの人々が大好きだったハチミツとローリエを使用している。ハチミツといえば、砂糖がまだなかったこの頃、男性陣は養蜂&採蜜ができて当たり前で、ワインにもハチミツを入れて甘くしていたほど重宝されていた調味料である。
最後の一品にはチョウザメの香草焼きをいただいた。7~8歳に成熟した貴重なバルチックチョウザメをワインに漬けた後、みじん切りにしたコリアンダー、ショウガ、クミン、パセリ、マジョラム、タイムで包み、まるごと窯で蒸し焼きにしている。
引き締まった身には旨味が凝縮されていて、それだけでも美味しいのだが、特筆すべきはかけられたソース。古代ローマ人が愛用していたというガルムである。カタクチイワシの内臓を2か月ほど天日干しにして発酵させた魚醤ガルムは、ニンニクを牛乳で煮たガーリックソースに混ぜられていて臭みがなく、繊細なアクセントを与える程度の上品なコクがあった。
このように丁寧に作られた特別な料理には同レベルのワインが必要であり、飲みごたえのあるフランキーニの「インペリウム」はまさに最適であったと言える。
ヴァルポリチェッラのワインといえばアマローネが有名だが、この「インペリウム」はさらにレベルが高い。21種類ものブドウ品種を厳選して混ぜ合わせた複雑で豊かな風味は、ウナギやチョウザメの強く独特な味わいをより一層引き立ててくれ、見事に調和していた。
さて、シェフたちが締めくくりのドルチェに選んだのはドライフルーツ。イチジクやブドウ、デーツ、プラム、リンゴ、洋ナシなどは2000年前にもよく食べられていたというが、今回は白ワインに漬けて食感を柔らかくし、リコッタチーズのクリームと合わせてアレンジしてあったのはさすがである。
今ならエスプレッソを注文したいところだが、古代ローマにコーヒーがあるはずもなく、紀元前からヴァルポリチェッラで生産されていた甘口レチョートワインと合わせるのが理にかなっている。
2000年前に思いを馳せながら美味しいものを食べて飲むこのおもしろい試み。古代ローマの食事といってもここまで贅沢な食材を使っていたのは一握りの貴族たちだけだろう。彼らは当時、テーブルの周りの長椅子に寝転がって手づかみで食べていたというのはけっこう知られた話。昔ながらの優雅な暮らしっぷりが目に浮かぶではないか。
ともあれ、歴史的に使われてきた材料に工夫を凝らして出来上がった絶品の数々はアンジェロのレストランでメニューに残る予定である。お近くにいらした方はぜひお問い合わせを!
この古代ローマ遺跡に残されたモザイク床の発掘も進み、公開に向けて国が整備中だが、そんな折、フランキーニの新作赤ワイン「インぺリウム」発表に合わせて企画されたのが、古代ローマ料理の再現だ。とはいえ、このコンセプトとシェフのアイデアのフュージョンであることは最初に断っておこう。
腕を振るうのは、在外イタリア大使館や海外の一流レストランで経験を積んできたシェフ、ヌンツィオとアンジェロ。
彼らによると、古代ローマ時代には前菜、プリモ、セコンドという現在のイタリア料理にあるようなスタイルはなく、食事の途中によくフレッシュフルーツを口にしていたという。が、今回はフルーツはなし。前菜もあえて一品用意したとのことだった。しかしながら、調理はローマ人に倣って炭火焼き、もしくは窯の使用が徹底された。
最初に出されたのは古代ローマ風の平べったいパン。当時のパンは酵母を使わず、炭火で焼かれていたそうだ。古代小麦の一種グラノットを使い、しっかりと焼き跡が残った炭火焼パンは、噛むと表面はカリッ。口には素朴な甘みが広がった。
前菜としてはグラノットを茹でたもの。プチプチした食感が美味しく、そこに合わせられた野草セイヨウイラクサやラムソン(クマニンニク)が豊かな風味を加えていた。
トマトもジャガイモもまだまだなかったような時代だ。ローマ人たちは野草や香草を多用していたとのこと。たとえば、利尿作用および殺菌作用のあるゼニアオイの葉や消化促進やリフレッシュ効果のあるというブルスカンドリ(野生ホップの新芽)などもその一つである。
メインで食されていたのは今と同じく肉や魚で、好んで食べられていたという淡水魚の中からウナギ料理を2種類味わった。体長1メートル近くのウナギの皮をはいで丸焼きにし、一皿目は叩いて野草と巻き、ローストしたものをハチミツ甘酢のマリネに。
二皿目はとろとろの脂身をセルリアックに載せ、野生のアスパラを添えて。セルリアックは古代ギリシャの頃からすでに知られていたようだ。濃ゆいウナギを食べつつ、セルリアックが口の中を洗ってくれるような感覚で、絶妙の組み合わせであった。ソースには、これまた古代ローマの人々が大好きだったハチミツとローリエを使用している。ハチミツといえば、砂糖がまだなかったこの頃、男性陣は養蜂&採蜜ができて当たり前で、ワインにもハチミツを入れて甘くしていたほど重宝されていた調味料である。
最後の一品にはチョウザメの香草焼きをいただいた。7~8歳に成熟した貴重なバルチックチョウザメをワインに漬けた後、みじん切りにしたコリアンダー、ショウガ、クミン、パセリ、マジョラム、タイムで包み、まるごと窯で蒸し焼きにしている。
引き締まった身には旨味が凝縮されていて、それだけでも美味しいのだが、特筆すべきはかけられたソース。古代ローマ人が愛用していたというガルムである。カタクチイワシの内臓を2か月ほど天日干しにして発酵させた魚醤ガルムは、ニンニクを牛乳で煮たガーリックソースに混ぜられていて臭みがなく、繊細なアクセントを与える程度の上品なコクがあった。
このように丁寧に作られた特別な料理には同レベルのワインが必要であり、飲みごたえのあるフランキーニの「インペリウム」はまさに最適であったと言える。
ヴァルポリチェッラのワインといえばアマローネが有名だが、この「インペリウム」はさらにレベルが高い。21種類ものブドウ品種を厳選して混ぜ合わせた複雑で豊かな風味は、ウナギやチョウザメの強く独特な味わいをより一層引き立ててくれ、見事に調和していた。
さて、シェフたちが締めくくりのドルチェに選んだのはドライフルーツ。イチジクやブドウ、デーツ、プラム、リンゴ、洋ナシなどは2000年前にもよく食べられていたというが、今回は白ワインに漬けて食感を柔らかくし、リコッタチーズのクリームと合わせてアレンジしてあったのはさすがである。
今ならエスプレッソを注文したいところだが、古代ローマにコーヒーがあるはずもなく、紀元前からヴァルポリチェッラで生産されていた甘口レチョートワインと合わせるのが理にかなっている。
2000年前に思いを馳せながら美味しいものを食べて飲むこのおもしろい試み。古代ローマの食事といってもここまで贅沢な食材を使っていたのは一握りの貴族たちだけだろう。彼らは当時、テーブルの周りの長椅子に寝転がって手づかみで食べていたというのはけっこう知られた話。昔ながらの優雅な暮らしっぷりが目に浮かぶではないか。
ともあれ、歴史的に使われてきた材料に工夫を凝らして出来上がった絶品の数々はアンジェロのレストランでメニューに残る予定である。お近くにいらした方はぜひお問い合わせを!