北イタリアの葡萄畑を襲う危機
イタリア好きの皆さんいかがお過ごしですか?
モデナは庭にも牧草地にも様々な花が咲き始め、桜も少しずつ咲き始めました。
そんな中,エミリア・ロマーニャ州植物検疫組合、ランブルスコ組合、農業組合が主催するモデナのぶどう、畑の将来についてのシンポジウムを聞いてきました。これまでも、ピエモンテ州ヴェネト州ロンバルディア州では、北イタリアを中心にぶどうの木が立ち枯れする病気が広がってきているとのこと。
そんな深刻な被害をもたらしているのがファイトプラズマという細菌。それを媒介するのがアカザノ科のヨコバイ(Scaphoideus titanus)、その個体数が、ここ数年で大変な勢いで増殖するばかりか、温暖化により成虫になるスピードが増しているそうなのです。
このシンポジウムぶどう栽培農家が中心となって、300人近くの参加者がいました。それもそのはず、モデナ県内には8000ヘクタール(80㎢)以上の葡萄畑が存在しており、その大きさは山手線内側の面積63㎢をはるかに上回る大きさ。収入面でもモデナ県の農業収入の高確率を占めています。
葡萄の生産量の減少は、近年の気温の上昇や深刻な水不足だけが原因ではなく、この細菌がファイトプラズマが大きく関わっていること。
感染が確認された葡萄は切り倒す必要がありますが、感染したとわかるまで一年。その間、ヨコバイが感染した木の樹液を吸って、感染していない木の樹液を吸えば、次の年に感染が拡大するというイタチごっこ式。すぐに感染がわからないなら、媒介する虫を殺すべきなのか?
化学成分が入った殺虫剤の使用は生態系を大きく狂わせる可能性があるだけでなく、人間にも健康被害がある可能性が高い。誰も葡萄畑に毒はまきたくないのです。
ビオ栽培の畑には、虫の個体数は多いけれど、細菌に感染した葡萄の木の本数は少ないという統計が出て、植物由来のエッセンスオイル等を何回にも分けて散布する方法など、紹介がありましたが、手間とコストがかかる。実際、生産性という意味で、ビオ栽培は手間がかかるのにも関わらず、葡萄の収穫量が落ちるため、敬遠する農家が多いのも事実。
モデナのあるパダーナ平原は、水源が豊富な肥沃な土地として知られ、種を蒔けば野菜も果物もできて、たくさんの葡萄がなるからこそ、機会を導入した大量生産型に移行していったモデナの葡萄作り。機械による収穫は葡萄の木を揺らして実をふるい落としていくので、木にストレスを与え、100年持ったものが今や20〜30年で使い物にならなくなるというのに、それが当たり前のように続けてきた戦後。なぜなら、日本同様経済成長による農業離れ、農家の人材不足はエミリアロマーニャ州でも問題であり、平地という立地と相まって機械化は必然の流れだった背景があります。
そのため生産量重視の、機械化によって安価に飲めるワインとして消費者に提供できるようになったランブルスコワイン。
原料の葡萄は、安価な値段がつけられており、これがここに来て、生産者の首を絞める原因となっています。ワイナリーを経営し、ぶどう栽培からワイン醸造までを手がけワイナリーは葡萄の生産コストを賄う経済力がまだありますが、ぶどう作りだけを手がけている農家は、葡萄の現在の買取価格では燃料費、その他諸々の物資高騰が生産コストとのバランスが合わないくらい。そこへ持って、葡萄の生産量の減少。
シンポジュウムでは現場の生々しい声が飛び交いました。
ファイトプラズマ菌による葡萄の木の病気は、すぐに対応すべきだけれど、プラスアルファの手入れをする金銭面と人材の工面がつかない、植え替える資金の調達も夢のまた夢。
一体どうしたら良いのだ。と窮状を訴える人。
イタリアの葡萄畑は権利制になっていますから権利を所有していないと葡萄栽培はできません。権利は売買できますが、現在では10年前と比べて、葡萄畑の権利権価値が半額に下がっているという現状を切々と訴える人。
その権利を買い取って6年前に葡萄を植えたけれど、ファイトプラズマ菌の被害で、7割を引く抜く状態に陥った人。
燃料費をはじめとする物価の高騰インフレや買取価格に言及する人。
シンポジュウムの後半は暴動が起きるのでは?とヒヤヒヤするほどの参加者と主催者側の白熱した議論が繰り広げられました。
残念ながらファイトプラズマによる葡萄の木を守る確実な方法は、まだ不明解な点が多いのだそう。参加者はモヤモヤした思いで帰途に着いたのですが、反芻するにつれ、自然に多くを求めたために、今度は問題を自然から突き詰められた様な気がします。
葡萄栽培に限らず、地球の資源には限りがあり、今回のシンポジュウムは色々なことの変換を求められている現在の地球の問題とリンクするように感じました。
モデナの葡萄栽培が地球との自然との共生の中で、活路を見出すことができると信じて。
イタリアモデナでバルサミコ酢を醸造しています。随時見学を受け付けております見学を受け付けておりますのでお気軽にご連絡ください。