お料理説明・背景
「硬質小麦」と聞いて、みなさんはどんなイメージをもっているだろう?一般的には、挽いて粉にしてパスタやパンの材料になる。だが、ここプーリア州でグラーノ・ドゥーロ(硬質小麦)は、お米やパスタと同じように、お湯で茹でてプリモピアット(主食)になるのだ。プーリアのこの食習慣を知る人は少ないだろう。筆者も最初に聞いたときはなんとも驚いた。
アンナマリアさんが住む、南イタリア・プーリア州の小さな町ルティリアーノは、この硬質小麦の名産地だ。町は州都バーリから車で20分も行けば見えてくる。白壁に囲まれた旧市街がいかにもプーリアらしい町並みだ。この土地では5000年前から硬質小麦の栽培が行われ、イタリアでも有数のパスタ会社が鎮座する。
プーリア州のパスタやパンのおいしさは有名だが、それは原材料である上質な硬質小麦のおかげだ。川がないこの州では、昔から雨水だけで育つ農作物が貴重だった。グラーノもそのうちのひとつで、州の特産品として知られ、オリーヴオイルと肩を並べてきた存在だ。農民は小麦畑でせっせと働き、6月末の収穫期に焦点をあわせ、農作業に全身全霊をそそぐ。その結果、受け取る自然の恵みがグラーノなのだ。
ここルティリアーノでは、毎年7月初旬にグラーノ収穫祭が開催される。ボランティアが屋台を並べ、それぞれ自慢のグラーノ料理をふるまうのだ。食だけでなく、広場では歌謡ショーがはじまり、片隅ではテラコッタ鍋やキッチングッズを売る屋台までもが登場する。きつい昼間の日差しとは対照的に、涼しくなった夜の旧市街には驚くほどの人が「娯楽」を求めて押し寄せる。家庭では必ずマンマがグラーノ料理を仕込む日でもある。
尚、硬質小麦はそのうまさもさることながら、プチプチとした食感も特徴だ。日本の蕎麦の実に近いかもしれない。今回アンナマリアさんが紹介する料理は、大地の恵みである硬質小麦と海の幸ムール貝をあわせた一品。ムール貝はプーリア州で一番消費される海の食材といっても過言ではない。なぜなら、州南部のターラント湾で養殖されたプリプリのものが手ごろな値段で豊富に出回っているからだ。
この町では家庭によって得意なグラーノ料理が存在するが、アンナマリアさんは「私が好きなのはムール貝との組合せ。ムール貝が手に入らないときは魚介をミックスしてもOKよ!」と。そして、敢えて書くが、彼女の料理を陰で支える基本の調味料オリーヴオイルは自家製である。プーリアの田舎では口に入れるものはできるだけ自家製で。という伝統が今も根付いている。自然に従った食のサイクルを自分の手料理で家族や友人と楽しむ。これが本当の意味で贅沢な時間が流れるプーリアの食卓だ。
イタリア政府公認添乗員。世界遺産の町アルベロベッロで会社員として勤務する傍ら、自宅にてチーズと郷土料理の教室「南イタリアチーズ&料理教室」を主宰。オリーブオイルソムリエとチーズテイスターの知識をベースにプーリアの食を探求する日々を送る。
作り方
下ごしらえ
- グラーノはひと晩、水(7~8時間)に浸しておく。
- ムール貝は殻や不純物が混入していないかをよく確認し、むき身と海水に分ける。
- ニンニクは皮をむき、パセリとトマトは水洗いする。
作り方
- 鍋に水と塩を入れ、沸騰したらグラーノを入れて30分程度煮る。(写真b 参照)
- 火が十分に通ったことを確認したら、皿にあける。(写真c 参照)
- ニンニクはみじん切りに、ミニトマトはヘタをとり1.5~2cm角に切る。パセリは葉の部分を粗く刻む。(写真d 参照)
- 鍋にオリーヴオイル、細かく刻んだニンニクを入れて弱火で香りがたつまで熱する。(写真e 参照)
- 4にムール貝とミニトマトを入れて弱めの中火で加熱する。(写真f 参照)
- さらに、2のグラーノと茶こしで漉した海水少々を入れて混ぜ、弱火で煮る。(写真g 参照)
- 最後に、パセリを加えて皿に盛り付ければ完成。(写真h 参照)
- 食べる直前にお好みでコショウをかけて召し上がれ!