お料理説明・背景
イタリア半島の南東に位置するプーリア州。アドリア海とイオニア海の2つの海に囲まれ、温暖な気候で山はほぼない。ほとんどが平野という住みやすく恵まれた土地だ。海沿いでは漁業、内陸部では昔から広大なオリーブ畑で実が収穫され、オイルが作られる。そして、トマトや小麦などの野菜や穀物が栽培され、それらは広くイタリア全土に出荷されていく。そう、国内でも有数の農業州なのである。
そんなプーリアの冬に欠かせない野菜のひとつが「スポンサーレ」と呼ばれる長ネギ。八百屋の店頭に並ぶやいなや、飛ぶように売れる冬から初春にかけて人気の食材だ。日本の長ネギとそっくりなこのネギは、クタクタになるまでオリーヴオイルで炒めて、パン生地やパイ生地で包み焼き上げるパイとして料理されるのが一般的。別名「カルツォーネ」とも呼ばれる。さっぱりとした塩味だが、噛めば噛むほどネギ本来の甘みが口いっぱいに広がるプーリアらしい素朴さが持ち味。
今回ご紹介するアンナマリアさんも、この料理を作り慣れたひとりだ。小さい頃の夢を叶えて小学校の先生となり、40年以上勤務した後、2年前からようやく悠々自適の年金生活者に。と、思ったら、ジャーナリストの夫の講演会にマネージャーとして連れまわされる日々。良妻としての素質を発揮しながら、忙しい毎日でも家事に手抜きはない。
「私の料理のルーツは料理上手だった母。お菓子作りは菓子屋を経営していた義母からよ」と話す彼女。お母さんから教わった料理をまとめた手書きのレシピ集を今でも大切にしているのは、ごく自然なことだと納得できた。
この長ネギのパイは、家族総出で食卓を囲む日曜日のランチはもちろん、友人宅でのホームパーティーのおもたせとしても活躍してくれる。地域によっては、リコッタチーズを発酵させたプーリア州独特のチーズ「リコッタ・フォルテ」や、黒オリーブ、トマトを加えるそう。だが、アンナマリアさんが作るのは、長ネギ本来の味を楽しむため、味のアクセントにアンチョビとケッパーのみを入れるシンプルなもの。
マンマによると、この料理の発祥は州中北部のアンドリア。小さい頃、フランシスコ会の修道士に教えてもらったそうだ。そして、主役の長ネギは苦みが少ない根本(白い)部分のみを使うのがマスト。尚、作り方のコツは2つ。1つ目は、長ネギを炒める時は焦げやすいのでよく混ぜながらゆっくり時間をかけて。2つ目は、フィリングの仕上げに少量の牛乳を入れること。味をまろやかにするためにこれは絶対に忘れてはいけない!
日頃から人の喜ぶ顔を見るのが好きなアンナマリアさん。そんな彼女がこの冬も家族や大切な仲間のために何十回も作るこのパイは、いわば、長ネギの旨みをぎゅっと閉じ込めたプーリア伝統の味。「長ネギがない時は甘いタマネギで代用もできるわ。だから、日本でもぜひ作ってね!」とアドバイスも。この料理を作って、遠い空の下のプーリア州と食卓でつながってみませんか?
イタリア政府公認添乗員。世界遺産の町アルベロベッロで会社員として勤務する傍ら、自宅にてチーズと郷土料理の教室「南イタリアチーズ&料理教室」を主宰。オリーブオイルソムリエとチーズテイスターの知識をベースにプーリアの食を探求する日々を送る。
作り方
下ごしらえ
- 長ネギを水洗いをして、葉(緑)の部分と根本(白い)部分に切り分ける。※葉(緑)の部分は魚や肉の臭みを消す効果があります。捨てずに魚や肉のスープに入れて活用しましょう。 (写真a 参照)
作り方
- 長ネギを1㎝幅に斜め切りする。(写真b 参照)
- フライパンにオリーヴオイルを入れ、軽く熱したら長ネギを入れ混ぜながら弱めの中火で10分ほど炒める。(写真c 参照)
- 長ネギがしんなりしてきたきたら、弱火にしてさらに5分炒める。(写真d 参照)
- 次にケッパーと細かく切ったアンチョビを入れ、よくかき混ぜ、さらに2分炒める。(写真e 参照)
- 牛乳を入れてよく混ぜ、塩を加えて味をととのえたら、最後に、強めの中火で手際よく混ぜながら水分を飛ばすように炒める。(写真f 参照)
- フィリング(詰め物)を皿に盛り、1時間程度おいて冷ます。(写真g 参照)
- パイ皿にクッキングシートを敷き、パイシートを広げ、その上にフィリングをまんべんなくのせる。(写真h 参照)
- さらに、もう1枚のパイシートを上に被せ、上面と下面の端を指をつかって閉じる。(写真i 参照)
- パイの表面にフォークを使って均等に数か所穴をあける。(写真j 参照)
- 温めておいたオーブンに入れて、200℃で20分程度こんがりきつね色になるまで焼く。(※パイシートの種類によりオーブンの設定温度と焼く時間が異なります。)(写真k 参照)