お料理説明・背景
イタリアの最北東に位置するフリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州はドロミーティ山脈に繋がる山とアドリア海とを持ち合わせる非常に特殊な地形に位置します。
冬の寒さは厳しく、暖炉の上でゆっくり調理をする煮込み料理などが好まれます。冬の代表的な一皿と言ったら、多くのマンマが手がけるのがこの煮込み。地元では一般的に「スペッツァティーニ」と呼ばれることの方が多いこの料理は、一口大の筋の多い部位の肉を最低2時間以上かけて煮込んでいきます。
ここで使われるのが各種スパイス。各人の好みによりますが、赤い粉末のパプリカ(パプリカ・ドルチェと呼ばれる辛くないもの)を使用するのが最も一般的です。煮込みの途中で数種のスパイスを加えていきますが、そのために後味に特殊な風味を感じるどことなくエキゾチックな感覚を覚える味わいです。ゆでたジャガイモやポレンタ、ヴェルゼ(ちりめんキャベツ)の煮込みなどを添えて熱々の湯気のたつところをいただきます。
オーストリアとスロヴェニアに国境を持つ同州は、異文化が交わる地域で、イタリア語、ドイツ語、スロヴェニア語、そしてフリウリ語(イタリア語のなまりではなくて完全な一つの言語です!)が飛び交います。食文化も各所から伝播したものが多く、現在でもその文化が色濃く残っていると言えます。この地域にいて感じるのは、異文化が「融合」しているというより、「共存」しているということ。この土地の人の頑固な気質が食文化にも生き生きとして表れているかのごとく、土地の影響で変化を遂げてきたのではなく、それぞれの文化が誰に遠慮することなく相互に既存し続ける、という風に。
今回、この料理を紹介するマンマ、ヴァレーリアさんの生まれ育ったこの土地は、サン・ピエトロ・ディ・ナティゾーネというスロヴェニアから流れるナティゾーネ川が流れる自然豊かな場所です。車を数分走らせると気づいたらスロヴェニアに入っている……という日本では考えられない土地環境です。(もちろん昔は国境を簡単には越えられませんでしたが)
そんな土地出身の彼女がこの度のメニュー案を考える際に、まず第一声として挙げたのがやはりこの一皿。地元菓子であるグバーナの専門店を持ち、イタリア国内及び国外までもその菓子を広める活動を積極的に行う多忙な彼女。それを支えるのは娘さんのエリーザさんです。現在では2人の小さなお孫さんも家族に増え、店の営業はもちろん普段の生活や食事にも気をつかいますが、家族が皆で囲む頻度も高いこの料理。 東欧がオリジナルですがこの地で脈々と生き続ける、いろいろな歴史や文化、それぞれの思いがいっぱいに詰め込められた冬の一皿と言えます。
ヴェネトおよびフリウリを中心に、通訳、翻訳、地元マンマの料理レッスン及び生産者訪問コーディネイト、そして野菜を中心とする農産品の輸出業などの活動を行う。 ブログ『パドヴァのとっておき』にて料理や季節のおいしい情報を中心に、日々のできごとを発信中。
作り方
- タマネギはスライスし、みじん切りにする。(写真a,b,c 参照)
- テフロン加工の鍋を温め、肉を入れて表面を焼き付ける。ここで油は敷かない。(写真d 参照)
- 表面の色が変わり肉から血や水分が出てくるので、しっかりと火を通して水分を完全に蒸発させる。(写真e 参照)
- 赤ワインを加え、さらに加熱を続け、ここでも水分をしっかり飛ばす。(写真f 参照)
- 植物油を回し入れ、みじん切りしたタマネギを加え、しっかりと全体を炒め合わせる。(写真g,h 参照)
- 塩、コショウを加える。(写真i 参照)
- 続いてペペロンチーノ、ローズマリーも加える。量の目安は手順の画像参照。(写真j,k 参照)
- トマト水煮を加え、肉全体がかぶるくらいの水を加え、強火にする。(写真l 参照)
- 一度沸騰したら火を弱め、蓋をして煮汁の表面が常にプツプツと動きがあるように調節し、肉が柔らかくなるまで2時間を目安に煮込む。煮汁の量は常に肉がかぶる程度になっているのが好ましいので、少なくなったらお湯を追加しながら煮込む。途中、鍋底に当たらないように時々木べらで混ぜ、仕上がりに煮汁が多すぎるようなら蓋を開けて余分な水分を飛ばすとよい。(写真m,n 参照)
- 仕上がりに塩味を調節し、ゆでたジャガイモなどとともに皿に盛る。