お料理説明・背景
ヴァッレ・ダオスタ州といえばモンブランやチェルヴィーノなど、ヨーロッパの屋根『アルプス』を臨む山岳地域。いにしえからイタリアとフランスをつないできた要衝だが、実際にその山々の険しさを自分の目で確かめれば、『2千年の昔、本当にハンニバルが象でアルプス越えをしたとして、ここの雪山じゃないよな』と思いたくなる。
エリカは、そんなアオスタの山間にある小さな村に生まれ育った。酷寒に苛まれようが、突風にひっぱたかれようが、ぴしっと軋みさえしない石造りの家屋が10件ほど肩寄せ合って佇む寒村『モロン』に代々住み続けてきたという。
アオスタ市内の銀行に勤めるエリカは、くねくね道を車で飛ばし、客で賑わうテルメを横切り、サン・ヴァンサンの街中を突っ切って標高830mから300mあまりを下りきったら、今度は電車に乗り換える。片道1時間以上かかるが、この村を離れようなんて思ったことはないという。
「となり近所みーんな仲良しだし、緑豊かで環境は抜群だもの。」
ご主人のジュゼッペは、アオスタの伝統家屋専門の石大工だ。腕が良いと評判で仕事が相次ぎ、天気の安定した夏の間は休日返上で仕事にでかける。
「息子のマルコも夏休みを利用して見習いを始めるって言うのよ。」
お腹を空かせて帰ってくる男たちの為に、エリカは暇さえあれば台所に立って自慢の腕を振るう。ピッツァも焼くし、パンもこねる。
彼女の料理好きは祖母の影響。幼い頃は、おばあちゃんにべったりで、料理の知恵も、母親から教わったレシピだってもちろんあるが、料理のコツ談議になるとエリカは今でもノンナ(おばあちゃん)の説に軍配を挙げる。
「バターを使うかオリーヴオイルか、どうしてもここが上手く行かない、なんて時はよくおばあちゃんのところに走ったわ。」
「夏は、畑で野菜が沢山採れるでしょう。その日に収穫したものをフランにして、フォンドゥータを添えてよく出します。ズッキーニやニンジン、何でも使えるけど一番好きなのはやっぱりキャベツ。アオスタらしい高原野菜で、味にしまりがあって、地域特産のフォンドゥータにもバッチリ合うのよ。」
エリカは。クチ八丁手八丁! あれこれ楽しいお喋りをする間も、手はどんどん動いて、気がつけばオーブンから幸せに焼き上がった熱々フランを取り出していた。優しいチーズの香りで誘ってくるフォンドゥータと一緒にすくって口に入れたら、キャベツの甘さと一緒に夏の爽やかな緑が口に飛び込んできた。
ピエモンテ州在住。農林水産省を退職後2000年に渡伊。静かな山村に暮らし、農・経・食文化コーディネートでイタリア全土を駆け巡る。2019年にイタリア語によるエッセイ集『Un Cuore Da Nutrire』を出版。日本食文化のPR活動も行っている。
作り方
下ごしらえ
- フォンティーナチーズは、1センチ角に切り、牛乳に浸し一晩冷蔵庫で休ませておく。(写真a 参照)
作り方
- まず、キャベツのフランを作る。タマネギとキャベツをざく切りにする。(写真b,c 参照)
- 鍋にバターを入れ、1のタマネギを加えて炒め、バターがタマネギ全体に絡んだら、キャベツを加えてさらに炒める。(写真d,e 参照)
- キャベツがタマネギとまんべんなく混ざったら、ローリエの葉を加え、塩、コショウで味を調え、蓋をして20分ほど中弱火で加熱する。焦げつかないように時々混ぜ合わせ、しっかりを火を通したらローリエを取り出しておく。(途中で水分が飛んでしまったら、香味野菜のブロードを少し足してもよい)(写真f 参照)
- 3が冷めたら、小口に切りにしたバジリコとイタリアンパセリ少々を加える。(写真g 参照)
- 生クリーム、卵、4と一緒にフードプロセッサーにかける。(写真h 参照)
- アルミのプリン型の表面にバターを塗り、薄く小麦粉を振ったものを、オーブン皿にならべ、5をまんべんなく注ぐ。(写真i 参照)
- アルミ型に水が入らないように気を付けながらオーブン皿に水を注ぐ。(写真j 参照)
- 170度に温めたオーブンに入れて40分程度蒸し焼きにする。表面に適用な焦げ目がつき、ぷっくり膨れたら火がとおっている。(写k 参照)
- フォンドゥータを準備する。一晩牛乳に漬け込んでおいたフォンティーナチーズを牛乳と一緒に鍋に移して湯煎にかける。(写真l 参照)
- 泡だて器で混ぜながら湯煎を続けるが、時々チーズの溶け具合を確認する。泡だて器を引き上げたときに、写真mのようにもったりと垂れるようではまだ早い。(写真m 参照)
- チーズが完全に溶けてシャバシャバ感がでたら塩コショウで味を調える。(写真n 参照)
- 卵の黄身を足して、黄身が完全に溶け込むまで混ぜ、とろみがついたら火からおろす。(写真o 参照)
- 焼きあがったフランを型から取り出し、フォンドゥータをかけたら出来上がり。(写真p 参照)