ローマ、夏の野外上映 モレッティ監督の映画館で「3つの鍵」
ローマ。トラステヴェレにある映画監督ナンニ・モレッティが運営するチネマ・ヌオヴォ・サケルが2年ぶりに野外上映を7月31日まで開催中です。
星空のもと映画を見るイタリアの夏の夜の楽しみのひとつです。
7月10日(日)の夜、イタリアでは昨年公開された新作「3つの鍵」の野外上映にモレッティ監督が登場しました。
映画鑑賞券プレゼントへのご応募はページ最後をご覧ください。
映画館がある場所はここです。
Cinema Nuovo Sacher – Largo Ascianghi 1, Roma
映画館の名前サケルは監督の好きなザッハトルテのイタリア語読み。
入り口はこんな感じ。夜もふけはじめました。上映は21時30分から。
夏の野外上映のプログラムの一部です。昨年から今年前半に公開された話題作が
ずらり。同時にイタリアの新人監督作品に賞を与えるbimbi belliという特集上映も行われています。優勝者には子供用の靴をかたどった盾が送られます。
今年はモレッティ監督の『息子の部屋』で女優デビューしたジャスミン・トリンカの初監督作「Marcel!」も上映されています。ずっと彼女のキャリアの相談にのったり映画界の父親的存在だったそうです。
列ができています。観客は45歳から65歳ぐらいの大人の観客が目立ちます。
映画館の内部。古い映画の場面写真やポスターがずらり。上の壁には「母よ、」のポスターも貼られています。
観客の多くは左派の知識人、大学教授など。
さて、モレッティ監督が舞台に登場し、まずこの映画の上映までの経緯を語ります。
撮影はパンデミックが始まる前に完成していました。2020年の4月にイタリア公開し、5月にはカンヌ国際映画祭へという計画がすすんでいました。しかし、ロックダウンが始まり、映画館は営業できなくなってしまいました。
監督は皮肉をこめてNetflixなどのプラットフォームに屈服し、映画を売ってしまったプロデューサーが少なからず存在したことに触れました。彼らは投資した分を回収しなければならない使命を負っているので、高額のオファーはいつ映画館が再開できるかわからない状況下においては魅力的だったのだと思います。しかしモレッティ監督は強調しました。「映画館で映画をみることはなぜ重要なのでしょう。それは、映画が映画館という場所で上映されるために作られたものだからです。テレビの画面で見てしまったら、映画館でみたのと同じように心を動かされることはないのです。」と。だからこの映画は1年待って2021年のカンヌ国際映画祭のコンペティション部門で上映され、その後映画館で公開されたのだといいます。
続いて上映される映画「3つの鍵」の話に移ります。
この映画は彼にとって特別な映画です。なぜなら50年近い映画監督としてのキャリアの中ではじめて原作小説を映画化したからです。今まで物語のアイディアは監督自身が考えていましたが、今回はイスラエルの小説家エシュコル・ネヴォのベストセラーを二人の女性脚本家と共に映画にしたからです。
映画はローマの同じアパートに住む3つの家族の物語です。ある夜に起きた交通事故で歩いていた女性が亡くなります。運転していたのは、3階に住む裁判官夫婦の息子でした。いつも夫が出張中の2階のモニカは陣痛が始まり、一人で病院に向かっている途中で事故を目撃します。1階の夫婦は事故で仕事場が崩壊したので、娘を朝まで向かいの老夫婦に預けます。保たれていた日常が少しずつ歪みだします。
誰にでも起こりうる不安や心配が人を極端な行動に走らせます。何が起こるのか、そして登場人物たちがどんな選択をするのか。次々に起こる出来事に目が離せなくなるので
すが、人生は生きるに値するものだと、最後には優しい気持ちになれるのはイタリアの監督ならではないでしょうか。たとえ苦しいことがあっても最後はきっと笑顔になれるのだと。
そして、この映画の登場人物たちの男女のちがいについて触れました。
男性のキャラクターは、自分の信念やおそれ、執着に囚われて、常に自分が正しいと思い込んでいます。一方女性たちは衝突しそうな緊張が解けていくように務め、仲直りをし、お互いに一歩踏み出そうとします。映画を見る視点として面白いのではないのでしょうか。
最後に映画というのは表現手段であって、その意味は一つではないので観客それぞれの意味を見出し、数年後、または別の文脈で見ると違って見えるかもしれないと念押しして締めくくりました。
日本では9月16日(金)から映画館で公開されます。イタリアの家族のあり方、家族の絆が強いと思われているイタリアにも存在する孤独の問題など違ったイタリアの一面を、映画を通して知るのも興味深いでしょう。
<レポート>
Edoardo Journo(エドアルド・ジョルノ)
チャイルド・フィルムローマ特派員
心の扉をひらくと、新しい風が入ってくる
監督:ナンニ・モレッティ 出演:マルゲリータ・ブイ/リッカルド・スカマルチョ/アルバ・ロルヴァケル
9/16(金)全国順次ロードショー
映画公式HP https://child-film.com/3keys/
星空のもと映画を見るイタリアの夏の夜の楽しみのひとつです。
7月10日(日)の夜、イタリアでは昨年公開された新作「3つの鍵」の野外上映にモレッティ監督が登場しました。
映画鑑賞券プレゼントへのご応募はページ最後をご覧ください。
映画館がある場所はここです。
Cinema Nuovo Sacher – Largo Ascianghi 1, Roma
映画館の名前サケルは監督の好きなザッハトルテのイタリア語読み。
入り口はこんな感じ。夜もふけはじめました。上映は21時30分から。
夏の野外上映のプログラムの一部です。昨年から今年前半に公開された話題作が
ずらり。同時にイタリアの新人監督作品に賞を与えるbimbi belliという特集上映も行われています。優勝者には子供用の靴をかたどった盾が送られます。
今年はモレッティ監督の『息子の部屋』で女優デビューしたジャスミン・トリンカの初監督作「Marcel!」も上映されています。ずっと彼女のキャリアの相談にのったり映画界の父親的存在だったそうです。
列ができています。観客は45歳から65歳ぐらいの大人の観客が目立ちます。
映画館の内部。古い映画の場面写真やポスターがずらり。上の壁には「母よ、」のポスターも貼られています。
観客の多くは左派の知識人、大学教授など。
さて、モレッティ監督が舞台に登場し、まずこの映画の上映までの経緯を語ります。
撮影はパンデミックが始まる前に完成していました。2020年の4月にイタリア公開し、5月にはカンヌ国際映画祭へという計画がすすんでいました。しかし、ロックダウンが始まり、映画館は営業できなくなってしまいました。
監督は皮肉をこめてNetflixなどのプラットフォームに屈服し、映画を売ってしまったプロデューサーが少なからず存在したことに触れました。彼らは投資した分を回収しなければならない使命を負っているので、高額のオファーはいつ映画館が再開できるかわからない状況下においては魅力的だったのだと思います。しかしモレッティ監督は強調しました。「映画館で映画をみることはなぜ重要なのでしょう。それは、映画が映画館という場所で上映されるために作られたものだからです。テレビの画面で見てしまったら、映画館でみたのと同じように心を動かされることはないのです。」と。だからこの映画は1年待って2021年のカンヌ国際映画祭のコンペティション部門で上映され、その後映画館で公開されたのだといいます。
続いて上映される映画「3つの鍵」の話に移ります。
この映画は彼にとって特別な映画です。なぜなら50年近い映画監督としてのキャリアの中ではじめて原作小説を映画化したからです。今まで物語のアイディアは監督自身が考えていましたが、今回はイスラエルの小説家エシュコル・ネヴォのベストセラーを二人の女性脚本家と共に映画にしたからです。
映画はローマの同じアパートに住む3つの家族の物語です。ある夜に起きた交通事故で歩いていた女性が亡くなります。運転していたのは、3階に住む裁判官夫婦の息子でした。いつも夫が出張中の2階のモニカは陣痛が始まり、一人で病院に向かっている途中で事故を目撃します。1階の夫婦は事故で仕事場が崩壊したので、娘を朝まで向かいの老夫婦に預けます。保たれていた日常が少しずつ歪みだします。
誰にでも起こりうる不安や心配が人を極端な行動に走らせます。何が起こるのか、そして登場人物たちがどんな選択をするのか。次々に起こる出来事に目が離せなくなるので
すが、人生は生きるに値するものだと、最後には優しい気持ちになれるのはイタリアの監督ならではないでしょうか。たとえ苦しいことがあっても最後はきっと笑顔になれるのだと。
そして、この映画の登場人物たちの男女のちがいについて触れました。
男性のキャラクターは、自分の信念やおそれ、執着に囚われて、常に自分が正しいと思い込んでいます。一方女性たちは衝突しそうな緊張が解けていくように務め、仲直りをし、お互いに一歩踏み出そうとします。映画を見る視点として面白いのではないのでしょうか。
最後に映画というのは表現手段であって、その意味は一つではないので観客それぞれの意味を見出し、数年後、または別の文脈で見ると違って見えるかもしれないと念押しして締めくくりました。
日本では9月16日(金)から映画館で公開されます。イタリアの家族のあり方、家族の絆が強いと思われているイタリアにも存在する孤独の問題など違ったイタリアの一面を、映画を通して知るのも興味深いでしょう。
チャイルド・フィルムローマ特派員
3つの鍵
心の扉をひらくと、新しい風が入ってくる
脆く傷つきやすい人間たちが、苦しみの末に手にした人生を開く鍵とは?
監督:ナンニ・モレッティ 出演:マルゲリータ・ブイ/リッカルド・スカマルチョ/アルバ・ロルヴァケル
9/16(金)全国順次ロードショー
映画公式HP https://child-film.com/3keys/