お料理説明・背景
海から程近い場所に位置しているローマ。
それでも魚を食べる日は火曜と金曜という習わしは昔から変わらない。
ローマ郊外の、車を5分も走らせたら海が広がる地に住んでいるアンナリータでさえ、その決まりを忠実に守っている。「月曜に魚を!」などと言おうものなら、「絶対に新鮮な魚が入ってきているはずがないから、明日にしましょう!」と言われてしまうのである。実際には、海に近いアンナリータの住む町の魚屋には、悪天候の翌日以外は毎日新鮮な魚が入荷しているから、習慣とはおもしろいと痛感せざるを得ない。
日本と同様に海に囲まれているイタリア。シーフードがおいしいというイメージを持つ人が多いかもしれない。日本のように四季のあるイタリアではあるが、魚屋をみている限り、日本ほどには季節の魚が充実していないような気がする。季節感を感じるのはウニや桜鯛だが、それ以外は常時目にする見慣れた魚たちである。そしてその種類も日本のようには恵まれていない。つくづく日本は海の幸が豊富な国なのだと実感する。
日本では常時目にするホタテも、ここラツィオ州ではかなり貴重な存在で、なかなか入手することができない。そのためか、祝い事がある時に食することが多いようだ。たとえばアンナリータは、昨年のクリスマスにホタテ貝のオーブン焼きを作っていたそう。
「素材がおいしいから、あまりあれこれ手を加える必要はないの。でもだからこそホタテの味を生かすものが必要ね」。そう言いながら、赤の可愛らしいキッチンツールでピスタチオを細かく砕き始めたアンナリータ。ピスタチオはもちろん、最高のブランドとして知られるシチリアのブロンテ産である。
それにしてもピスタチオとオレンジがこんなに相性が良いだなんて! 魚介をフルーツやナッツ類と組み合わせるだけで、見た目にも味にも深みが加わる。こんなに簡単に作れておいしいのだから、クリスマスメニューになるはずである。
さらにアンナリータは続ける。
『今日はピスタチオを使ったけれど、ハーブチョッパーはもともとイタリアンパセリやタイムを刻むものなの。刻んだハーブにパン粉やパルミジャーノ、塩を混ぜて野菜の上に乗せて焼くだけでも乙な一品になるわ。ムール貝に乗せて調理すればレストラン顔負けの味よ』。
ホタテの次はムール貝。またまたワインが進んでしまう……。
肩の力を入れずに作ることができるこれらの料理の美味、みなさまもぜひご家族やご友人に披露してはいかが?
日系航空会社にて国際線CAを12年、その間2年程フィレンツェに料理留学したのを機に料理の世界に目覚める。イタリア料理以外にも懐石料理、ヴェトナム料理を学ぶ。2008年に渡伊。コルドンブ ルーでの非常勤講師を経て、自宅でイタリア家庭料理教室を主宰中。 野菜ソムリエ、現在はイタリアワインソムリエ取得中。 Instagram(@roma_italy_tsugumi)