お料理説明・背景
このレシピは、本誌vol.25「トリノでカフェを巡る」特集に掲載されている。取材は2016年3月。まだ肌寒いトリノで何軒ものカフェを巡り、1日に500杯も1000杯もカフェをいれるバリスタがいて、1日に何杯もカフェを飲む客がいる。イタリアにおけるカフェとは何か、を考えさせられる取材だった。
そんなトリノから車で東に1時間ほどのところにあるマレンティーノに暮らすマンマ、ラッザーリ・アーダさん。遠くきれいな山並みを望む、小高い丘の上にある家で、鮮やかな赤のシャツを着て迎えてくれたラッザーリさんは、とても若々しかった。
パスクアを週末に控えていたので、この時期らしい料理と、孫も来ることもあり、孫の好きな料理ということで、トルタ・パスクアリーナ、インサラータ・ルッサ、タリアッテッレ・アル・ラグー、スカロッピーネ・アル・マルサーラ、バーチ・ディ・ダーマの5品。どれもしっかり準備されレシピもきちんと整えられていたのだ。この中でレシピを教えてもらったのは、トルタ・パスクアリーナ、インサラータ・ルッサと今回紹介するバーチ・ディ・ダーマ。
トルタ・パスクアリーナは、カルチョーフィとズッキーニを使ったトルタで、この季節らしい一品。定番のインサラータ・ルッサは、家庭や店によって具材もさまざまで、バリエーションも豊富なサラダ。何度も食べたことはあるけど、作り方を習うのは始めてだった。なぜロシアサラダという名前が付いているかは諸説あり定説はない。イタリアのウィキペディアの1説には、サヴォイア家の料理人がロシア人で、要人をもてなすために考えたなどとも書かれていますが、真実かどうかは? でもピエモンテ料理として紹介されることを考えればまんざらではないのかもしれない。ラッザーリさんも由来についての正解は知らなかった。バーチ・ディ・ダーマ(Baci di dama=貴婦人のキス)という、二つのビスコッティがキスをしているような姿の菓子。起源は古く、ピエモンテのアレッサンドリア県のトルトーナが発祥とされ、1800年代こちらもサヴォイア家の王に賞賛され全土へ広がっていったという。ヘーゼルナッツの粉を使うのがピエモンテらしい。
調理を始めてしばらくすると、娘のバルバーラさんと孫のシモーネ君、姉のアドリアーナさんがやってきた。アドリアーナさんはラッザーリさんよりもさらにきめ細かく、堅実なようだった。彼女は慣れた手つきでタリアッテッレを打ち始め、それは正確な行程を経て、確実にできあがり、乾燥のためきれいに棒に干されていった。完璧だった。
バーチ・ディ・ダーマ作りは、小さなビスコッティを丸めて形にして焼いたり、その焼けたビスコッティに溶かしたチョコを塗ったりと、小さいながらも作業量は多い。なので、一人で黙々とするより、この日は姉妹や娘や友人も集まって、丸めたり、挟んだりしながら、世間話に花を咲かせていたのでした。作業を進めるのに、ビスコッティの大きさやチョコの量、それぞれの思いがみんな違うので、「あーだこーだ」と言いながらする、そういう光景がとても微笑ましかった。
そこへご主人のロマーノさんが、今夜飲む自作の発泡ワインをうれしそうに持ってきて、味見をすすめてきた。自宅前の畑で取れたブドウで造ったと自慢の顔をのぞかせる。もうこういう歓迎はうれしい限りだ。そして、「Buono」の一言が今夜の食事をさらに楽しく、素敵な時間にしてくれる。
キッチンの窓から見える山並みは、きれいな夕陽に包まれてきて、食事に呼ばれた友達も加わり、女性達のおしゃべりは加速し、出来上がってきた料理の匂いが、辺りを包み込んでいく。僕は、近くで聞こえる話し声がどこか遠くに感じ、その匂いに包まれたまま、遠く山並みの景色の中に吸い込まれていった。そんな不思議な感覚になっていた。心地よい時間だった。もちろんどの料理もおいしかった。
文:イタリア好き編集長 マッシモ 写真:萬田康文
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作り方
下ごしらえ
- ローストしたヘーゼルナッツを予めミキサーで砕いて粉にしておく。その際、ナッツ100gに対してグラニュー糖(大2程度)を入れるとよりキメ細かくなる。(パウダータイプを使う方は不要)
作り方
- ボウルで、小麦粉、ヘーゼルナッツの粉、グラニュー糖を混ぜる。(写真a 参照)
- 1に室温に戻しておいたバターを加えさらに混ぜる。(写真b 参照)
- 2がひと固まりになる程度になったら、15mm(大きさのイメージはヘーゼルナッツ)の大きさに丸めてオーブンプレートに並べる。※丸めた生地はそのものの重さで半円になる。(写真c,d 参照)
- 180℃に予熱したオーブンで3を10~15分焼く。※焦げやすいので注意しながら焼き上がりを見る。(写真e 参照
- 焼き上がったら、しっかりと冷ましておく。(写真f 参照)
- 湯煎でチョコレートを溶かす。(写真g 参照)
- 5の冷ましておいたビスコッティの半分に、溶かしておいたチョコレートを塗り、残りで挟んで出来上がり。(写真h,i 参照)