マンマの紹介
- アンナ・ラバリオーネ(Anna Rabaglione)さん
- ピエモンテ州トリノ在住
- 【得意料理】ピエモンテ料理、特に出身地のノヴァーラ地方の料理「パニッシャ」「ゴルゴンゾーラのニョッキ」など。
お料理説明・背景
2020年に30周年を迎えた『アンティケ・セーレ』は、素朴な伝統ピエモンテ料理が食べられる家族経営のオステリア。トリノの街はずれの、地味な地区にポツンとあるにもかかわらず、週末の予約はなかなかとれない超人気店だ。
息子でシェフを務めるダニエレさんが調理師学校を卒業して料理人を目指したのを機会に、家族でオステリアを始めたのが31年前。年金生活に入っていた明るいお父さんとお姉さんがサービス担当。ダニエレさんを厨房で支え、ピエモンテのマンマのレシピを伝えてきたアンナさんに、今回、アンティケ・セーレの人気メニューの一つ「タプロン」を教えてもらった。
「私たち家族の生まれ故郷、ノヴァーラ地方で昔から食べているタプロンは、貧しくて食べるものが何もなかった時代に、農作業や荷物の運搬などに欠かせなかったロバを食べるしかなかった。そんな辛い歴史がある料理なのよ」とアンナさん。ロバの肉は硬く、包丁で刻んで煮込まないと食べられないことから生まれたレシピだという。お米の産地として知られ、おいしい米料理のレシピがたくさんあるノヴァーラだが、このタプロンはお粥状に仕立てた緩めのポレンタと食べるのが、昔からの伝統だという。
「でもね、ゆでたじゃがいもと一緒に食べたり、パスタに添えてもおいしいのよ」とアンナさん。高齢になり、厨房仕事は引退している今も、おいしいものや料理の話をすると目がキラキラ輝いてきて、とても82歳には見えない。伝統のレシピにはキャベツは入らないのだが、「キャベツが入るとよりしっとり、やわらかい口当たりになるから、私は絶対キャベツを入れるのよ」と言いながら、キャベツをザクザクと刻んでいく。それをグツグツ煮える鍋にドサっと放り込む。火が入っていくにつれて肉の色に同化しキャベツの姿はほとんど見えなくなるが、できあがりを一匙口に運んでみると、たしかに、とてもしっとりとしたやさしい口当たりだ。ロバの肉は、クセはまったくなく、かといって牛でも豚でもない、やさしいうまみがあった。
オステリアのキッチンでアンナさんに料理をしてもらっていると、娘のアントネッラさんがやってきておしゃべりが始まった。
「昔、地元ノヴァーラのカーニバルのお祭りでは、大鍋で作ったタプロンとポレンタを街の人たちにふるまっていたのよ。仮装した子供たちと親、親戚、友人たちがみんな集まって、大きなテントの下でわいわい食べるの。楽しかったな」。最近は、カーニバルのそんなイベントも少なくなり、人が集まって一緒に食べて親しむ習慣が、どんどん減っているという。
「だからうちの店では、その時たまたま同じ空間に居合わせる知らない人同士も楽しく過ごせるような、心を和ませる料理を作って出していきたいのよ」とアンナさん。アンティケ・セーレ=昔ながらの昨夜、とはそんな思いがこめられた店名なのだ。タプロンの生まれ故郷で作られる「ゲンメ」など、ピエモンテの赤ワインをたっぷり使って煮込んだ一皿は、そんな役目を果たしてくれそうな温かいおいしさに満ちている。
1996年よりイタリア・トリノ在住。ライター、コーディネーターとして日本にイタリアの食情報を発信する。『東洋経済オンライン』『料理通信』Asahi.com『Globe+』、News Week 日本版ブログ『World Voice』,QJWebなどに執筆。本物の日本食文化を伝えるwebサイト「SASAYAKA」を3ヶ国語にて展開。同名の和風チョコレートを、トリノの老舗チョコレート職人とのコラボにて発売を開始したばかり。イタリアの暮らしやコロナ情報を綴った個人ブログ「ピエモンテのしあわせマダミン2」も好評。ノート版こちら→https://note.com/miyamoto_madamin
作り方
下ごしらえ
- 鍋にニンジン、タマネギ、セロリなど家にある野菜(分量外)と水4Lを入れ、弱火で1時間ほど煮込み野菜のブロード(イタリアのだし汁)を作っておく。半量ほどまで煮詰まったら、飲んでおいしいぐらいの塩をする。(写真a 参照)
作り方
- 鍋にオリーヴオイルとスライスしたタマネギ、ローリエを入れたら火をつけ、中火で炒める。(写真b 参照)
- ローズマリーの葉を軸からはずし、ラードと一緒に細かく刻んだら、1の鍋に入れる。(写真c,d 参照)
- タマネギがしっかり黄金色になったら肉を加え、ほぐしながら炒める。軽く塩、コショウをする。(写真e,f 参照)
- 肉の色が変わったら赤ワインを投入。(写真g 参照)
- ワインの水気がなくなるまで煮たら、ザクザクっと刻んだキャベツを加える。(写真h,i 参照)
- 作っておいたブロードを加えながら、キャベツが柔らかくなるまで蓋をして約30分ほど中~弱火で煮る。仕上がりのイメージはジューシーなミートソース。かさかさだったり、焦げ付かないようにするため、常に水分を加えながら煮ること。(写真j 参照)
- 出来上がったら、熱々のポレンタに添えていただく。
お料理ポイント
・日本でロバの肉が難しいのであれば、できれば馬肉で作ってみて。牛肉とは全然違う、やさしい旨味がある上に、低カロリーで鉄分がたっぷりよ。それも難しければ、牛肉や豚肉などで代用可能。・ハーブや塩・コショウをまぶして熟成させたラードは、イタリアでは簡単に手に入るし、料理に旨み、コクを与えてくれるので私はいろいろな料理に使うけれど、日本で手に入らなければ豚の脂と塩、ハーブを混ぜ合わせるなど、工夫してみて。
・ローズマリーは口の中でチクチクしないよう、しっかり細かく刻むのが大事なポイントよ。
・オステリアのキッチンには常に野菜のブロードを準備してあるけれど、家庭ではお湯でのばした市販のブイヨンで代用しても。ただ、できればやっぱり、自作のほうがおいしいわね。ニンジン、タマネギ、セロリや、冷蔵庫にあるクズ野菜を火にかけておくだけなのでぜひやってみて。