お料理説明・背景
標高1500m、アオスタの山々を望む山の中腹に「Aguriturismo les ecureuils」(アグリトゥリズモ・レ・セクレイル)はある。マンマ、グローリーさんとご主人のぺぺさんが、子供たちと一緒に暮らしながら働ける場所を作ろうと、市内で経営していたビアパブを閉じて移り住み、開業から今年で34年になる。山羊をはじめ、羊、豚、ガチョウなどを飼育していて、山羊乳、羊乳でチーズも作っている。おいしいと評判のチーズはアグリの料理にも登場する。スイスで農業を学んでいた息子のピエロさんは、スイス人の奥さんとここで一緒に暮らし、家畜の世話やチーズ作りを任されている。両親の思いはきちんと叶っていた。
取材で訪れたのは2012年の2月。まだ雪深く、真冬の寒さを想像して行ったらそのシーズンは暖冬。すっかり雪も溶けて、昼間の日差しはTシャツ1枚でも過ごせるような陽気だった。それでも夜になればしっかり冷え込むので、やはりそんな時には冬山の料理が、心と体を温めてくれるのだ。
グローリさんの得意料理の一つAnatra in cive(鴨肉の赤ワイン煮)とPolenta conci(ポレンタ・コンチャ)は、寒い季節に最適だった。「civet」はジビエを赤ワインで煮込むフランス料理の流れを汲む料理なので、本来、肉はノロジカを使うことが多いが、この時は「鴨なら日本でも入手しやすいでしょう」と、やさしい心遣いで鴨肉ヴァージョンを作ってくれた。調理はシンプルだが、アオスタのワインやチーズを使うことで、より郷土色を色濃くすることと、シンプルだからこそ丁寧に作ることを心がけていると言いながら、キッチンで作業する息の合った二人のリズムは心地よく、そこにゆったり流れる豊かな時間を感じたのをよく覚えている。
ほとんど壁しか残っていなかったような山小屋を、夫婦で時間をかけて造り上げてきたことが、揺るぎない心のつながりを築き、辿り着いた二人の時間が安らぎと心地よさをゲストに与えてくれているのだろう。と取材メモに書いてあった。料理もほんとうにおいしかった。
2013年にはマンマの料理フェスタに参加してもらうために二人を日本へ招待している。そのときの様子はこのブログで。https://italiazuki.com/?p=5759
その後、2015年に残念ながらグローリーさんは他界された。肌ツヤが美しく、いつも凛としているグローリーさんは、ほんとうに素敵なマンマでした。https://italiazuki.com/?p=8839
しばらくアオスタには行かれてないけれど、きっと彼女のハートは息子夫婦が受け継いでいるだろう。
春から夏にかけて、出産が終わった季節のチーズがおいしいとグローリーさんが教えてくれたので、おいしく気持ちのいい季節に再訪したい。
文:イタリア好き編集長 マッシモ 写真:萬田康文
★『イタリア好き』本誌vol.9ヴァッレ・ダオスタ特集はこちら→https://italiazuki.com/?p=6900
材料
鴨肉の赤ワイン煮とポレンタ・コンチャ(10人分)
【鴨肉の赤ワイン煮】 | ||
---|---|---|
・鴨肉 | 1.5kg | |
・赤ワイン | 1L | |
・小麦粉 | 適量 | |
・エクストラ・ヴァージン・オリーヴオイル | 50ml | |
・ローリエ | 1枚 | |
・シナモン | 1本 | |
・クローブ | 2個 | |
・セージの葉 | 1枚 | |
【ポレンタ・コンチャ】 | ||
・水 | 2L | |
・トウモロコシの粉 | 500g | |
・無塩バター | 200g | |
・フォンテイーナチーズ | 100g | |
・塩 | 2つまみ |
種類豊富なイタリア食材&ワインサイト「tartaruga(タルタルーガ)」からもお求めいただけます。
作り方
下ごしらえ
- 鴨肉を一口大に切り、赤ワインに漬けて冷蔵庫で7~8時間おく。
作り方
- 鴨肉の赤ワイン煮を作る。漬けておいた鴨肉を取り出し、一つひとつに小麦粉をまぶす。(写真a 参照)
- 深鍋に1を入れ、軽くいためる。(写真b 参照)
- 漬けておいた赤ワイン、オリーヴオイル、塩、ローリエ、シナモン、クローヴ、セージの葉を加え、蓋をして時々かき混ぜながら、弱火で1時間半程度煮込む。(写真c 参照)
- 肉が軟らかくなってトロッとしてきたら出来上がり。(写真d 参照)
- ポレンタ・コンチャを作る。バターとフォンティーナチーズを適当な大きさに切る。(写真e 参照)
- 深鍋に水を入れ沸騰したら塩を入れ、トウモロコシの粉を少しずつ加えながら、弱火で気長に40分くらい混ぜる。(写真f 参照)
- 木ベラに生地くっつかなくなってきなら、切っておいたバターとフォンティーナチーズを入れ、引き続き混ぜる。(写真g 参照)
- バターとフォンティーナチーズが溶けて滑らかになったら出来上がり。(写真h 参照)