お料理説明・背景
日本の食卓ではあまり馴染みのないムール貝だが、イタリアでは北から南まで幅広く食されている。リナの住むヴェネト州にはヴェネツィアの南、アドリア海に面したキオッジャという漁港町があり、ムール貝の養殖も盛ん。1年を通して手に入るといっても本来の旬は夏で、ふっくらと綺麗なオレンジ色の実にそそられる。暑さで食欲がない時でも食べやすい食材だ。下処理も簡単で、よく洗って一つ一つ“ひげ”(足糸)を取り除くのみ。あとは10分程度、火を通すだけで素早く準備できる点も重宝されている理由だ。
リナは毎年夏になると、親族たちと一緒にキオッジャ郊外のアパートを借りて、大勢で海辺のバケーションを楽しんできた。海のないヴェローナとは違い、毎晩、魚介類を調理していたらしい。 「何十年も前のことだけど」と前置きした上で、「砂浜に行くだけで大量のアサリがどっさり上がっていて、毎日たらふく海の幸を食べたものよ。そんな時代が懐かしいわ」と語ってくれた。今となっては観光客の増加でそんな光景も見られなくなったそう。「まぁ、ムール貝は水の中に入らないと採れないから、もともと無理だったけどね」と笑う。
ムール貝は魚介のパスタやリゾットなどのプリモにしてもおいしいのはもちろんだが、今回は他の魚介類は一切入れず、ムール貝が主役の2品を紹介したい。
リナが好んで作るのはコショウたっぷりの白ワイン蒸し、ナポリ風のペパータ(ナポリ方言ではインペパータ)。ただし、ペパータはコショウが辛いほどに効いていて苦手な人もいる。というわけで、リナは家族のためにニンニクをよく効かせたトマトベースも作るようになったそう。ムール貝を半量ずつ、2つの鍋に分けて、2種類の味付けで用意するのが今や定番となっている。ムール貝のみでシンプルなのに、山盛りにすれば見栄えもする。前菜にもセコンドにもなるので、プリモに何を食べるかによって順序を変えるだけなのも便利だ。
貝を食べながら、貝殻をスプーンのようにして出汁を味わうこともお忘れなく。さらにムール貝を食べ切った後はパンを出汁に染み込ませて食べるスカルペッタが基本でもある。「スカルペッタで2度楽しめる、いや、2種類あるから4度楽しめるわね」 1人500g(殻含む)は軽く食べれてしまうムール貝。用途や好みに合わせて味付けや量を調節して試してみてほしい。
週末や休暇を利用してアルト・アディジェ地方へ赴き、アルプスの麓町ヴィピテーノを拠点に、山登りやキャンプ、キノコ狩りなどのアウトドアを楽しむかたわら、フリーライターや日本語教師としても活動する。 東京のテレビ局で報道記者を務めていた2011年、オペラにはまって渡伊。カンパーニア州に1年留学の間、イタリア中を旅してその大自然や地域ごとに異なる文化、心豊かな暮らしに魅了される。数年後、イタリア人との結婚を機にヴェローナへと移住。 ガイドブックには載っていないような小さな町を巡り、ローカルな生活に浸るのが好き。インスタグラム(@yukino.it)で「旅と山の記録」を発信中。
作り方
下ごしらえ
- ムール貝をよく洗い、“ひげ”が出ていれば付け根から上方向に引き抜く。割れている貝などがあれば取り除いておく。(写真a 参照)
- ニンニクを細かく切っておく。(写真b 参照)
【ムール貝のペパータ】の作り方
- 大きめの鍋に切ったニンニクとムール貝を入れ、さらに白ワインを加える。(写真c 参照)
- コショウをたっぷりと挽いて鍋に追加し、蓋をして強火にかける。(写真d 参照)
- 4~5分で貝が開き始めるので、混ぜて味を見ながらコショウ加減を調節して完成。(写真e 参照)
【ムール貝のトマトソース和え】の作り方
- 大きめの鍋にムール貝を入れて蓋をし、強火にかけて5分ほど貝が開くのを待つ。(写真f 参照)
- 別の鍋にオリーヴオイル、切ったニンニクを入れて火にかけ、香り立たせる。(写真g 参照)
- 2の鍋にカットトマトを入れて煮詰め、コショウをかける。(写真h 参照)
- 1のムール貝にもコショウを少々かけ、貝が開いたらトマトソースの鍋にムール貝を全て移す。(写真i 参照)
- ムール貝をトマトソースとなじませ、刻んだパセリをかける。(写真j 参照)
- 味が薄いと感じたら塩で味を調えて出来上がり。