お料理説明・背景
「トリエステ名物のプルーン入りニョッキを作るわよ」と、意外なところから連絡があった。連絡してくれたのは、この「マンマのレシピ」で何度か取材させてもらったマリアンジェラさんだ。なぜ意外かというと、マリアンジェラさんは生まれも育ちもトスカーナ、得意料理もトスカーナ料理のマンマだからだ。そんなトスカーナ出身のマリアンジェラさんが、トリエステ名物を作ってくれるという。
トリエステは北イタリアのスロベニアとの国境に位置した、小ウィーンと呼ばれるオーストリアのような町並みの美しい港町。過去にオーストリア=ハンガリー帝国の統治下にあった歴史もあることから、食文化はトスカーナ州とは随分異なる。
実はマリアンジェラさんのご主人のルーチョさんは、トリエステ出身。もう何年もトリエステに帰っていないというルーチョさんのために、懐かしい故郷の名物料理プルーン入りのニョッキを手作りすることにしたのだ。
このプルーン入りのニョッキは、イタリアではかなり異色のニョッキになる。というのも、ほぼデザートといっていいほど甘いプリモだからだ。日本料理では料理に砂糖を使うことが結構多いが、イタリア料理ではほとんど砂糖は使わない。それが、このプルーン入りのニョッキでは砂糖をがっつり使う。月見団子みたいなニョッキにかけるのは、パン粉をブラウンシュガー、バター、シナモンにからめたもの。この材料を見ただけでもまるでドルチェの材料のようだ。
数十年ぶりに味わえる好物のプルーン入りニョッキを目の前にして、ルーチョさんは目を輝かせた。「私の幼い頃、トリエステの実家に時々来てくれた料理上手な看護師さんが手作りして持ってきてくれたのが、このプルーン入りのニョッキだったんだ。私の母はベネチア出身だったからこの料理のことを知らなかったし、母は料理が下手で苦手だったから、地元の看護師さんが持ってきてくれるこのニョッキを食べることは楽しみだったんだ。甘さとしょっぱさの両方を味わえるオシャレな料理で、いつもおいしいなあと思いながら食べていた思い出の料理だよ」
マリアンジェラさんが作ったプルーン入りニョッキを食べて「わあ、懐かしい味。トリエステで小さい頃に食べたのと同じ味だよ。これは、いくつでも食べられる。おいしいなあ!」と笑顔でおかわりを続けていた。赤ワインともよく合う一品で、最近はお酒を控えているというルーチョさんもさすがにこの日はいつもより多めにワインも楽しんでいた。
しかし、この料理を初めて食べるトスカーナ育ちの孫や娘たちからは「アップルシュトゥルーデルみたい」などという感想が飛び出し、「デザートに分類した方がいいのでは?」などという議論が食卓で起こった。そのくらい、この料理はトスカーナのイタリア人にとっては異色のプリモなのだろう。
トリエステ以外のイタリア人にとってはデザートの方がいいのかも知れないが、甘い料理も多い和食を食べる日本人にとってはプリモでも特に違和感なく、そして日本人の口にとても合う料理でもあると思った。地元トリエステでも、最近ではこの名物料理が食べられるレストランが少なくなっているそうなので、手作りでチャレンジしてみてはいかがだろうか。
元静岡朝日テレビ報道記者。2012年からフィレンツェ在局FMラジオにレギュラー出演中。FIATジャパン公式サイトや週刊新潮等でライターとして活動中。世界40カ国旅行。イタリアで起業、オンラインショップ&ブログ「AmicaMakoイタリアンスタイル」を運営。
作り方
下ごしらえ
- 干しプルーンを二つに割り、中にブラウンシュガー(合計40g)をひとつまみ程度ずつ詰めておく。(写真a 参照)
- バター80gを小鍋に入れて溶かしておく。電子レンジでも可。(写真b 参照)
- 別にバター80gをフライパンに入れて火にかけ溶かし、ブラウンシュガー80g、シナモン、パン粉を加えて3分ほど少し色づくまでかき混ぜながら弱火で炒めておく。(写真c 参照)
作り方
- ジャガイモを丸ごと皮がついたまま熱湯で40~45分ほど軟らかくなるまでゆでる。(写真d 参照)
- テーブルに分量外の小麦粉(必須)をまぶし、その上にゆでたジャガイモをマッシュ器具を使ってマッシュする。自然にジャガイモの皮もむける。(写真e 参照)
- 全部マッシュし終わったら、マッシュポテトの上に生卵2個、バター40g、小麦粉400g、塩少々を加え、材料全てを混ぜ合わせてしっかりこねる。丸めては伸ばし、丸めては伸ばしを繰り返す。(写真f,g 参照)
- 全体がまとまったら、麺棒などで生地を1cm弱の厚みで四角く伸ばす。この時、生地がべたつくようであれば、べたつかなくなるまで小麦粉を加えて調整する。(写真h 参照)
- 生地の一隅に下準備しておいたプルーンを載せ、一片5㎝程度の正方形に切って試しに一つプルーンを包んで丸めてみる。大きすぎれば一片を4㎝程度に、小さすぎれば6㎝程度に調整し、他の生地も4〜6㎝の正方形に切り分ける。(写真i,j 参照)
- 全てのプルーンを生地で包んで一つあたり50〜60g程度の団子状にする。(写真k 参照)
- 湯を沸かしておき、団子にしたニョッキをゆでる。この時、一度にゆでる量は、鍋の大きさにあわせてニョッキ同士がくっつかない程度の量にとどめておく。4~5分ほどで、ニョッキがお湯の表面に浮いたら取り出す。(写真l 参照)
- ゆで上がったニョッキを下ごしらえ(2)の溶かしバターにからめる。(写真m 参照)
- ニョッキをお皿に盛り、下ごしらえ(3)を上に振りかけて完成。振りかけるシナモンパン粉は時間を置くと固まってしまうので、その場合はパラパラになるようフォークなどでかき混ぜる。(写真n 参照)