お料理説明・背景
イタリア語のscapece(スカペーチェ)は、スペイン語のエスカベッシュが由来となっている。なのでイタリア人に「ズッキーネ・アッラ・スカペーチェの”スカペーチェ”って何?」と聞くと、「さて、なんだろうね?」と返ってきた。日本人に「エスカベッシュって何?」と聞いても料理マニア以外で即座に答えられる人が多くないのと同じ感覚だ。エスカベッシュとは「お酢でマリネする、酢漬けする」という意味なので、今回の料理はズッキーニの酢漬けマリネ、といった意味合いになる。
私がこの料理を最初に知ったのは友人のジョバンニ・オラツィオさんが夕食会で振る舞ってくれたからだ。見た目は地味な料理だが、食べてびっくり。シンプルながら一度食べだしたら止まらないおいしさ。これは、日本人好みの味だなあと思い、「一体これはどこで覚えた料理なの?」と聞くと、「そりゃあ、マンマからだよ」とのこと。そこで、ジョバンニ・オラツィオさんのマンマ、ラッファエッラさんにレシピを教えてもらうことになった。
ラッファエッラさんのお母さんはフィレンツェ出身だが、バジリカータ州出身者と結婚してバジリカータのVenosa(ヴェノーザ)へ移り住んだ。そこでラッファエッラさんは生まれて18歳まで育った。その後はフィレンツェに住んでいるので、彼女の料理のルーツはトスカーナ州とバジリカータ州の2州にまたがる。ズッキーニのエスカベッシュはナポリの伝統料理だが、カンパーニア州のすぐ隣のバジリカータ州でもよく食べられる料理でお母さんから教わったそうだ。
ただ、お母さんのもともとのレシピは輪切りにして炒める方法だったそうだが、ラッファエッラさんは縦長に切ってグリルするレシピにアレンジしている。息子のジョバンニ・オラツィオさんがつくるのはおばあちゃん版。だから、実は母と息子では同じ料理でも見た目も食感もかなり違う。「あれ? お母さんとおばあちゃんのレシピじゃこんなにも違うんだね」と母と息子で料理の会話に花が咲く。
「息子が小さい頃は一緒にピザを作ったりしたのよ。でも料理に興味を持ち出したのは大学生の頃からかな。彼はすごく料理が上手でね、とても誇らしいわ。今でも料理中に分からないことがあれば私に電話してくるの」とラッファエッラさん。確かにジョバンニ・オラツィオさんの料理の腕前はかなりのものだが、それはやはり母ラッファエッラさんのおいしい手料理を食べて育ったからだ。「Il cibo della mia mamma meravigliosa e’ una parte della mia pancia!(マンマの最高の手料理は、オレの胃袋の一部だからね!)と自慢気に話す息子のジョバンニ・オラツィオさん。やっぱりイタリアという国は、料理が家族の絆を強めている。そんな風に思いながら、ラッファエッラさんバージョンとジョバンニ・オラツィオさんのバージョンを「どちらも甲乙つけがたいなあ」と食べ比べしたのでした。
ミントの爽やかさがポイントのこの料理はそんなズッキーニの旬である夏にぴったりの一品。少ない材料でぱぱっと手軽に作れるのであと一品何か欲しい時などに是非お試しあれ。
元静岡朝日テレビ報道記者。2012年からフィレンツェ在局FMラジオにレギュラー出演中。FIATジャパン公式サイトや週刊新潮等でライターとして活動中。世界40カ国旅行。イタリアで起業、オンラインショップ&ブログ「AmicaMakoイタリアンスタイル」を運営。
作り方
下ごしらえ
- ズッキーニの上下の部分を切り落とし、縦長にできる限り細く切る。それをザルに入れて塩をふり、15分程度そのままにしてズッキーニから水分を少し出しておく。(写真a 参照)
- ニンニクは半分に切って芯をとり、薄くスライスしておく。
作り方
- フライパンまたはグリルで、オイルを入れずに直接細長く切ったズッキーニを弱火でゆっくり焼く。その際、時間がかかる皮の方から先に焼くようにする。 (写真b 参照)
- 焦がさないように注意しながら少し焼き色がつくまで両面をじっくり焼く。 (写真c 参照)
- 焼いている間にマリネソースの準備をする。深めの皿にオリーヴオイル、ビネガー、スライスしたニンニクと刻んだミントの葉、塩を入れてよく混ぜ合わせる。 (写真d 参照)
- 焼いたズッキーニを3のマリネソースの入った皿に入れてよく混ぜあわせる。 (写真e 参照)
- 一晩冷蔵庫で寝かせる。
アレンジ:息子のジョバンニ・オラツィオ版
- 1と2の工程の代わりに、ズッキーニを薄い輪切りにして、オイルを入れずフライパンで色が変わるまで素焼きする。その後は同じ。(写真f・g 参照)