お料理説明・背景
お米のトルタはリグーリア州の家庭料理。また、代表的なテイクアウト食品の一つでもあり、オーブン窯のあるデリカテッセンで販売されています。薄い生地の中にはチーズ、牛乳で煮込んだお米がぎっしり入っていて、一切れでお腹いっぱいになります。味は日本のイタリア風料理『ドリア』をもっとシンプルにしたイメージです。 熱々のできたてがおいしいドリアとは違い、お米のトルタは冷めてからいただきます。時間がある時にたくさん作っておいて、翌日のお弁当にしたり、マンマ不在時に小腹が空いた家族がいつでも食べられるようにと食卓に用意されたりします。イネスさんは、夫婦旅行で家を空ける際、独身の息子たちに数日分のお米のトルタを用意してから、心置きなくバカンスへ出発していたそうです。
興味深いことが一つ。リグーリア州はお米の産地ではありません。平地の少ない地形のため、お米を耕す土地としては相応しくありません。では一体なぜお米のトルタが郷土料理なのか?お米はどこからやって来たのでしょう? イネスさんの旦那さんが、子供の頃に年寄りたちから聞いた話を教えてくれました。
彼はジェノヴァの山にある小さな村、ペンテマの出身です。今はお米がいつでもどこでも手に入りますが、昔はそうはいきませんでした。13歳以上のペンテマの村民たち(男女共)は毎年6月になると、ピエモンテ州の有名なお米の産地、ヴェルチェッリへ短期の出稼ぎへ出ていました。米農家からの依頼で広大な畑の除草作業などを行うためです。村から食料を積むためラバを連れて、険しい山道を数日かけて徒歩で向かったそうです。ヴェルチェッリには約1ヶ月間滞在し、畑仕事の後は簡素な納屋の中で睡眠をとったそうです。機械の無い時代、なかなかの重労働だったといいます。収穫の報酬は現金ではなくお米を受け取ります。そして一年分のお米が入った重い米袋を担いで、ペンテマへと帰りました。ひと昔前まではこのようにしてリグーリアにお米がやってきたのです。
そしてイタリアはヨーロッパで最大の米の生産国。スーパーのお米売り場は何種類ものお米が陳列されています。これらは料理、調理法によって使い分けられています。お米のトルタにはリゾットに最適なアルボリオという種類のお米がおすすめです。水分をよく吸収し、味が米にしっかり染み込むためです。また、イネスさんの義理のお姉さんは孫が食べやすいようにグリーンピース、にんじん、ハムを入れ、彩りを豊かにするそうです。皆さんも自分好みに色々とアレンジして楽しんでくださいね。
お米のトルタといえば「トルタ・ディ・リーゾ エ フィニータ!」(お米のトルタは売り切れだ!)という有名なフレーズがあります。ジェノヴァのお笑い芸人が、観光客への全く愛想のないリグーリア特有の接客を皮肉って笑いにした、自虐的なコントに登場するフレーズです。「ローマやフィレンツェでの観光客への過剰接客に嫌気がさしたら、是非リグーリアへ行ってみてね!」というオチで、こちらのお笑い界の「すべらない話」の鉄板のようです。実際、リグーリアの接客スタイルは愛想が悪いことで有名。「こんにちは! いらっしゃいませ!」なんていう朗らかな接客は珍しいかもしれません。しかし不機嫌そうな顔をされても心配してはいけません。見た目や話し方が怖くても、会話の内容はとても親切だったりします。これがリグーリア流の「おもてなし」なのです。昔ながらの古いお店でよく見られますが、今では笑顔で接客してくれるお店も増えてきましたよ。
2011年よりジェノヴァ在住。音楽院を卒業後、演奏活動の傍らフリーライター、旅行コーディネート、通訳などを務める。演奏会などでリグーリア州各地を周り、それぞれの街の文化や風景に魅了される。ジェノヴァ近郊の街を散策したり、骨董市巡りが休日の楽しみ。 山と海に囲まれたリグーリア州の四季折々の情報をご紹介いたします。Instagramはこちらから
作り方
下ごしらえ
- 乾燥キノコを常温の水に戻し、柔らかくする。(写真a 参照)
- 生地を作る。まな板に小麦粉を山型に乗せ、頂点にくぼみを作る。くぼみの中に塩、オリーヴオイル(少量)を加え、指を使い時計回りに混ぜる。(写真b 参照)
- くぼみに少しずつ水を加え、小麦粉全体に絡むように手で混ぜる。(※水は一度にたくさん入れすぎないよう、様子を見ながら少量ずつ加えていく。)(写真c 参照)
- 生地が一つにまとまるように両手でこねる。まとまった後も5~10分ほど生地をよくこねて、耳たぶくらいの柔らかさにする。(写真d,e,f 参照)
- 生地を丸くまとめたら、底に小麦粉を軽く振ったボールに入れ、布巾をかけてしばらく休ませる。(写真g,h 参照)
作り方
- 深鍋に牛乳を入れ、沸騰させる。(※強火すぎると鍋底が焦げるので注意)
- 牛乳に粗塩を加え、やや沸騰したらでお米(※洗わない)を入れる。中火にし、鍋底が焦げないように時々混ぜながら約10~11分ほどアルデンテ(やや硬め)の状態になるまで煮る。その後、火を止め、時々混ぜながら人肌に冷ます。だんだんお米が牛乳を吸っていき水っぽさがなくなる。(写真i 参照)
- 水に戻した乾燥キノコ、タマネギをみじん切りにし、オリーヴオイルを少量ひいたフライパンでタマネギが飴色になるまでよくいためる。乾燥イタリンパセリを好みで加える。(写真j 参照)
- お米をゆでた鍋が冷めてきたら、工程3でいためたもの、パルミジャーノチーズ、ストラッキーノ、ナツメグを加えて混ぜる。塩で味を調えたら、卵を加えて混ぜる。(写真k,l 参照)
- オーブンを170~180度の予熱で温める。大きめのまな板に小麦粉をふり、下準備で用意した生地を麺棒で餃子の皮ほどの薄さになるまで伸ばす。(写真m 参照)
- ケーキ型などにオーブンシートを縁の少し上まで敷く。その上に生地をのせ、指でケーキ型の形に馴染ませる。(写真n,o 参照)
- 具材を流し入れ、生地の端は型から2~3㎝ほど余りを残して、不要な部分を切り落とす。(写真p,q 参照)
- 生地の端を折りたたむ。(写真r 参照)
- パルミジャーノ・レッジャーノチーズ(分量外)を満遍なく振りかけ、予熱で温めておいたオーブンで約30~40分焼き上げる。(※焼き色がよく付いたら、アルミホイルを被せて続けて焼くと焦げません)(写真s 参照)
- 型から出し、数時間ほど常温で冷ましてから召し上がれ。(写真t 参照)