お料理説明・背景
ローマは仔牛料理で有名な地である。もっとも名が知られている料理といえばやはりサルティンボッカだが、サルティンボッカ以外にもおいしい仔牛料理はたくさんある。 そのひとつが、パイヤータであろう。パイヤータは実はローマの方言で、本来はパリアータと呼ばれ、小腸を意味する。この小腸をトマトで煮込み、リガトーニパスタとあえたり、パスタなしでセコンドとしていただくものが隠れたローマ名物である。
ローマの下町にテスタッチョという地域がある。今でこそ、夜には若者たちやアーティストで溢れかえっているが、以前は庶民の住む地域だった。1960年代まで、テスタッチョには市の屠殺場があったそうだ。当時は牛、豚、羊の肉は高級品で、貴族しか口にできず、貴族が食べない、売り物にさえならなかった内臓部分のみが、当時の庶民に労働賃金の代わりとして配られていたのだという。これがのちにローマの伝統料理として名を馳せていく。 ちなみに取材時に知ったのだが、このローマで愛されてきたパイアータの市販は数年前より禁じられており、一般ルートではもう目にすることができないそう。レストランなどで見つけたらぜひ食べてもらいたい。
今回ご紹介する『仔牛のミルク煮』は、レストランでこそあまり見かけないが、家庭料理ではよく登場する一品。発祥はトスカーナともいわれるが、トスカーナ生まれの義理母からエヴェリーナさんに伝わったそうで、彼女のお気に入りメニューのひとつともなっている。家族みんなが集まる時には必ずと言っていいほど食卓を飾っているのだとか。
「ただ牛乳と煮込むだけでこんなにおいしくできあがるんだから、魔法の料理よ」 笑いながらそう話すエヴェリーナさん。そんな彼女、実は牛乳嫌いだというから驚く。しかし実際に私も食べてみて納得した。牛乳で作ったと言わなければ、きっと誰にもわからないであろう。それくらい、加熱することによって色も形状も味も変化を遂げてしまうのである。
きれいなオレンジ色に仕上がったソースが仔牛の白に鮮やかに映える。忘れてはいけないのは、カリカリポテト! 『仔牛は勝手に仕上がってくれるから、せめてこれくらいは作らないとね』と言いながら、仔牛を煮込むかたわら、さっさとポテトをいためあげていた。
あっというまに空となった皿を眺めながら、レストランでは味わえないおいしさを満喫。イタリア家庭料理の真髄がつまったマンマの一皿ともいえる。
日系航空会社にて国際線CAを12年、その間2年程フィレンツェに料理留学したのを機 に料理の世界に目覚める。イタリア料理以外にも懐石料理、ヴェトナム料理を学ぶ。2008年に渡伊。コルドンブ ルーでの非常勤講師を経て、自宅でイタリア家庭料理教室を主宰中。 野菜ソムリエ、現在はイタリアワインソムリエ取得中。 Instagram(@roma_italy_tsugumi)
作り方
下ごしらえ
- 仔牛は常温で2~3時間ほど休ませる。
- ジャガイモは1cm角に切る。
作り方
- お肉にしっかりと小麦粉をまぶす。(写真a 参照)
- 中火でバターを熱し、肉を入れたら全体的に焼き色をつける。(写真b 参照)
- 塩を肉の上にしっかりとふりかけ(のせる感じ)、肉の横から静かに牛乳を加えていく。(写真c 参照)
- 時々肉を動かしながら、蓋をして1~1時間半ほど弱火で煮込んでいく。(写真d 参照)
- 牛乳の色が濃い黄色から茶色に近くなったら肉を取り出す。(写真e 参照)
- ソースは分離した乳脂肪分(塊になったもの)を濾して取り除き、色が茶色になってとろみがつくまでフライパンで煮詰める。(写真f 参照)
- ジャガイモ用にフライパンを用意し、多めのオリーヴオイルでカリカリになるまで焼きあげる。(写真g 参照)