トレンティーノ-アルト・アディジェ州(新宅 裕子)

コロナ禍の時事イタリア語から見る歴史&雑学

山岳地帯は真っ白な雪に囲まれ、ウィンタースポーツの楽しいシーズン。本当はそんな冬山の様子をお伝えしたいなと思っていたのですが・・・


春に続いて再び、不要不急の外出自粛が続く中、おうち時間が長~くなっているイタリアより、今回は私がおもしろいなぁと思った、ちょっとマニアックな言語の話をさせてください。

 

日本では今年の漢字や流行語にコロナ関連の言葉が多く見られたようですが、イタリアで今年よく聞いた言葉の1つがquarantena(クアランテーナ)「検疫」という意味を持つ単語です。

 

とはいえ、日常会話では、

「家族が感染したので、私は今クアランテーナ中」とか、

「帰国したら、2週間クアランテーナしなければならない」

というような形で耳にしました。

 

この場合の意味は「検疫」よりも「隔離」

 

英語でもほぼ同じ言葉quarantine(クアランティーン)=「検疫」self-quarantine =「自主隔離」なんて言うので、ご存じの方も多くいらっしゃるかもしれませんね。

この語源を辿ると、ヨーロッパの歴史も垣間見えてきます。

 

この言葉の響きがquaranta(クアランタ)40に近いと気づかれた方も多いでしょう。実はもともとのクアランテーナには【40日間】という意味が含まれており、その由来は中世のヴェネツィア共和国まで遡ります。


14世紀のヨーロッパでは「ペスト」が大流行。ヨーロッパ全体で人口の3分の1が亡くなったと言われるほど猛威を振るったこの感染症は大変恐れられていたものの、当時の医学でははっきりと原因が解明できてはいませんでした。

ただし、人から人へ感染することと、アジアの方から持ち込まれている、ということはなんとなくわかっていたため、地中海を行き来する船は警戒されていたのです。

 

その頃、コンスタンティノープル、現在のトルコ・イスタンブールを通じて、アジアとの貿易を盛んに行っていたヴェネツィアの港では、そんな事情から、船が到着しても荷物や人をすぐには上陸させず、沖に40日間停泊させ様子を窺いました。そして40日後、感染者がいないことを確認した上で、上陸を許可したのだそう。

その40日間がヴェネツィア語*でクアランテーナであり、「検疫」として今のイタリア語にも残り、さらに英語にも使われているというわけです。

[*ヴェネツィア語とは:現在のイタリア語ヴェネト方言のことだが、当時はラテン語由来の一言語として、ヴェネツィア共和国の公用語とされていた。]

 

イタリア語の勉強をしていると、「イタリア(+スイスの一部)でしか話されていないなんて、通用範囲が狭いな」と感じることがあるかもしれません。しかし、専門用語のような難しい外来語や英単語は特に、ルーツをたどるとイタリア語、さらにはラテン語につながることが多く、私は言語を深掘りしながら歴史や文化に触れるのが大好きです。

 

少し話は逸れますが、日本語でもおなじみのマスクという外来語についても少し。その語源は諸説ありますが、ラテン語maschera(マスケラ)とも言われています。


舞台劇などで使用されるお面やヴェルディのオペラ「仮面舞踏会」に見られるような顔や身分を隠すための仮面がマスケラ


ヴェネツィアへ行けば、カーニバル用の様々なマスケラが売られていますが、ここで注目したいのが一際目立つ、白く鼻が嘴のように長く伸びたタイプのもの。実はこれ、ペストの流行時に医者が着用していたマスケラなんです。


なぜこのような形をしているのか?ヒト-ヒト感染防止に距離を保つための嘴かなと思ったのですが、実はこの鼻の部分にハーブを入れ、その香りを吸いながら感染者と向き合っていたそう。効果があったのかは不明ですが、試行錯誤してペストに立ち向かっていた様子が見えてきますよね。

なお、コロナ禍、イタリアにおいても着用義務のある、いわゆる普通のマスクは「小さな」を意味する-inaを語尾につけてmascherina(マスケリーナ)と呼ばれています。

 

最後に余談ですが、集団感染という意味で使われる「クラスター」。これはブドウなどの房や群れ、集団を表す英語clusterですが、イタリア語ではfocolaio(フォコラーイオ)という全く別の言葉を使って集団感染を表します。fuoco(フオーコ)=「火」の派生語です。

フォコラーイオには感染源という意味もあり、それが集団感染につながっていく様子は⇒ ⇒ ⇒小さく発生した火が燃え広がっていくような発想なんだろうなと思うと、なんだか妙に納得してしまうのは私だけでしょうか。

 

さて今回は、コロナ禍における時事単語をお届けしましたが、日本においてもイタリア語(ラテン語由来の言葉)をもとにしたカタカナ語は身近にあり、知らず知らずのうちに使われている可能性があります。気になる言葉を調べてみると、新たな発見があるかもしれません。

壮大な南アルプスの麓から山の暮らしや食文化、登山の魅力をご紹介!

新宅 裕子(Yuko Shintaku) 週末や休暇を利用してアルト・アディジェ地方へ赴き、アルプスの麓町ヴィピテーノを拠点に、山登りやキャンプ、キノコ狩りなどのアウトドアを楽しむかたわら、フリーライターや日本語教師としても活動する。 東京のテレビ局で報道記者を務めていた2011年、オペラにはまって渡伊。カンパーニア州に1年留学の間、イタリア中を旅してその大自然や地域ごとに異なる文化、心豊かな暮らしに魅了される。数年後、イタリア人との結婚を機にヴェローナへと移住。 ガイドブックには載っていないような小さな町を巡り、ローカルな生活に浸るのが好き。インスタグラム(@yukino.it)で「旅と山の記録」を発信中。

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    小林 もりみ(Morimi Kobayashi) 手間と時間を惜しまず丁寧につくる品々、Craft Foodsを輸入する「カーサ・モリミ」代表、生産者を訪ねながら、イタリアの自然の恵みを日本へ届けている。2008年 イタリア・オリーブオイル・テイスター協会『O.N.A.O.O』(Organizzazione Nazionale Assaggiatori Olio di Oliva)イタリア・インペリアの本校にてオリーブオイル・テイスターの資格取得。2009年スローフード運営の食科学大学( Universita degli Studi di Scienze Gastronomiche)にて『イタリアン・ガストロノミー&ツーリズム』修士課程修了。
    2014年よりピエモンテ州ポレンツォ食科学大学・修士課程非常勤講師(Master in Gastronomy in the World 日本の食文化:日本酒・茶道)。福島の子どもたちのイタリア保養「NPOオルト・デイ・ソーニ」代表。
    Instagram https://www.instagram.com/morimicucinetta/
    Instagram Casa Morimi https://www.instagram.com/casamorimi/
    カーサ・モリミ株式会社  http://www.casamorimi.co.jp/
    NPOオルト・デイ・ソーニ http://www.ortodeisogni.org
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    池田 美幸(Miyuki Ikeda)1986年よりイタリア在住。ミラノに住んでいるが、週末になるとイタリアで一番大きいステルヴィオ国立公園内にある山小屋へ逃避。日本で農学部を卒業。イタリアで手にしたチーズティスター・マエストロ、公認ワインティスターの資格を活かし、通訳、コーディネーターとして活躍中。
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    ヴェネトおよびフリウリを中心に、通訳、翻訳、地元マンマの料理レッスン及び生産者訪問コーディネイト、そして野菜を中心とする農産品の輸出業などの活動を行う。各種生産者との繋がりをとても大切に、ヴェネト州の驚くほど豊かな食文化を知ってもらうべく、ブログ『パドヴァのとっておき』では料理や季節のおいしい情報を中心に発信するなど活動中。