お料理説明・背景
ヴェネト州に属するとはいっても、ヴェローナという町は州都ヴェネツィアより、隣のロンバルディア州やトレンティーノ=アルト・アディジェ州へ入るほうがよっぽど近い。 北側にはPrealpi(プレアルプス)やPiccole Dolomiti(小さなドロミティ)と呼ばれる2,000m級の山々がアルプス山脈へと続くように始まる一方、南にはイタリア最大のポー平原がボローニャまで広がっている。イタリア最大の湖、ガルダ湖の東側もヴェローナ県の一部。このように、他の州と隣接し、多様な自然を有していることもあり、食文化もさまざま混ざり合っている印象だ。 アドリア海の魚介類やガルダ湖の淡水魚も手には入るが、レストランでは馬やロバの肉もよく見かけるし、家でも肉を使った料理のほうが圧倒的に多く食べられている。
今回は、そんな肉料理の中でも、ヴェローナにしか存在しないという、ヴェローナっ子が必ず口にする自慢の一品「ゆで肉のペアラ添え」をご紹介。「ペアラ」とは、古くなった硬いパンを削って粉状にしたものを出汁と混ぜ、コショウをたっぷりかけるドロッとしたソースのこと。語源がペペ(コショウ)ということからも、コショウが決め手となるのがわかる。 何時間もかけて煮込むものだから、暑い暑い時期には全く向かない冬の一皿だが、まだ私が日本に住んでいた数年前の夏、イタリアに遊びに来た際に一度、リナに作ってもらったことがある。近所に住む料理上手なマンマのリナは、そういう無茶なリクエストでも笑顔で楽しんでくれる人。クーラーを最大限にして、熱いコンロの前で格闘してくれた。
さて、リナに今回の取材をお願いしに行くと、隣ではリナの夫が大喜び。手間隙かかるレシピのため、この料理を作るにはやはり、誕生日やクリスマス、遠方に住む家族の帰省といった何かしらの理由が必要なのだ。 「お肉は何がいいかな」 と家族会議になり、 「(伝統的に決められている)鶏肉、牛タン、牛バラ、コデギンの4種類が正しいだろう! 」 と言う男性陣と、 「食べることばっかり考えて! 」 とあきれるリナ。伝統通りに4種のお肉を使うとハイカロリーな上、食べきれないほどの量になるため、いつもは3種類に減らしているらしいのだが。この議論は生粋のヴェロネーゼたちにお任せすることにした。(結局4種類全てを使うことになった)
ちなみにコデギンというおもしろい響きの言葉はヴェローナの方言であり、正式にはコテキーノ。サラミなどには選ばれなかった豚肉の、つまりは味の劣る部分を寄せ集めたソーセージの一種で、豚の皮なども混ぜ込まれている。生では食べられないためゆでるのだが、独特のにおいと弾力があり、好き嫌いが分かれるものだ。 お肉には比較的安価な部分を使い、ペアラには古いパンを使用するという、貧しい時代の名残が感じられる一皿ではあるが、今ではご馳走のように扱われているのが興味深い。ペアラ最大のポイントは、牛の骨髄を入れること。見た目は地味でも、かなりユニークな仕上がりでコクのある味わいなので、お好きなお肉と合わせてみてほしい。
週末や休暇を利用してアルト・アディジェ地方へ赴き、アルプスの麓町ヴィピテーノを拠点に、山登りやキャンプ、キノコ狩りなどのアウトドアを楽しむかたわら、フリーライターや日本語教師としても活動する。 東京のテレビ局で報道記者を務めていた2011年、オペラにはまって渡伊。カンパーニア州に1年留学の間、イタリア中を旅してその大自然や地域ごとに異なる文化、心豊かな暮らしに魅了される。数年後、イタリア人との結婚を機にヴェローナへと移住。 ガイドブックには載っていないような小さな町を巡り、ローカルな生活に浸るのが好き。インスタグラム(@yukino.it)で「旅と山の記録」を発信中。
作り方
- 骨髄を指で押し出し、牛骨を分けておく。スポッと抜けないときはスプーンですくう。(写真a 参照)
- ブロードをとる。鍋に鶏肉と牛肩バラ、牛骨、タマネギ、ニンジン、セロリを入れ、分量の水に塩を加えて強火で沸騰させる。(写真b 参照)
- 沸騰したらアク抜きをし、弱火にして2時間(圧力鍋の場合は1時間)煮たら鍋の火を止め、鶏肉と牛肩バラは鍋から取り出しておく。(写真c 参照)
下ごしらえ
作り方
- ペアラを作る。鍋に骨髄を入れ、崩しながら中火でいためる。(写真d 参照)
- パン粉を100gほど投入し、出汁をおたま2~3杯追加して混ぜる。(写真e 参照)
- 2の工程を数回に分けて繰り返し、分量のパンを全て入れ切ったら強火で沸騰させる。(写真f 参照)
- 塩とバターを加えて混ぜたら弱火にして蓋をする。常にふつふつと細かい泡が出続ける程度の火加減を保ち、底がくっつかないように10分おきに混ぜながら、約2時間半煮込む。(写真g 参照)
- 別の鍋でコテキーノをゆでる。ゆでる前に必ず串で刺して、たくさん穴を開けておくこと。最初は強火。沸騰した後、蓋をして弱火で約2時間。最後に串を通して軟らかくなっていることを確認する。(セージの葉などを一緒に入れると、臭みをとる効果がある)(写真h 参照)
- さらに別の鍋に牛タンを丸ごと入れ、たっぷりの水と塩を少々加えて強火にかける。(塩漬けされている状態で買った場合は塩を加えない)沸騰し始めたら蓋をして弱火にし、約2時間。ゆで上がったら、皮をはいでおく。(写真i 参照)
- ゆで上がったお肉は全て、適当な大きさに切っておく。ブロード用にゆでた鶏肉と牛肩バラも忘れずに。(写真j 参照)
- ペアラ(4の鍋)は2時間~2時間半経った頃、味見をしながらコショウをたっぷりと加えて混ぜる。(写真k 参照)
- 最後にパルミジャーノ・レッジャーノも入れて混ぜ、2分後に火を止めてペアラの完成。お肉と一緒にお皿に盛る。冷めるとペアラが固まり始めるので、熱いうちに召し上がれ。(写真l 参照)