マンマのレシピ

マンマの紹介

  • リナ・シンベーニ(Lina Simbeni)さん
  • ヴェネト州ヴェローナ市在住
  • 【得意料理】手打ちの生パスタ(タリアテッレ、トルテリーニ、ラザニアなど小麦粉から生地を作るのが好き)

お料理説明・背景

長く裁縫を生業としていたリナのもとには、今でもほつれたワンピースやきつくなったズボンが親戚や友人から持ち込まれる。嫌な顔一つせず、次々と仕立て直していくリナは、マンマの鑑のような存在だ。 「昔はね、女に生まれたら学校教育なんて最低限。家で料理と裁縫するのが自然の流れだったのよ」 多くのイタリアのノンナ(おばあちゃん)たちがそうであるように、ヴェローナで生まれ育ったリナも例外ではない。家庭料理に限れば、経験はすでに60年以上にもなる。戦後の食糧難も乗り越えてきた強い女性たちは今やマンマを超えてノンナとなったが、そこらへんに生えているような野草にも詳しく、時期が来てはサッと摘みに行き、パッとリゾットに変身させる。何でも買える世の中となっても、その行動は決して変わらない。それは単なる反射神経のようにも見えるし、周りに散らばる自然の恵みをただ純粋に楽しんでいるようでもある。植物に限らず、知恵と工夫で何でもおいしく食してきたのであろう。

さて、今回はリゾットと言っても野草ではなく、「タスタサル」と呼ばれる豚肉ミンチをふんだんに使ったヴェローナ界隈の名物料理。地域のお祭りの際にも振る舞われる定番リゾットである。ナツメグの香りがスパイシーに広がり、どことなく懐かしい味わいだ。 タスタ(Taste)+サル(Salt)と英語にすればわかりやすいだろうか。かつて、ソーセージやサラミ用に仕込んだ豚肉を腸に詰める段階で、「塩加減を見る」ためにリゾットを作り、味見をしていたのが始まりらしい。 それが今では、豚のバラ肉や肩ロースなどのおいしい部位が選別されて、「タスタサルのリゾット用」挽き肉としてスーパーでも売られる身近な食材となっている。塩・コショウや天然香料がすでに混ぜられているため、熱を加えるだけで風味も豊かなのが特徴で、調理中に振り入れる塩は出汁を取るときのみ。もともと「豚肉の塩加減を見る」ための料理なのだから、塩を追加してはならなかったのだ。

タスタサルが手に入らない場合はサルシッチャ(生ソーセージ)の中身や普通のミンチでも代用できるが、通常のレシピより多く香辛料を追加しないと物足りない。つまり、塩・コショウを余分に加えるのが必須である。

毎週末泊まりに来る食べ盛りのリナの孫ファビオ(9歳)はこのリゾットが大好きで、どのレストランよりもおいしい「5つ星だ」と言ってペロリと平らげる。食べさせ過ぎないように気をつけてはいるが、「おかわり!」と言われると、シェフとしてもノンナとしても、やはり嬉しくて断れない。

エリオの菜園チーズの塊を削って粉状にするのはリナの夫エリオの担当だ。 リナとしては、もっと一緒に料理もしたいようだが、エリオはキッチンにいるより家庭菜園の手入れに力を注ぎ、夏はトマト大小をはじめ、ズッキーニ、キュウリ、パプリカ、タマネギ、セロリ、冬はラディッキオ(チコリ)、キャベツ、ホウレンソウ、フィノッキオ(フェンネル)などを丁寧に育てている。毎日水やりしながら、これらの野菜を使ったリナの手料理を思い浮かべているのかもしれない。 調理前に必要な分だけ摘みに行くリナとは最高のコンビだなぁと、見ていて微笑ましくなるものだ。

レポート:新宅 裕子(Yuko Shintaku)
週末や休暇を利用してアルト・アディジェ地方へ赴き、アルプスの麓町ヴィピテーノを拠点に、山登りやキャンプ、キノコ狩りなどのアウトドアを楽しむかたわら、フリーライターや日本語教師としても活動する。 東京のテレビ局で報道記者を務めていた2011年、オペラにはまって渡伊。カンパーニア州に1年留学の間、イタリア中を旅してその大自然や地域ごとに異なる文化、心豊かな暮らしに魅了される。数年後、イタリア人との結婚を機にヴェローナへと移住。 ガイドブックには載っていないような小さな町を巡り、ローカルな生活に浸るのが好き。インスタグラム(@yukino.it)で「旅と山の記録」を発信中。

材料

タスタサルのリゾット(4~5人分)

・米400gヴィアノーネ・ナーノ種やカルナローリ種があればベスト。洗わずに使う。
・タスタサル用の豚ミンチ400g
・白ワイン200ml
・バター60g調理開始時:30g、仕上げ用:30g
・パルミジャーノ・レッジャーノ50g鍋に入れて混ぜるのとは別に、少量トッピングとしても使用
・ナツメグ適量
・ローズマリー適量
・セージお好みで数枚なくても可

野菜のブロード

・水1.5L
・タマネギ1/2個
・ニンジン1本
・セロリ1本
・塩適量

作り方

    下ごしらえ

  1. 野菜でブロードをとる。鍋に分量の水とタマネギ、セロリ、半分に切ったニンジンを入れて煮たて、20分ほど経ったら塩で味を調える。リゾット調理中は火を止めずに、常に熱い状態を保つ。(写真a 参照)
  2. 香り付け用のローズマリーとセージを糸でまとめて縛っておく(後でとりやすい)。(写真b 参照)

作り方

  1. 鍋に分量の半分のバターと豚ミンチを入れ、中火でいためる。(写真c 参照)
  2. 豚ミンチをほぐし、半分ほど火が通ったら、ローズマリーとセージを香りづけのために入れる。(写真d 参照)
  3. 肉がしっかりと色づき、ジュージューとなり出したら白ワインを加え、水分がなくなるまで煮たら、ローズマリーとセージを取り除き、お好みでナツメグを振り入れる。(写真e 参照)
  4. 肉を半分ほど別皿に移しておき、米を鍋に投入。強火にして4分、米をいためるように混ぜる。(写真f 参照)
  5. 中火に戻して事前に作っておいた出汁(野菜のブロード)をひたひたに入れる。(写真g 参照)
  6. 米が出汁吸って鍋の中の水分が減ってきたら、再び出汁を加える。この工程を3回ほど繰り返す。
  7. 米を入れてから10分ほどたった頃、別皿に移しておいた残りの肉を戻し入れる。(写真h 参照)
  8. さらに5分後、分量の半分のバターと削ったパルミジャーノ・レッジャーノも加えて混ぜれば完成。なお、リゾット米の調理時間は投入してから18分が目安のため、頃合いを見て味見し、米の硬さと塩加減を確かめること(写真i 参照)
  • a. 出汁をとる
  • b. 香りつけハーブをまとめて縛っておく
  • c. 鍋に豚ミンチを入れる
  • d. 半分ほど火が通ったらハーブを入れる
  • e. 白ワインを加え、水分がなくなったらナツメグを振り入れる
  • f.肉を半分とり、米を入れいためる
  • g. 出汁をひたひたに入れる、水分が減ったら加えるのを3回ほど繰り返す
  • h. 10分ほどたったら肉を戻し入れる
  • i. さらに5分後バターとチーズを加える

お料理ポイント

その日の気分によって、ナツメグの代わりにシナモンを入れるときもある。各家庭によって、スパイスが微妙に違うのがおもしろい。 また、「肉のいため具合を知るには、”sfrigolare”(スフリゴラーレ)を聞くことが大事!」だそう。スフリゴラーレとは、「ジュージューと音を立てる」という意味の伊語の動詞である。最後に、「出汁をとった後の野菜は塩とオリーヴオイル、お好みでコショウやバルサミコ酢をかけて食べてね」とリナらしいメッセージをもらいましたよ。