マンマのレシピ

マンマの紹介

  • リディア・グエンツィ(Lidia Guenzi)さん
  • リグーリア州プレマニコ村在住
  • 【得意料理】リグーリア風ズッキーニの花のフライ、ピッツァ
    保険の事務職をしていたリディアさんは、数ヶ月前に定年退職を迎えたばかり。長年プレマニコという小さな村で、旦那さんと田舎暮らしを楽しんでいる。

お料理説明・背景

リディアさん夫婦はジェノヴァの山上にあるプレマニコという小さな村に住んでいる。空気が澄んでおり、鳥のさえずりが響き渡る。街の中心地から車で30分ほどだが、まるで別世界のような場所だ。彼女の家には広い庭があり、野菜や果物などを育てている。「リディアさんは緑の親指を持っている」(植物を育てる才能の持ち主という意味)と皆から言われている。

春は薔薇のシロップやジャムを、夏には完熟のイチジクを収穫しジャムを、秋にはオリーヴの実を家族総出で収穫し塩漬けやオリーヴオイルを作る。他にも果実酒やトマトソースなど、あらゆる物が自家製でどれもおいしい。ご近所さんたちとそれぞれの収穫物を交換することも楽しみの一つだそうで、四季を大切にしたスローライフ人生を謳歌している。

今回、庭で採れたレモンを使ってリグーリア州の焼き菓子「カネストレッリ」を作ってくれた。マルゲリータ(雛菊)の花形のかわいらしいバタークッキーだ。真ん中に丸い穴が開いていて、粉砂糖が振りかけられることが特徴。リグーリア州のバールには必ず置かれていて、エスプレッソや紅茶のお供や朝食に、知人や親戚の家を訪れる際のちょっとした手土産にする等、リグーリア発祥のとてもポピュラーなお菓子だ。

カネストレッリの名前の由来ははっきりしないが、カネストロはカゴの意味で、カネストレッリ=小さなカゴ、が語源ではないかと言われている。なぜ焼き菓子がこう呼ばれるようになったのかは2つ説があり、一つは焼き上がった後にカゴに入れて冷ましていたことからだという説。もう一つはラ・スペツィアにあるBrugnato(ブルニャート)という町で行われるカネストロという名の復活祭のお菓子が由来だという説。カゴの形をした生地に卵を丸々一つのせてオーブンで焼いたお菓子で、復活祭に子供たちが教会へ持ち寄ったそうだ。今ではなかなかお目にかかれない珍しいお菓子で、姿を変えて名前だけが残ったのではないかと言われている。

カネストレッリ売りのおばあさん何せ、カネストレッリは驚くほど長い歴史がある。その存在は1392年のパン職人の財産目録書類で確認されている。リストの中に「木製のカネストレッリの型」と記されているのだ。中世のこの頃は、パンなどの商品のクオリティが目で確認できるように、どこの誰が作ったかが分かるように印をつけることが義務付けされていた。そのための「型」だったと思われる。

そしてカネストレッリは現在とは全く違う姿をしていた。リグーリア州のそれぞれの土地で様々なバリエーションのものが広り、大きくは3種類に分かれる。共通点は穴の開いたリング状の形。
(1)直径約12cmの中型。甘いものと塩味の2種類あった。
(2)腕輪にできるほどの特大サイズ。祭日などに売り子が路上で売り歩いていた。(写真:スタイエーノ墓地にあるカネストレッリ売りのおばあさんの像)
(3)小型(直径6〜7cm)。高価なアーモンドのペーストを使い、製菓職人によってこしらえられた美しい高級菓子。
これらが時と共に消滅したり姿を変えたりして5世紀に渡って現在の花の形のカネストレッリの姿に進化し、定番化した。

もちろん現在も一部の地域では昔のスタイルのものが残っていたり、独自の変化を遂げた珍しい種類もある。 今回リディアさんはカネストレッリが有名なTorriglia(トッリリア)の街で約200年前から伝わる年季の入ったレシピを教えてくれた。トッリリアではレモン、ラム酒、バニラを使用するが、他の街ではレモンやバニラは入れなかったり、ラム酒の代わりに甘いワインを加えることも。Loco di Rovegno(ロコ・ディ・ロヴェニョ)という町ではカネストレッリ作りの大会が行われている。参加者は伝統的なものと創作した新しいカネストレッリ2種を作って競争する。一応「世界大会」という名前なので、日本からの参加も大歓迎。是非リグーリア州へ!

レポート:大西 奈々(Nana Onishi)
2011年よりジェノヴァ在住。音楽院を卒業後、演奏活動の傍らフリーライター、旅行コーディネート、通訳などを務める。演奏会などでリグーリア州各地を周り、それぞれの街の文化や風景に魅了される。ジェノヴァ近郊の街を散策したり、骨董市巡りが休日の楽しみ。 山と海に囲まれたリグーリア州の四季折々の情報をご紹介いたします。Instagramはこちらから

材料

カネストレッリ(直径8cmのカネストレッリ型 20個分)

・小麦粉500g
・無塩バター200g
・卵黄2個分
・レモン1個
・砂糖100g
・バニラビーンズ1本バニラエッセンスで代用可
・粉砂糖適量

作り方

    下ごしらえ

  1. バターは常温に戻して小さいサイズに切り、バニラビーンズは鞘にナイフで切れ目を入れて中身を取り出す。(写真a 参照)

作り方

  1. ボウルに小麦粉、バター、バニラビーンズ(鞘から取り出したもの)、すりおろしたレモンの皮、ラム酒、砂糖、卵の黄身を入れていく。(写真b 参照)
  2. ハンドミキサー(生地をこねる用)などでしばらく混ぜ合わせる。ない場合は手でしっかりこねる。(写真c 参照)
  3. 全てがよく混ざり合わさったら丸くまとめ、ラップをかけて冷蔵庫で30分ほど休ませる。(写真d 参照)
  4. オーブンを170度に温めておく。
  5. 作業台に小麦粉(分量外)を振り、休ませた生地を数等分に分け、麺棒を使って約1cmほどの厚みに伸ばす。(写真e 参照)
  6. カネストレッリの型で生地を抜いていく。(写真f 参照)
  7. クッキングシートを敷いたオーブンの天板に並べ、約20分焼く。(写真g 参照)
  8. 焼き加減をつまようじなどで刺してチェックする。(写真h 参照)
  9. 焼き上がってから数時間~一晩冷ます。食べる前に粉砂糖を茶こしなどで振りかけて完成。(写真i 参照)
  • a. バニラビーンズを鞘から出す
  • b. 材料をボウルに入れていく
  • c. ハンドミキサーでよく混ぜる
  • d. 丸くまとめて30分冷蔵庫で休ませる
  • e. 1cmほどの厚みに伸ばす
  • f. 型を抜く
  • g. オーブンで焼く
  • h. 焼き加減を確認する
  • i. 焼きあがったら冷ます

お料理ポイント

カネストレッリはサクサクして食感がよいのが特徴なので、約1cmほどに分厚く型抜きをしましょう。焼き加減はオーブンや材料によって変わるので、つまようじを刺して中まで焼けているか確認を。バニラビーンズの房はもったいないので捨てないで! 紅茶に入れたり、お砂糖と一緒に置いて香り付けをするなど用途はいっぱい。粉砂糖がない時は、カネストレッリの表面をオーブンに入れる前に卵白をハケで塗ると、艶が出て焼きあがりが美しくなります。定番の花形の型がない場合は、ぜひ昔風にシンプルなリング状にして試してみて下さいね。