マンマのレシピ

マンマの紹介

  • リディア・グエンツィ(Lidia Guenzi)さん
  • リグーリア州プレマニコ村在住
  • 【得意料理】ピッツァ
    保険の事務職をしていたリディアさんは、数ヶ月前に定年退職を迎えたばかり。長年プレマニコという小さな村で、旦那さんと田舎暮らしを楽しんでいる。

お料理説明・背景

プレマニコはファシェ山の山頂に位置し、リディアさんの家からは美しいジェノヴァの海が一望できる。自宅の敷地には広い菜園があり、野菜や果物を栽培している。週末や祝日には親戚や友人を家に招き、収穫したての季節の野菜や果物を使った手料理と、自宅の窯で焼いたパンやピッツァで客人たちをおもてなしすることが夫婦共通の楽しみなのだと言う。お喋りが大好きでとにかく明るい性格のリディアさんは、地域の人々とのコミュニケーションを大事にしていて、地元の催し物やチャリティ行事などには率先して参加する。大勢の人たちの中心になって場を盛り上げる存在で、彼女がいるだけでその場に笑い声が起きる。そんな元気の塊のようなリディアさんだが、最愛の長男を突然病気で亡くしてしまった悲しい過去がある。悲しみや苦しみを人一倍知っている彼女は、誰に対しても優しく、自然を愛し、毎日を一生懸命生きる素敵な女性だ。

リディアさんが今回教えてくれるファリナータは、ジェノヴァの代表的なストリートフード。起源が分からないほど歴史が古い。一説では1284年のメロリアの戦い(ジェノヴァ対ピサ)の後、勝利の帰還途中のジェノヴァの船の中で、ヒヨコ豆粉と油が海水で混ざってしまったものを焼いた事が始まりだと言われている。
ファリナータは窯料理を中心とした郷土料理を量り売りするテイクアウトの店で購入できる。このような店はシャマッダ(リグーリア語で「燃え上がる炎」の意)と呼ばれ、いつも窯の火が絶えないことからこう呼ばれるようになったようで、昔は売り子たちが、リグーリア語でテストと呼ばれる銅の浅鍋を、頭にのせたり脇に抱えて路上でファリナータを売り歩いていたそうだ。

リディアさんは自宅の窯を使ってファリナータを焼くことが多いが、天候によってオーブンで作ることもあるということで、今回は誰でも家でファリナータが作れるよう、家庭用オーブンを使った作り方を伝授してくれた。

フォカッチャ・ディ・レッコファリナータの材料や作り方はシンプルだが、最も難しい作業は一番最後の「焼く」工程だとリディアさんは言う。生地は薄く、表面はカリッとさせて香ばしく焼き上げることが大事。オーブンから取り出すタイミングの見極めは難しいが、こればかりは経験が必要。でも一度コツを掴めば大丈夫とのこと。
一番ポピュラーな味は焼き上がり後に黒胡椒を軽くまぶしたもので、他にはローズマリー、チポッロッティ、サルシッチャ、ゴルゴンゾーラなどを加えたバリエーションも。数年前まではビアンケッティと呼ばれるイワシの稚魚(しらす)を乗せたファリナータもあったのだが、現在は禁漁されていて幻の味となってしまった。

ファリナータはリグーリア州以外でも食べられる。州境のピエモンテとトスカーナの一部の地域、またジェノヴァから遠く離れたサルデーニャ州の一部の町(サッサレーゼ、カラセッタ、カルロフォルテ)でも食べられる。これはなぜかというと、昔ジェノヴァ共和国の領地だった名残りで食文化が残ったからだ。
また、フランスのニースでは「ソッカ」という名前で呼ばれる全く同じものが存在する。こちらも1859年までニースはリグーリアの一部だったためで、リグーリア料理が今でも食べられているのだ。一つの料理からジェノヴァの歴史や領地の跡を辿ることができるのも、またおもしろい。

レポート:大西 奈々(Nana Onishi)
2011年よりジェノヴァ在住。音楽院を卒業後、演奏活動の傍らフリーライター、旅行コーディネート、通訳などを務める。演奏会などでリグーリア州各地を周り、それぞれの街の文化や風景に魅了される。ジェノヴァ近郊の街を散策したり、骨董市巡りが休日の楽しみ。 山と海に囲まれたリグーリア州の四季折々の情報をご紹介いたします。Instagramはこちらから

材料

ヒヨコ豆のファリナータ(直径35cmの天板で2枚半の分量:6~8人分)

・ヒヨコ豆粉500g石臼でひいたもの
・水1.6L
・塩小さじ2
・エクストラ・ヴァージン・オリーヴオイル適量
・粗挽き黒胡椒適量
・新鮮なローズマリー適量バリエーション用
・白ネギ3~5本(量はお好みで)バリエーション用

作り方

    下ごしらえ

  1. ヒヨコ豆粉をふるいにかける。(写真a 参照)
  2. 分量の水を少量ずつ、よく混ぜながら加える。この時ダマを作らないように注意する。(写真b 参照)
  3. 塩を加え、ハンドミキサー(ミキサーでも可)を使用して更によくかき混ぜる。(写真c 参照)
  4. かき混ぜた後に大量の気泡が表面に現れるので、それらを丁寧に網ですくって取り除く。(写真d 参照)
  5. ラップをして最低4時間以上常温で休ませる。しばらくすると水分は上部へ、固形物は底へと分離してくるので、時々かき混ぜる。(写真e 参照)

作り方

  1. オーブンをグリル機能に設定し、最高温度で予熱を始める。(リディアさんの家のオーブンの場合は250度)。
  2. 天板にオリーヴオイルが全面に行き渡るようにする。(直径35cmの天板の場合、一枚あたり約60mlのオリーヴオイルを使用)。(写真f 参照)
  3. 2の天板だけを先にオーブンに入れ、数分温める。(焼き色を付けたいので、なるべくグリルに近い上段に。リディアさんは上から2段目に設置)。(写真g 参照)
  4. 下ごしらえで作った生地をもう一度よくかき混ぜてから、温まった天板に流し入れ、生地とオリーヴオイルが均等に混ざるようにヘラで天板を素早くかき混ぜる。 この時、約8ミリ(最大で1センチ)の薄さに留めること。直径35cmの天板の場合約800mlを目安に注ぐ。※焼き上がりが分厚くなり過ぎないよう生地の量に注意。(写真h 参照)
  5. 15〜20分焼く。約10分毎に天板を180度回転させ、生地の高さや焼き加減が全体的に均等になるようにする。(写真i 参照)
  6. 表面がカリッと焼け、底面も柔らかく焼き上がっていたら(フライ返しを使って底がきれいに持ち上がる程度が目安)、オーブンから出し、10分程度おいてから切り分ける。(しばらくすると生地が固まり天板から生地が離れやすくなる)。(写真j 参照)
  7. 格子状に切り分けたら、お皿に盛り、粗挽き黒胡椒を振り掛けて完成。お好みで塩を振り掛けていただく。(写真k 参照)
  8. ローズマリー、白ネギを加える場合:ローズマリーは枝から葉だけを取り、白ネギは白い部分のみを薄い輪切りにする。工程「4」で生地を天板に流し入れた後に具をハーフ&ハーフになるよう別々に散らす。以下の工程は同様。(写真l,m,n,o 参照)
  • a. ヒヨコ豆をふるいにかける
  • b. 水を少量ずつ加える
  • c. ハンドミキサーでよく混ぜる
  • d. 表面の気泡を取り除く
  • e. ラップをして休ませる
  • f. 鉄板にオイルを入れる
  • g. 鉄板だけ先に温める
  • h. 生地を流し込む
  • i. オーブンで焼く
  • j. 焼き上がったら10分ほどおいてから格子状に切る
  • k. 生地をお皿に盛り黒コショウを振りかける
  • l. ネギは白い部分を薄切りにする
  • m. ローズマリーは枝から葉だけをとる
  • n. 生地に半分ずつ散らす
  • o. 同様に焼き上げたら完成

お料理ポイント

食感よく仕上げるためには薄さが大事。分厚くなりすぎないよう、生地を流し入れる時は注意を。白ネギを加えた場合は水分が出るので、通常より少し長めに焼くこと。家庭用オーブンで作る場合はファリナータに欠かせない美しい焼き色を生み出すために必ずグリル機能を使用すること。 料理道具については、表側が錫めっきされた銅製天板(イタリア語でTeglia in rame stagnato)が熱伝導が良く、ファリナータ作りには最適ですが、日本ではなかなか手に入らないと思うので、ピッツァ用のアルミや鉄製などの天板で代用してください。調理道具の素材によって焼き時間が変わるので、オーブンの様子を見ながら挑戦してください。「リグーリアにいらした際には是非銅製の天板をお土産に探してみてくださいね! ちょっと重たいけれど……」とのことでした!