名醸造家キアラ・ボスキスの素顔 Presented by モンテ物産

今年1月、久しぶりにピエモンテ州バローロ村のワイナリー、ピラー社のキアラ・ボスキスのもとを訪問した。写真で見る華やかなで少し近づきがたいような印象とは裏腹に、ワイナリーで会う醸造家(エノロゴ)としての彼女は、感性豊かなブドウ栽培の女性と言いたくなる。

▲キアラ・ボスキスさん
「あれ、もう訪問時間になっちゃった?ごめんごめん、今畑で剪定作業をしていたのよ。」
と笑いながら出迎えてくれる彼女を見て、キアラさんは変わっていないなと嬉しくなった。
「私にとって早朝の剪定作業は、禅の時間ね。しずかな場所でその作業に没頭するの。」
いつでも畑に出られる格好をして、気取らずチャーミング、そしてエネルギッシュな彼女は本当に魅力的な女性だ。

すぐに畑に連れて行ってもらい剪定の様子を見せてもらった。どの枝を残すかの見極めが本当に早い。
その様子から、長年毎日ブドウ畑に出て、畑での手仕事を何よりも大事にしてきた彼女の信念が良くわかる。
▲剪定作業の様子
ピラー社は、その名前の由来となったピラー家が19世紀末にワイナリーを立ち上げたことが始まりだ。キアラ・ボスキスが継承する1980年までは代々ピラー家がそのワイナリーを所有していた。
一方ボスキス家は、9世代に渡りバローロを造り続ける家系で、キアラ・ボスキスの両親と兄は同じバローロ村でワイナリーを経営していた。そのワイナリーでは代々男性が後継ぎとなっていたが、ワイン造りへの並々ならぬ情熱と愛情を持っていたキアラ・ボスキスはどうしても自分でワイン造りを行いたいという思いから、家族を説得し当時後継者のいなかったピラー家のワイナリーを譲り受けることとなったのだ。

「80年代当時、バローロを造るワイナリーの中で私は唯一の女性だったわ。でもだからといって、特別扱いは受けない。ワイン造りに関わる仕事は全て、全て、全て、、やったわ。だって本当にやりたかった仕事だもの。樽を動かす作業なんかも1人手作業でやったわねえ。」

そう懐かしそうに話すキアラさんは、伝統的なバローロ造りからの革新運動を行ったあの「バローロ・ボーイズ」にも、当時唯一の女性醸造家として参加していたことでも知られる。
ワイン造りへの情熱があふれる彼女に、畑仕事について教えてもらった。

「最も大切なのは、ブドウの木に余計なストレスを与えないこと。例えばさっき剪定しているのを見たでしょう?去年伸びた枝を切り落とし、今年の収穫分と、来年の収穫用の2本だけを残すの。でも1度目の選定で切る場所は去年伸びた枝の部分だけ。本当はもう少し根元から切り落とさなければいけない部分も、すぐには切らないの。わざとしばらくそのままにしておいて、十分にそのコブが乾ききってから切り落とす。でないと、ちゃんと乾いていないかさぶたをはがすようなものよ。木にはストレスなの。」

ブドウ木へのストレス軽減を重視するキアラさんは、剪定中も、害虫の侵入を防ぐために切り口を小さくするといった細やかな配慮も欠かさない。

「その後の作業も全て同じコンセプトで行っているわ。ブドウの木にストレスを与えないように、不要な芽を摘むのも1度にはやらず何度も畑に通って複数回に分けて行うし、ブドウの房を選別して収量を制限するグリーンハーヴェストも3回以上に分けて行うの。」

「収穫期にはブドウの房をひとつひとつ見ながら、状態の悪いブドウの実をひとつひとつ取り除く作業をしているの。バローロ用の畑だけじゃなく全ての畑でね。ドルチェットもバルベーラも全てよ。実際に収穫期、バローロ地区の生産者達の畑での作業時間は1ヘクタール当たり平均60~140時間だけれど、私達が費やす時間は1ヘクタール当たり約290時間。それだけ丁寧にブドウを選別しているのよ。」

▲キアラさんの丁寧な畑仕事が、非常に健康なブドウをうむ
そう説明しながら、キアラさんは1枚の紙を見せてくれた。
「これは収穫のときに、ブドウの状態を毎日記録した紙よ。収穫のとき、まずはブドウを目で見て、手で触って皮の硬さを確認し、そして味見をしてみる。もちろん、分析値も出すけど、自分の感性を研ぎ澄ませて収穫のタイミングを見極めているわ。」
▲収穫は、ブドウが熟したタイミングを逃さないよう、機動力のある少数精鋭のチームで行われるのだそう。
これほど真心を込めて、畑仕事に熱心に取り組んでいる話を聞いていると、「彼女の収穫現場に立ち会いたい」と思わずにはいられない。

畑作業では五感をフル活用し、効率性よりもブドウひと粒ひと粒にまで向き合うことを重んじる優しさ。
それこそが、キアラ・ボスキスの素顔なのである。

モンテ物産
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