特別なバルサミコ酢 その1
私事ですが、昨年11月に日本人初めてとなる、バルサミコ酢A級鑑定士の試験に合格いたしました。足掛け10年を要しましたが、これからもマスター級を目指して精進したいと思っております。また今年はいろいろな意味で、日本の皆様にバルサミコ酢造りを広くお知らせしていけたら幸いです。
幾度かこちらのコラムでバルサミコ酢の話を書いておりますが、イタリア、エミリアロマーニャ州、モデナの旧家には先祖代々受け継がれている伝統的なバルサミコ酢が存在する事をご存知でしょうか?通常バルサミコ酢という名前が付いて販売されている商品とは似ていて全く非なるものです。
写真はモデナドゥカーレ宮エステ公爵家の肖像画
その昔、モデナにおいてバルサミコ酢の醸造室を有することは王侯、貴族など特権階級だけが許される最上級の贅沢でした。あくまで貴族の趣味として始まったバルサミコ酢作りであり、貴族間で催される品評会や、特別な贈答品として用いられ、ヨーロッパ諸国の王族がこぞってこの芳香(イタリア語でバルサモ)の酢を欲しがったと言われています。
また薬効もあると言われ、薬局で販売されていたようで、ある文献には死人も起き上がる効能があったという記述もあったほど。
18世期のノナントラ市の地図。現在マゼット屋敷と呼ばれる我が家も載っています。
私が嫁いだフォルニ家は現在のモデナ、フェラーラ、レッジョエミリアを統治した エステ公爵家の右腕として外務大臣を勤めていました。モデナ屈指の1100年代から続く旧家で、エステ公爵と共にサボイア家によるイタリア統一後、オーストリアに亡命を余儀なくされました。体制が落ち着いた後、フォルニ家はモデナに戻りますが、すぐに世界大戦が勃発しました。モデナ県においても爆撃された建物が非常に多かったそうです。
モデナ市の郊外の屋敷であったため略奪や破損を受けることもなく、バルサミコ酢の樽は当主不在が長かった時期もありますが、屋敷と領地を守る管理人に恵まれ屋敷と共に奇跡的に残りました。舅の叔父の代まではバルサミコ酢造りは任せきりだったようですが、時代は変わり舅が管理をし、そして2007年からは主人のマッシミリアーノと私が継承し、唯一の原料であるモストコット造りからバルサミコ酢造りをするようになりました。
伝統的製法で作られるバルサミコ酢は、モストコットと呼ばれるぶどうの絞り汁を煮詰めたものを唯一の原料とします。9月に採れる完熟の白ぶどうトレビアーノ種を絞り、直火でゆっくりと丸一日煮込んで煮詰めた後、春までゆっくりとアルコール発酵させます。
その後材質の違う大小7つの樽に移し替え、年に一度移し替え作業を行いながらゆっくり酢酸発酵と熟成を行います。ワインとは大きく異なるのは、酸素が必要な酢酸発酵が行われるため、樽の上部が空いており、液体が一年間に10%前後蒸発していきます。冬になると、一番小さい樽から最終製品を樽の10%(年によりますが、2~3L前後)取り出し、その取り出した分と、蒸発した液体分を少し大きい隣の樽から移し替えます。二番目に小さい樽は三番目の樽からと順繰りに移し替え作業を行いない、やっと一番大きい樽に去年作ったモストコットが入ります。
この移し替え作業を毎年する事により、材質の違う樽のタンニン、香り、収穫年の違うぶどうの煮詰めた汁が混ざり合い独特のハーモニーが生まれます。100kgのぶどうを毎年25年間、毎年移し替え作業を行い熟成させると最終的に約2Lのバルサミコ酢にしかなりません。熟成期間は最低でも12年、25年以上の物、さらに100年、200年このように気の遠くなるような手間と熟成期間を必要とする特別な物。貴族の楽しみとして生まれたというのも頷けます。
そのため、今なおモデナ人の最高のステータスシンボルは、アチェタイア(バルサミコ酢の醸造室)を持つことなのです。我が家の樽は1700年代中盤のものですから、かれこれ250年近くこの作業を繰り返している事になります。この樽からは年間、2〜3Lしか樽から取り出しません。そのため通常、フォルニ家の特別な食事や、特別な贈答品として使われて来ました。現在では醸造室を見学に来てくださる方だけに特別にお出ししています。
今年は、主人と結婚した時に、結婚祝いとして友人親戚一堂に結婚祝いとして資金援助をしてもらい増やした樽が13年目を迎えます。ようやく納得がいく味になってきましたので、少しづつ蔵出しをする事を決めました。5月4日、ゴールデンウイークの最中にイベントをいたしますので、もしその期間にイタリアにいらっしゃる方は遊びにいらっしゃいませんか?
13年物蔵出しバルサミコ酢お披露目会
イタリア好きVol.36で紹介されたMirkoシェフの料理レッスン&ケータリングにバルサミコ酢試飲鑑定講習会などなど盛り沢山の内容です。もちろん蔵出ししたバルサミコ酢の販売もございますし、家宝のバルサミコ酢もお料理と合わせます。
我が家にいらした方にしか購入できない限定容器なども作る予定ですので、お楽しみに。お申し込みは私のFacebookページ Akane in balsamicland イベントより
https://www.facebook.com/events/176606216942784/