【8月1発行号】アブルッツォ取材日記2

朝5時に羊飼いの取材へ向かう。
今回は運転もする。日本ではもう車を持っていないので、必要な時にレンタカーを借りて運転するくらい。最近は大体それほど運転が好きじゃないんだなぁ。直ぐに眠くなってしまうから。
でも、イタリアの運転は緊張感があるからそれほど眠くならないと、思う。
車はマニュアルのFIAT PUNTO。エンジンをかけて山へ向かう。
夜明けのワインディングロードを走っているとアドリア海から朝陽が昇ってきた。
気持ちいい。しばし車を止めて朝の空気を吸い込むのだ。

羊飼いと伝統的楽団の取材。
この組み合わせは、単純にその羊飼いの主人と楽団の親分が知り合いだったから。
羊飼いの取材を親分に頼んだら、この楽団もついてきた。
こんな朝っぱらから山の上まで呼び出されていい迷惑だったろうに、続々と仲間が集まってきた。

羊飼いの朝は乳搾りから。ここでは全て手作業で行う。
今朝は様子がいつもと違うから羊も少し興奮気味だ。
乳搾りが終わると放牧に出る。ここでは犬が活躍するんだなぁ。

羊飼いはそのミルクでチーズも作っている。それを仕切るのはマンマ。
なかなかおもしろいストーリーは本誌にて。

取材が終わり、楽団の皆もチーズを買って帰っていく。これから仕事へ。
ありがとうございます。感謝します。
山の上で聞く独特な楽器の音色と旋律は感動だった。
下山してプランツォ。
宿主人も昼休みに帰宅して、僕らの分も用意してくれた。
自家製のトマトソースのシンプルなパスタ。時間的にもそんなもしかできと言って出てきたパスタは、抜群にうまいのだ。
トマトソースはよく煮込んで、ゆでたパスタと絡めるだけ。パスタも特別ものでもなくスーパーで買うもの。形状は四角だけどキタラッラではないそうだ。
そしてここでも当然唐辛子を刻んで入れる。


飼っているニワトリが卵を産みすぎて供給過多らしく、ブロッコリーとタマネギのフリッタータ。まずいわけはないね。
午後の取材は近所の肉屋へ。
小さい村の小さな肉屋のこだわり。その真髄は食べた肉が証明してくれのだ。
詳しくは本誌をお楽しみに!


次の取材まで時間があったので、バールでTOTOを初体験。
ビギナーズラックでカフェ代はチャラに^_^
簡単だからハマりそう。
近所のオッさんだけでなく、おばちゃんも買ってた。庶民の小さな幸せだ。
テレビのスポーツ中継を見入る人、ゲームを楽しむ人、知人と語る人と、過ごし方はさまざまだけど、バールはコミニケーションの大切な場なのだ。

その後リキュールの取材へ、この銅鍋はここのオリジナルな味を引き出すとても重要な役割だと。

取材を終えて宿に戻る。
夜は肉!
暖炉の置き火で豚の首肉を焼いて、鍋には焼いたサルシッチャとホウレン草の煮込み。ホウレン草は少しだけアンチョビを入れて炒めたあとにブロードでクタクタになるまで煮込みます。


《アブルッツォ取材日記1はこちら》
https://italiazuki.com/?p=33891

【8月1発行号】アブルッツォ取材日記1

ローマティブルテーナからペスカーラ行きのバスに乗ってアブルッツォへ移動。
バスは思いのほか乗客が多い。
途中からグランサッソの山並みがきれいに見える。

終点のペスカーラの一つ手前のキエティ・スカーロで降りる。現地のコーディネイターと合流して宿に。
今回はコーディネイターの知人宅に合宿のように滞在することに。
たくさんの犬に猫に迎えられる?吠えられる。
食卓で迎えてくれたのは、野菜と豆のスープ。
その前のイタリア滞在でたぶん胃も疲れているだろうからとの心遣いだ。嬉しいね。
そして味は胃袋にやさしく沁みる。それにアブルッツォでは名産の唐辛子をお好みで入れる。
ハサミで刻むのがいい。
レストランでもテーブルの白い皿の上に、赤い唐辛子と専用のハサミが置かれている。

スープの後は、主人特製のトマトのサルサを載せたブルスケッタと、もう旬のなごりとなってきたソラマメとペコリーノチーズ、それにチェラソーロのカップワインで歓談タイム。とっても幸せな時間^_^

明日の初日は5時出発。夜更かしもほどほどに就寝。ていうか、飲みながらすでに寝てたけどね~

《アブルッツォ取材日記2に続く》
https://italiazuki.com/?p=33899

ピエモンテの奇才、フランコ・マルティネッティ Presented by モンテ物産

 “イタリアワインの王様”バローロに代表されるように、ピエモンテはイタリア屈指の名醸地だ。長年に渡り素晴らしいワインを造り続ける歴史的な名門ワイナリーだけではなく、80年代に現れたバローロボーイズともニュージェネレーションとも呼ばれた生産者達も、今や60代、70代という歳を迎え、円熟のワイン造りを行っている。こうして今のピエモンテでは、ひしめき合う有名ワイナリー達が、綺羅星のごとく、数々の素晴らしいワインをリリースしている。

 こういう中には、まだまだ日本で知名度が高まっていない造り手もある。彼もそういう一人かもしれない。フランコ・マルティネッティ。“ピエモンテの奇才”と呼ぶべき男だと思う。

▲フランコ・マルティネッティさん
 彼は他の造り手と比べても特に変わっている。
まず自分自身のワイナリーを所有していない。自身で購入し所有しているのはステンレスタンクや木樽などの醸造に必要な機材のみ。他社のワイナリーの一角を間借りし、そこに自分のタンクや木樽を置いてワイン造りをしている。
 畑も所有していない。ほぼ全て他のワイナリーの畑を借り、そこでブドウの栽培から収穫までを管理する。作業は貸し手のワイナリーが行うが、畑の手入れから収穫まで全ての作業指示は彼が出している。従ってブドウ造りからワイン造りまでの全ての管理・指示はフランコ・マルティネッティさん本人がほぼ一人で行っているが、はっきり言ってしまえば土地とワイナリーは借り物なのだ。

 もともと、祖父が自家消費用にワインを作っていたそうだ。だからフランコさんは子供の時から畑での作業、ワイナリーでの作業を自然と憶えていったという。祖父が亡くなったことをきっかけに、彼は自分自身のブランドを設立する決心をする。それから今日まで、ほぼ借り物の畑と間借りしたワイナリーの一角でワイン造りを続けてきた。
 
 「僕はちゃんと醸造学を勉強したことも、農学を勉強したことも無い。もちろん多少はかじったよ。でも僕のワイン造り理論は、ほとんど全て経験で憶えた“実践型”だよ。」
 彼はそう言って笑う。

「みんな僕のワイン造りの方法を聞くと驚くんだ。自分の畑もワイナリーも無いだって?!ってね。みんな畑やワイナリーを持つことが良いワインを造る必須条件だと思っている。でもそうじゃないんだ。ワイン造りは代々畑とワイナリーを持っている人でなくたってできる。
重要なのは、良い畑を見極められるかどうかということさ。
僕は子供のころからの畑作業を通して畑のポテンシャルを見抜く選別眼を養うことができ、さらに幸いなことにその畑を借りることができている。
僕みたいなのは変わった例だと思うが、ワイン造りに妥協はないし、実際にいい評価を受けている。これが誇らしいね。」
▲フランコさんが借りているピエモンテのブドウ畑。青々と生い茂る健康そうなブドウ樹から、しっかりと管理が行き届いていることがわかる。

 ピエモンテのワイン生産者でフランコさんを知らない者はいないだろう。アンジェロ・ガヤと親交があり、バルベーラのワイン造りで有名なワイナリー“ブライダ”のジャコモ・ボローニャとはバルベーラ醸造論で意気投合する間柄。バローロボーイズの代表格エリオ・アルターレのワイナリーを一時、間借りするほど仲が良く、伝統派の大御所バルトロ・マスカレッロも彼のワインを絶賛する。
「ピエモンテの生産者友達もみんな、僕と話をすると面白がってくれるんだよ。『フランコ、君は醸造学も農学もすごく詳しいというわけではないのに、どうやってこんなに素晴らしいワインを作り出せているんだ?!』って言ってね。」

 事実、彼のワインは素晴らしい。この日はバルベーラとカベルネソーヴィニョンを使った、スーパータスカンならぬスーパーピエモンテとも呼ぶべき傑作ワイン“スルブリック”を飲ませてもらったが、バリックを使った熟成をさせながらも、バリックからもたらされるタンニン感を感じない。
原材料のブドウの質がよほど高いのだろう。長い年月熟成しても崩れないバランスがあり、ブドウの果実味と酸の溶け込みが特に素晴らしい。イタリアワインの中でも間違いなくトップクラスの一本だ。

そういったワインの感想を彼に伝えると、フランコさんは満足そうに微笑んで、こう言った。
「ピタゴラスの定理のように、僕は自分のワイン造りに自分なりの“定理”を持っている。ふざけて“マルティネッティの定理”って呼んでるんだ。」

 そういわれては尋ねないわけにはいかない。“マルティネッティの定理”を教えてください、と言うと彼は高らかにこう唱え上げた。
「バランス・エレガントさ・そして表現力を兼ね備えることが偉大なワインの3条件である!これがマルティネッティの定理だ!」
 まさに彼のワインを言い表す、簡潔でブレない哲学。やはりこの人はピエモンテの奇才だ。確固たる信念を語る彼を見て、改めてそう思った。 
▲スーパーピエモンテとも呼ぶべき傑作“スルブリック”

モンテ物産
http://www.montebussan.co.jp/
▼フランコ・マルティネッティ社についてはこちら↓↓▼
http://www.montebussan.co.jp/wine/martinetti.html