お料理説明・背景
カモニカ渓谷の一番北、標高1500メートルに位置するペッツォ村。人口がたった270人の小さな村。以前は500人の住民がいたにもかかわらず、大半の人が職を求めて、この村を後にしてしまいました。
同じブレーシア県のトロンピア渓谷に生まれ育ったディアネッラさんが、この村に当時唯一あったホテルに働きに来たのは16歳の時。鉱山で働いていた彼女のお父さんは、仕事中に事故で両目を失明してしまいました。働き手を失った一家……すでに、ガルダ湖畔のレストランの厨房で働いた経験のあったディアネッラさんは、当時、スイスに移民していた叔母さんの義理の両親が経営していたこのホテルを紹介され、働きに来たのです。
持ち前のポジティブな性格で、厨房で一生懸命働く彼女の姿に、このホテルの息子のブルーノさんはすっかり心を奪われてしまいました。ディアネッラさんがブルーノさんと結婚したのは、まだ17歳の時。未成年だった彼女が結婚するのを、お母さんは最後まで反対して、結婚の署名をするのを躊躇したそうです。
夏は避暑客、冬はスキー客で賑わうこのホテルは、その伝統料理のおいしさも売りの一つでした。「週末の夕方になると、バンドも入ってダンスをする人で賑わったのよ……」とディアネッラさんは懐かしそうに話します。 宿泊客のみならず、食事だけを楽しみに来る人々もいて、訪れる人が絶えることのない毎日。3人の子供を育てながら、義理のお母さんに地元料理を教わり、ますますその腕を磨いてきました。 畑では野菜を育て、鶏を飼い、春は野草を採り、秋はキノコ狩り、その合間には保存食作り。休む暇はない毎日でした。
41年間営業し続けたホテルを閉めたのは、1994年。好きな料理と、室内に色を添える蘭の栽培を楽しむ彼女。55年間付き添った最愛のブルーノさんを昨年失ってしまいました。1年経った今でも、ブルーノさんの話が出ると涙がこぼれます。
彼女のいちばん得意な一品が、今回ご紹介するカモニカ渓谷で食べられるラビオリの一種、カルスーです。この料理が生まれたのは、1818年頃と言われています。このあたりにジャガイモが入って来たのがこの時代。飢えしのぎに生まれた料理なのです。ですから、腹持ちのよいジャガイモがたっぷり使われています。材料に、牛肉のローストが入っていますが、もとはといえば、決してこの料理のために用意したものではなく、前日の残り物だったのです。 イタリア料理は、クチーナ・ポーヴェラ(貧しい料理)といわれることがよくあります。それは、あまりものをどうやってうまく再利用して、おいしい一品を作るか、ということ。ですので、お肉の部位もどこを使ってもらってもOK! おいしくできるかどうかは作る人の腕次第。まさに、このカルスーは、その代表料理といえるでしょう。
カモニカ渓谷のヴィオーネ村では、毎年8月に、このカルスー祭りがあり、1.000人限定でこのカルスーを食べることができます。ミラノから、これを目当てに訪れる人もたくさんいるほど有名になったこのお祭り、実はディネッラさんがレシピ提供をしたそう。 でもお祭りのときに出されるカルスーは、大量生産されたもの。「正真正銘のカルスーはこれなのよ! 」とディアネッラさんは自慢します。ぜひ、試してくださいね。
1986年よりイタリア在住。ミラノに住んでいるが、週末になるとイタリアで一番大きいステルヴィオ国立公園内にある山小屋へ逃避。日本で農学部を卒業。イタリアで手にしたチーズティスター・マエストロ、公認ワインティスターの資格を活かし、通訳、コーディネーターとして活躍中。
作り方
牛肉のローストと詰め物
- 鍋にバターを溶かし、牛肉を入れローストしたら、白ワインを加えて火を強め、香りを飛ばしたらジュニパーベリー、塩を加え、蓋をして約1時間煮込む。(必要に応じて熱湯を加える)(写真a 参照)
- 洗ったホウレンソウをゆで、水気を切ってよく絞る。(写真b 参照)
- 鍋に熱湯を用意し、丸のままの腸詰と、皮をむいて角切りにしたジャガイモを15分間ゆでる。(写真c 参照)
- 牛肉のローストと、絞ったホウレンソウ、ゆでた腸詰とジャガイモをフードプロセッサーを使ってミンチにする。(写真d 参照)
- 4におろしたチーズと、塩、卵を加えて混ぜ合わせたら丸めていく。(写真e 参照)
パスタ
- 木製の台の上に、小麦粉、卵、塩を加えよく練る(硬すぎる場合は冷水を加える)(写真f 参照)
- パスタマシーンを使って、薄くのばす。(写真g 参照)
- 5を間隔を置いて、のばした生地の手前側に等間隔で並べる。(写真h 参照)
- 向こう側の生地を配置した中身の上にかぶせる。(写真i 参照)
- 1個ずつの間を手で押さえて密着させる。(写真j 参照)
- ガラスのコップ(直径約6センチ)を使って抜いていく。(写真k 参照)
- 縁をフォークの先で抑えながら生地を閉じていく。(写l 参照)
- ソースを作る。フライパンにバターとセージを入れ、バターが色付き、少し焦げるぐらいまで加熱する。(写真m 参照)
- 熱湯に塩を加え、カルス―を約10分間ゆでたら、お皿に並べ、上から8のソースをかけ、おろしチーズもかける。(写真n 参照)