お料理説明・背景
古来よりさまざまな文化を持つ人々が通り過ぎて行ったカラブリア州の、郷土菓子を取り巻く世界は難しい。 人の動きと一緒に食べ物や調理方法が各地に伝播した結果、異文化のミックスが庶民レベルで行われ、情報が混線。州内各地で同じ名前なのに全く違うお菓子が存在したり、同じお菓子なのに地域によって名前が全く異なるという、カオスな状況が発生した。
特に大切な日の為の特別なお菓子の名前の混線っぷりは半端なく、パトリッツィアさんにご紹介いただくクルストゥリも混線が激しい一品。 このお菓子を「いつ食べるか」については各地ほぼ一定の見解で、つまり、このお菓子は村祭りの前夜や宗教的に大切な日の前日に作って食べられる。この時期になると、街中に揚げたてクルストゥリを売る露店も出て、祭りの風情を街に加えるのだ。
ところが「名前について」は本当に難題で、パトリッツィアさんにとってクルストゥリであるこの一品、コゼンツァ市ではCuddruriaddri(クッドゥリアッドゥリ)と呼ばないと通じないし、Cullurielli(クルリエーリ)と呼ぶ地域もあるし、Fritte(フリッテ)と呼ぶ地域もある。 すべて同じお菓子の名前だけれど、それぞれがそれぞれに誇りを持っているから、この混線っぷりが正されることは絶対にない。 なので、イタリア語では単純にCiambella calabrese(チャンベッラ・カラブレーゼ※カラブリアのドーナツ)と呼ばれていたりする。
パトリッツィアさんは近隣の村にその名が響きわたるクルストゥリ作りの達人。村祭りの際の振舞い菓子用に生地数十キロ分もさらっと作っちゃうし、彼女のクルストゥリはとにかくおいしいので、あちこちから「うちの村祭りの際もお願いします!」と声がかかるほど。
ところで、コゼンツァ市にはトゥルデッリ、別名・クルストゥリと言う揚げたニョッキの様なお菓子が存在する。 コゼンツァ市に住む私は、当然ニョッキに似た「クルストゥリ」の達人なのかと思って取材に伺ったら、用意されている材料がどうも違う。 よくよくお話を聞いてみると、パトリッツィアさんにとってクルストゥリとはコゼンツァではクッドゥリアッドゥリと呼ばれる揚げドーナツ! それじゃ、揚げたニョッキは何て呼ぶの? 「トゥルデッリよ。」ええー!!
ちなみに、クルストゥリと言ってチャンベッラ・カラブレーゼが出て来るのはマンゴーネ村だけ。周辺の村はクルストゥリ=揚げニョッキ。 試食させていただいたけれど、達人パトリッツィアさんのクルストゥリは抜群においしい。でも、誰がいつ名前を混線させちゃったのか非常に気になる。そんな一品。
カラブリア州コゼンツァ市在住のコーディネーター・通訳・翻訳。スキーと食べ物を愛するAB型。一応ソムリエ。カラブリア州の毎日の生活は「カラブリア.com」にて紹介中。
作り方
- ジャガイモは皮ごとゆでる。ゆであがったら皮を剥き粗く潰す。マッシャーを使うと皮のまま潰せるのでスムーズ。小麦粉と合わせてざっと混ぜる。(写真a 参照)
- ビール酵母、塩を加える。(酵母と塩は直接触れないように入れる。)ざっと混ぜたら水を加え始める。だいたい生地が1つにまとまるぐらいの量が目安。(写真b 参照)
- 数分こねて生地の表面がつるっとしてきたら、ソフトボールぐらいの大きさに丸め、布巾などをして休ませる。(写真c 参照)
- 生地が倍ほどに膨らんだらドーナツ型に成型する。優しく潰すように生地を広げながら中央に指先を使って穴をあけ、170℃程に熱した油で揚げる。(写真d,e 参照)
- 全体が黄金色になったら油から引きあげる。軽く塩をふり、熱いうちにいただく。(写真f 参照)