憧れのヴェンデンミアで、農業の大変さと偉大さを思い知る
ヴェンデンミア事始め
クリスマス待ちのはなやいだ時候に、秋の話になりますが…友人の地元イルシーナという村のヴェンデンミアが面白い、とは聞き及んでいました。ヴェンデンミアとは、主にワイン造りのための大掛かりなブドウの収穫作業のこと。ちょうど稲刈りのような秋のイタリアの風物詩です。
10月中旬の晴れの土曜を見計らって、イルシーナからヴェンデンミアの招集がかかりました。マテーラからは車で20分、いそいそと向かったのは友人のお父様が定年後から丹精してきた0.5haのブドウ畑です。
ささやかな畑とはいえ、すべて手摘みで、この日のうちに圧搾したいので、人手はあればあるほどいい。ブドウの熟し具合、天候をにらんでお父様の号令のもと、普段はモデナに住む長男リーノが至極当然、家族4人でヴェンデンミア帰省です。
ヴェンデンミアには、収穫の喜びに大人も子供もうきうきとするお祭りの感があります。家族・親戚は問答無用として、伝統的にご近所さんや親しい友人も楽しく駆り出してしまいます。当家ではリーノの幼馴染みのジーノが固定要員です。
垣根に並んだ畑には、アリアニコ種(黒ブドウ)とシャルドネ種(白ブドウ)が、おおらかに混植されていました。まずはこの日のうちに圧搾したい白ブドウから収穫開始。
大きな葉に隠れた房も摘み残さないよう、二人一組で摘んでいきます。
ポリ容器が一杯になったら、大声で“ネコ”担当者を呼ぶと、空の容器を持って回収に来ます。
図説イルシーナ流ヴェンデンミア
白ブドウを圧搾場に送り出し、目途もついた午後2時半をだいぶ回って、ヴェンデンミアのピクニックとあいなりました。イルシーナには、ヴェンデンミアの日に食べ継がれる行事食があるんです。それが「じゃがいもの野良仕立て」。茹でたじゃがいもをたっぷりのオリーブ油、パプリカパウダーで炒め、塩をし、さっと揚げたクルスキ(ドライド・スイートピーマン)を砕いて和えたものです。
簡単そうでいて、リーノのマンマの貫禄の味にはならない、とは実のお嬢さんとお嫁さん談。それに旬のシシトウのオイル煮、フォカッチャ、焼き菓子で、ちびっこも大喜びのピクニックです。
さてお昼の合図とともに
畑の周縁に自生する葦を刈り取って、お父様が器用に作り始めたのが…
若竹色も清々しいボトル栓。ご自慢の2017年の自家製ワインを詰めたリサイクル瓶の口にも、ぴたりとハマるのは見事です。が、単なるボトル栓ではありませんよ。
イルシーナ流ヴェンデンミアでの正しいワインの飲み方をご覧あれ。
グラス要らずで、大勢で回し飲みができます。プラスティックのコップなど無かった時代の、遊び心しかないイルシネーゼの知恵。ちなみにリーノもジーノも、モデナとミラノを拠点に海外を行き来する高給取りです。名誉のため。笑
ヴェンデンミアの憧憬と現実
ヴェンデンミアは楽しい。しかも愉快なイルシネーゼが一緒です。笑が、厳然とした農作業なのでした。
ブドウ畑はだいたい南向きに作ります。10月半ばとはいえ南伊のこと、日が高いうちは直射日光との闘いです。熟れたブドウに誘われてくる蚊やススメバチと闘いです。そうこうするうちに腰より低い所に生るブドウを摘む態勢もつらくなり、日が傾けば今度は肌寒さとの闘いです。
それでもヴェンデンミアは、ブドウ作りの中では一番楽な作業なんだとか(!)。オリーヴ畑と違ってブドウ畑は手がかかります。茶目っ気たっぷりのリーノのお父様ですが、80歳を越えて、家族も今年が最後のヴェンデンミアかもしれないと考えています。
最後に、日よけのブドウ棚も収穫してヴェンデンミア終了。
0.5haの畑ながら、手慣れた大人5人+その他の大人4人(日本人含む)+ちびっこ4人で、朝から夕暮れまで実に1日がかりでした。
マテーラの八百屋さんでは、旬ともなれば、夢のように甘いブドウが、キロわずか2€ほどです。
美味しいブドウの一房の裏に、日々自然と対峙して、丹精するリーノのお父様のような農家さんがいることに、思いを馳せました。