お料理説明・背景
ここはマルケ州北部の小さな街、ウルバーニア。 この街の名物料理人アンナ。メタウロ川沿いに粉挽き小屋を改装したなんとも素敵なB&B「ムリーノ・デッラ・リカバータ」を経営しながら、親友で料理仲間のフランチェスカと共に食文化伝承のためのアソシエーションを作った食の文化人。かく言う私も創立者の1人です。
ある日アンナのB&Bで開かれた食の夕べで出会ったこのパスタ。名前は、パスタ・アル・サッコ。そう、「袋に入った」という意味のパスタなんです。
マルケ北部のパスタと言えば、皆さんもよく知っているパッサテッリやカペレッティ。でもこの「袋に入れて作る」パスタについては聞いたことはあまり無いのでは?
生地を作って布の袋に入れ、あらかじめ取っておいた贅沢な肉のスープでコトコト袋ごと煮る……。ゆっくりスープを吸った生地は熱で固まり、そして袋から取り出したらキューブ状に切り肉のスープで戻して食す、というなんとも不思議で贅沢、かつ手間のかかる一品。
その昔、復活祭やクリスマスなどのお祭りの機会によく作られていたと言われるこのパスタ。歴史をさかのぼると1800年代の貴族の食事だったとか。なるほど材料は肉のスープ、チーズやバター、卵など贅沢な食材ばかり。でも同じく卵やチーズを使ったパッサテッリなどが浸透しポピュラーになったのとは反対に、なぜこのパスタ・アル・サッコはその姿を消していってしまったのか? それはどうやらこの手間のかかる仕込みにも一因がありそうです。専用の布袋を用意し、1時間以上スープの中で煮込む。スープでいただくパスタの多いマルケですが、これはその中でも特に時間も手間もかかります。
でも、その労力を無駄にしない、上品でやさしい、それでいて力のあるおいしさ。アンナも「小さいころはまだ作っている人がいたけれど、今ではすっかり聞かなくなったわ。私も大好きだったけれど、1年に何度かしか食べられないご馳走だったわね」と。でも一度食べるとその風味が忘れられず、また食べたくなる。そしてそんな幻のパスタをアソシエーションの活動を通し、光を当ててくれたアンナ、やっぱりすごいマンマです!
マルケ州、ウルビーノ近郊のカーイ(Cagli)在住。1999年渡伊、ファエンツァの国立美術陶芸学校の陶彫刻科を卒業後、現代美術アーティストBertozzi&Casoniのもとでアシスタントとして12年に渡ってコラボする。2003年にマルケ在住のイタリア人と結婚したのをきっかけに、マルケ州の郷土料理や工芸、美術文化に強く惹かれ、自らも陶芸家として活動する中、ウルビーノを中心とするマルケ北部や県境近郊の食文化、美術工芸文化を発信する(ラファエロの丘から)を立ち上げ、現地アテンドや料理教室、工芸体験などのオーガナイスや、ウルビーノを紹介する記事などを執筆。生産者や工芸家との友人の輪を生かし、食文化とアートが一体となる現地のイベントに進んで参加している。一児の母としても、マンマの料理の腕を上げようと奮闘中! ホームページ:「ラファエロの丘から」
フェースブックページ:「フェースブック ラファエロの丘から 」
作り方
- ブロード用の野菜を洗う。タマネギは皮をむきクローブを刺しこみ、その他はそのままなべに入れて水を入れ、火にかけて肉が軟らかくなり風味が出るまで1時間半~2時間煮る。あら熱がとれたら漉しておく。ほんの薄味になる程度に塩を入れる。(写真a 参照)
- パスタ生地用のバターを湯せんにかける。小麦粉とすりおろしたチーズ、ナツメグ少々は混ぜてボウルに入れておく。(写真b 参照)
- 湯せんにかけたバターを粉のボウルに注ぎ入れ、よく混ぜる。卵を溶いて加え、全体を均等に混ぜる。ねっとりとした固めの生地になる。(写真c,d 参照)
- 3で作った生地を用意しておいた布袋に入れ、袋の上の部分を料理用タコ糸などで縛る。(写真e 参照)
- あらかじめ作っておいたブロードを温め、沸騰したら4の袋を入れ、弱火で1時間~1時間15分くらい中身が固まるまで煮る。(写真f,g 参照)
- 生地の袋をブロードから引き出し、粗熱が取れたら袋から固まった生地を出す。ブロードが蒸発して少なくなっていたら水を足す。(写真h 参照)
- 固まった生地を1.2~1.5cmくらいにスライスし、さらにキューブ状になるように切る。(写真i 参照)
- キューブ状に切った生地をスープに戻してひと煮たちさせ、全体の味をみて足りなければ塩を加え、温かいうちにいただく。