山人たちの爆竹リコッタ『ムルタリット』
皆さん、トランズマンツァの季節です!『Transumanza』アルプス地域でも初夏から秋にかけて家畜を標高の高い山の上で放牧します。美味しい夏草を食べさせることでより味わいの深いチーズが生産できるのです。
アルプスの少女ハイジのあの世界を、今もそのまま続けている人たちがいるんですよ。ピエモンテ州ビエッラ地域に住む酪農家にもそれを続けているところは多くあって、彼らは地域の方言で「マルガーリ(Malgari )又は(マルゲ:Marghé)」と呼ばれています。
私たちが懇意にしているマルガーリの中でもバターづくりの名手『オルガ』や柔らかな風味のトーマチーズを作るレナ―タは、『イタリア好き(ピエモンテ州号)』本誌でも紹介されましたが、ロッソ・バイエットさんをまだご紹介していませんでした。
彼らも優れたチーズ生産者です。飼っているのはペッツァータ・ロッサ・ドローパ(pezzata rozza d’Oropa)という希少品種のみ。前の日に絞った乳を流水で冷やし、浮いた脂肪を掬ってまずバターを作ると、残った牛乳(脱脂乳)でトーマを作る。さらにホエーを温め直してリコッタを作る。そういう伝統的な酪農加工品の生産方法をとっていることでは、前述の二人と同じ、几帳面さも清潔感も負ける劣らず。大好きな生産者の一人です。
が、一つだけ違うのは、リコッタからこの『ムルタリット(Murtarit)』 を作るビエッラでも数少ない生産者だということ。ムルタリットとはこの地域の方言で『爆竹』の意味。どこが爆竹?
ロッソ・バイエットさんはオルガ同様、今でも薪で乳を温めてチーズもリコッタも作ります。もちろん低温殺菌は行わず、薪の包容力豊かな炎でゆっくりと温めて善玉菌を絶妙に手なずけてチーズを作っていきます。 その炎がゆらゆらと立ち上る先に、『燕が巣でも作りましたか?』と聞いてみたくなるような止まり木が二つ。これこそがムルタリットの眠る寝床。
リコッタはそのまま食べても美味しいですが、彼女はそこにローズマリー、野生のタイム、オレガノのペペロンチーノに塩を適量入れて大きめの団子を作ります。表面が乾いたらいよいよ『止まり木』に!こうして、乳を温める炉の熱で水分をとりつつ、煙で燻されていく。2週間をかけゆっくりゆっくり石のように固く、色もグレーのボールへと変化していきます。
さあ、小さくても妙に迫力をもった可愛いムルタリットの出来上がり!さっとスパゲッティやラビオリを茹で、これを削りかけると、シンプルであるはずがコクがあって複雑な逸品ができてしまうのです。
今では生産者もほとんどいなくなった『ムルタリット』で、お店では売られていない幻のリコッタ。昔は『マルガーリのパルミジャーノ』と言われていました。硬質で、日持ちがして、持ち運びに便利。パルミジャーノのようにパスタに振りかけて用いることが多いからです。
『爆竹』と呼ばれるのはペペロンチーノの辛みのせい?ちょっと待った!ピエモンテーゼはもともと辛いのは苦手。日本人の私たちにはちょっと『元気が良い』ぐらいのレベルです。むしろ、口に含むとミルクをベースに様々なハーブや唐辛子の無限に広がる味わいに爆発のような勢いがあるから?かも知れません
特にちょうど今の時期、家の男衆が山の上の放牧小屋(アルペッジョ)に牛を上げる準備を始める頃にムルタリットも作られます。パルミジャーノがごとく、山に持っていて男たちでも簡単にパスタを茹でたら、マンマの愛情と一緒にこれをゴシゴシ削る。オリーブオイルを垂らす!何もなくてもパスタとサラダで働く男たちの豊かな食卓の出来上がりです。
なんでもないシンプルな加工品が素晴らしい幸せの宅急便になれる。イタリアの食文化の底力を見た気がします。
アルプスの少女ハイジのあの世界を、今もそのまま続けている人たちがいるんですよ。ピエモンテ州ビエッラ地域に住む酪農家にもそれを続けているところは多くあって、彼らは地域の方言で「マルガーリ(Malgari )又は(マルゲ:Marghé)」と呼ばれています。
私たちが懇意にしているマルガーリの中でもバターづくりの名手『オルガ』や柔らかな風味のトーマチーズを作るレナ―タは、『イタリア好き(ピエモンテ州号)』本誌でも紹介されましたが、ロッソ・バイエットさんをまだご紹介していませんでした。
彼らも優れたチーズ生産者です。飼っているのはペッツァータ・ロッサ・ドローパ(pezzata rozza d’Oropa)という希少品種のみ。前の日に絞った乳を流水で冷やし、浮いた脂肪を掬ってまずバターを作ると、残った牛乳(脱脂乳)でトーマを作る。さらにホエーを温め直してリコッタを作る。そういう伝統的な酪農加工品の生産方法をとっていることでは、前述の二人と同じ、几帳面さも清潔感も負ける劣らず。大好きな生産者の一人です。
が、一つだけ違うのは、リコッタからこの『ムルタリット(Murtarit)』 を作るビエッラでも数少ない生産者だということ。ムルタリットとはこの地域の方言で『爆竹』の意味。どこが爆竹?
ロッソ・バイエットさんはオルガ同様、今でも薪で乳を温めてチーズもリコッタも作ります。もちろん低温殺菌は行わず、薪の包容力豊かな炎でゆっくりと温めて善玉菌を絶妙に手なずけてチーズを作っていきます。 その炎がゆらゆらと立ち上る先に、『燕が巣でも作りましたか?』と聞いてみたくなるような止まり木が二つ。これこそがムルタリットの眠る寝床。
リコッタはそのまま食べても美味しいですが、彼女はそこにローズマリー、野生のタイム、オレガノのペペロンチーノに塩を適量入れて大きめの団子を作ります。表面が乾いたらいよいよ『止まり木』に!こうして、乳を温める炉の熱で水分をとりつつ、煙で燻されていく。2週間をかけゆっくりゆっくり石のように固く、色もグレーのボールへと変化していきます。
さあ、小さくても妙に迫力をもった可愛いムルタリットの出来上がり!さっとスパゲッティやラビオリを茹で、これを削りかけると、シンプルであるはずがコクがあって複雑な逸品ができてしまうのです。
今では生産者もほとんどいなくなった『ムルタリット』で、お店では売られていない幻のリコッタ。昔は『マルガーリのパルミジャーノ』と言われていました。硬質で、日持ちがして、持ち運びに便利。パルミジャーノのようにパスタに振りかけて用いることが多いからです。
『爆竹』と呼ばれるのはペペロンチーノの辛みのせい?ちょっと待った!ピエモンテーゼはもともと辛いのは苦手。日本人の私たちにはちょっと『元気が良い』ぐらいのレベルです。むしろ、口に含むとミルクをベースに様々なハーブや唐辛子の無限に広がる味わいに爆発のような勢いがあるから?かも知れません
特にちょうど今の時期、家の男衆が山の上の放牧小屋(アルペッジョ)に牛を上げる準備を始める頃にムルタリットも作られます。パルミジャーノがごとく、山に持っていて男たちでも簡単にパスタを茹でたら、マンマの愛情と一緒にこれをゴシゴシ削る。オリーブオイルを垂らす!何もなくてもパスタとサラダで働く男たちの豊かな食卓の出来上がりです。
なんでもないシンプルな加工品が素晴らしい幸せの宅急便になれる。イタリアの食文化の底力を見た気がします。