南イタリア風シャビーシックと古道具で三方よし/後編
修復師の仕事とは
(前編から続き)アレッサンドロの本業は修復師です。経年で劣化した家具木工を元の姿に復元します。
例えば、こんなものから…
(修復前)
(修復後)
ぐっと身近に、古い門扉や玄関の扉まで。
特に世界遺産のサッシ地区では、門扉および鎧戸、開口部の建具は木(もく)と定められているので、修復依頼は絶えません。
こちらはサッシ地区のさる私邸で、雨ざらしにされていた玄関の扉です。
ひっかかるところがあって、持ち主から譲りうけ、修復してみると、1924年の日付とともに、自らをEbanista 高級指し物師と名乗った職人のサインが出てきました。
情熱があってこそですが、すくいあげるのも修復師の仕事ということでしょうか。
「ただ元に戻す」が信条のアレッサンドロですが、ありきたりな古道具ならば、持ち主の愛着を汲んでリメイクしてくれます。
同じ情熱でもって、小学校に出向けば、まことに自由闊達なイタリアのちびっこたちをもたちまちくぎ付けにし、
ストリートで修復作業を実演すれば、マテーラ市民も興味津々です。
マテーラにA.カスターノあり
アレッサンドロが、修復と両輪であると考える古道具店。アレッサンドロはこの店を、アンティーク⇔修復⇔人がつながる場に育てていきたい、と考えていました。修復師であり、古物商・古書古本商であり、マテーラの古い写真や私書のコレクターでもあるアレッサンドロを媒体に、古い物を手放したい人、欲しい人がつながる場所。さらには、古い家具を修復したい人、リメイクしたい人、アンティーク好き、郷土史好きが集う店+ショールーム+サロン+ギャラリーのような場所です。
お店では、アレッサンドロがさんざん試してたどり着いた、上物のシェラック(ニス)も販売。使い方も指南してくれます。
ちょうどこの日、facebookを見たというお馴染みの女性客が来店。さっそくお目当ての古本を囲んで、初対面のわたしも促されたかっこうで、すぐに「この本のここがすごい」談義が始まりました。
直後に激しい夕立があって、雨宿りを決め込んだこの女性は、50年代のソファー(商品)に深々と腰かけると、買ったばかりの野草に関する本を読み始めるのでした。
アレッサンドロが目指すのは、きっとこんな気の置けない場所。
50~60年代のモダンインテリアで、三方よし
修復との両輪で存在感を増すA.カスターノには、ごく直近も、サッシ地区の由緒ある館から17~18世紀の家具調度が、委託されました。マテーラではなかなか出てこない真正のアンティークです。対しまして、今出てくるのは、50~60年代に結婚して新居を構えた世代=おばあちゃんの家にある類の①50~60年代に、②工場で、③量産された、④モダニズム(様式)の家具…の模造品です。
「物事をむき出しにしてはいけません」と言われますし、理由はつまびらかにしませんが笑、この手の家具は、マテーラではどの世代にも人気がなく、従って、子どもや孫があっさり手放すことになります。
なかなか気の利いたデザインだと気をよくしていたら、アントニオ・ゴルゴーネ(ナポリ)の50年代のひじ掛け椅子の模造品のようです。
とはいえ、洋服も家具も優れたデザインが、広く模倣されるのは、今も同じ。60年代~のクラフト・リヴァイバルで、一品製作の家具への揺り戻しもあり、今でも衣食住はコンサバティブな人が多いマテーラでは、相当ハイカラだったはず。
たった120€で、粗大ゴミが2つばかり減り、私はといえば、今度は椅子を張替えてくれる職人さんに、ああだこうだ言いながら張替えをお願いする楽しみが増えました。
もし将来、この肘掛けに飽き飽きしても、たぶん買い手がつくのも、古い家具のいいところです。
売り手よし、買い手よし、世間よし。
【イトリアの谷のアンティーク市】Antiquariato in Valle d’Itria
2018年8月11日(土)~8月19日(日)@マルティーナ・フランカ(プーリア)
【マテーラの蚤の市】
毎月第2土日@ヴィットリオ・ヴェネト広場Piazza Vittorio Veneto/マテーラ
【アンティーク家具修復A.カスターノ】
A. CASTANO Ebanisteria & Restauro
https://www.instagram.com/ebanisteria_restauro/
ショールーム
Viale Europa, 6C – 75100 Matera
月~金 16:00~20:00
土 09:00~13:00/16:00~20:00