
マンマの紹介

- ロッサーナ・デ・フィリッピ(Rossana De Fillippi)さん
- ヴェネト州パドヴァ市在住
- 得意料理:魚介のパスティッチョ(ラザニア)等 ヴェネツィア生まれ・ヴェネツィア育ちの生粋ヴェネツィアーナ、ロッサーナさん。仕事を引退された後、料理好きが高じて自宅にて料理サロンを開きました。不定期開催ではあるが、ほぼ毎週末には各地・各分野の専門家やシェフ、パティシェを招き、料理レッスンを企画している。人の集まる機会の多い彼女の自宅は、整然かつ温かみ溢れる素敵な調度品に囲まれ、会うたびにやさしさ溢れる笑顔で気持ちを和やかにしてくれる、素敵なマンマ。
お料理説明・背景

ヴェネツィアに古くから伝わるユダヤ料理。
使う材料はナスのみ。それもおもしろいことに皮のみを使う、というなんとも珍しい料理だ。シンプルだが本当に美味しいナス料理。
ヴェネツィアにはゲットーと呼ばれる区画がある。ユダヤ人の隔離居住区として、16世紀に建設されている。ユダヤ人隔離地区を「ゲットー」と呼ぶようになったのは、ヨーロッパのなかでもヴェネツィアが最初だったという。そのためヨーロッパ最古のゲットーであるともいわれている。現在でもその地区は建物もそのままに、シナゴークや当時のモニュメントなどが残されている。小さな地区ではあるものの、ユダヤ人の食文化の伝統を守るレストランやパスティッチェリアなども存在し、ヴェネツィアの一端を垣間見る興味深い場所でもある。
このレシピを教えてくれるロッサーナさんは、このゲットー地区からほど近いヴェネツィア本島内の住宅地で生まれ育った。
後から続くレシピでは、細く切ったナスの皮を日干しにするのだが、彼女の幼い頃の記憶には、この地区を通ると、地区内の食事処の店に、ナフキンの上に広げられた日干し中の大量のナスの皮を頻繁に目にしていたのだそう。ナスは夏の野菜であるから、それが夏の風物詩でもあったとか。そして、ヴェネツィア本島内でも、このゲットー地区でしかお目にかかれない料理であり、少し地区を移動すると、この料理を知らないヴェネツィア人もいるくらいだ。彼女は、たまたま同区域の近くに住んでいたからこそ、より身近で親しみのあるメニューとして、今でも自宅の食卓に頻繁に登場するメニューであり、また家族の好物でもある。
シンプルな材料、シンプルな味つけだが、そうであるからこそ、時間をかけてゆっくりと火を通していくことで、ナスの甘みやうまみがジワジワと出てくる。夏は冷やして食べてもおいしい。ロッサーナの子供の頃は、彼女のマンマがつくってくれたこのナスを、パンに溢れるほど挟んで食べるのが、好んだおやつのひとつだった。そして、近くに住んでいた親戚の叔父さんがまた、この料理が大の得意だったとか。「彼のところに遊びに行っては、やはりパニーノ仕立てにしてもらい頬張っていたのよ」と語る。 ロッサーナさんには二人の双子の娘さんがいる。「私たちも大好物‼︎」と二人とも口を揃えて言うところをみると、確実にマンマの味が受け継がれていると言える。
さて、「メランザーネ・アル・フンゲット=ナスのきのこ風」という、少々奇妙なこの料理名。ナスの皮だけをじっくりいためることでカサが減り、できあがりの色あいはほぼ真っ黒。この見た目が一見、きのこ(フンギ)のようなことからこの名がついたのだとか。材料はナスの皮、というシンプルなものだが、一度干して水分を抜いてから調理するため、見た目よりも手の込んだ料理。その分ナスのうまみがギュッと凝縮され、独特のネットリとした口当たりとなる。ナスとは思えないほど存在感のある料理だ。
もちろんこの料理に使わなかったナスの白い身の部分は捨てずに使う。ロッサーナさんは刻んでパスタの具材やポルペッテ(肉や野菜の団子)の具材などに使っている。
ヴェネトおよびフリウリを中心に、通訳、翻訳、地元マンマの料理レッスン及び生産者訪問コーディネイト、そして野菜を中心とする農産品の輸出業などの活動を行う。 ブログ『パドヴァのとっておき』にて料理や季節のおいしい情報を中心に、日々のできごとを発信中。
作り方
- ナスはヘタ部分を掃除し、皮を縦方向に少し厚めに剥くき、皮と身とを分ける。(写真a,b 参照)
- 斜め方向に3~5mm幅に細く切る。(写真c 参照)
- 布を広げ、その上に切ったナスの皮を重ならないように広げる。(写真d 参照)
- 日向で約1時間乾かして水分を飛ばす。
- 鍋につぶしたニンニクとオイルを入れて火にかける。(写真e 参照)
- ニンニクに泡が出てオイルの香りがたってきたらニンニクは取り除く。好みではそのまま残してもよい。
- ナスを加えて最初は強火で表面をいためる。(写真f 参照)
- 全体に油がまわったら、火を弱火にし、蓋をしてじっくりといため煮にする。(写真g 参照)
- 焦げ付かないように注意をしながら、途中何度かかき混ぜて、約40分間火を入れる。塩は途中、何度かに分けて少しずつ加え、火を止める前に味を調整する 。