お料理説明・背景
ピッツオ村にはマグロ漁の伝統がある。カラブリア州の西海岸をマグロの魚群が通る。そこを狙って男衆は漁へ。陸で待つ女衆の仕事は、釣られたマグロの解体作業と保存食作り。ツナの瓶詰や唐辛子にマグロの身を詰め込んだ保存食を作り、自家用・販売用としていた。
この伝統は今でも残り、ピッツォのツナ缶工場で缶詰に向く身を削り取る作業をするのはすべて女性だ。
カラブリア州は海岸線の総距離が約700㎞もあるのに、漁村の数が極端に少ない。これは、常に支配される側にあった為の大型船造成禁止令が出ていたためとか、海は近隣国からの海賊・人さらいが横行する危険地帯だったため、と言われている。
それでも天然の湾などを使った漁村は存在し、ピッツォ村もそのうちの一つ。カラブリア州の中でも特別に温暖な地域にあり、例外的に通年漁が可能だったピッツォ村では春からがマグロのシーズンで、瓶詰・缶詰にする技術が発明されて以降は世界的に有名な「ツナ缶」の生産地となった。
瓶詰・缶詰作業の過程で出るフレーク状のマグロの身は、いつの時代も大衆にとって手に入りやすい蛋白源だった。そこで誕生したのがこのレシピ。 灌漑技術の遅れから冬用の飼葉(干し草)を用意できず、家畜肉を食べることが叶わなかったこの地の貧しい人たちが、手元にある材料だけで作り上げたレシピだと言われている。
ナスの実をくり抜いて他の材料と捏ね合わせ、ナスの皮を器代わりに使う「ナスのオーブン焼き」レシピはカラブリア州内にさまざまなバージョンが存在するが、ツナ缶を使うレシピが郷土食として家庭に根付いているのはこの地域のみ。
今ではこの地だけで食べることのできる幻の一品だ。
レシピに必要な材料を見れば一目瞭然、材料はすべて畑で採れるもの・台所にある物ばかり。マリアマンマが使うのは、もちろん自家製ツナの瓶詰。でも購入した瓶詰・缶詰でもほぼ同様の味が再現できる。
広大な敷地で柑橘類と野菜を生産するアグリツーリズモをご主人と経営するマンマ。2人の息子は、海外在住。息子さん達が帰省すると必ずリクエストがあるレシピだそうで、冷凍庫に山盛りストックして帰省を待つのだとか。「ナスが美味しい晩秋までにたくさん作っておかなきゃ。日本人もマグロを食べると言うから、このレシピを気に入ってくれたら嬉しいわ!」と言うマンマの笑顔が印象的だった。
カラブリア州コゼンツァ市在住のコーディネーター・通訳・翻訳。スキーと食べ物を愛するAB型。一応ソムリエ。カラブリア州の毎日の生活は「カラブリア.com」にて紹介中。
作り方
下ごしらえ
- トマトソースを作る。フライパンに薄くオリーヴオイルを敷き、にんにくを入れて香りを立たせたらミキサーにかけたトマトソースを入れ、塩をして煮詰める。煮上がる頃にお好みでバジルの葉を加える。オーブン焼きに使うので、煮詰めすぎない。
- パンは固い耳の部分は取り除き、水に浸けておく。(写真a 参照)
- イタリアンパセリ、バジルとニンニクは合わせてみじん切りしておく。(写真b 参照)
作り方
- ナスは縦半分に切り、ナイフで中の白い部分をえぐり取る。(写真c 参照)
- ナスの皮は破らないように置いておき、中の白い部分はサイコロ状に切っておく。(写真d 参照)
- 鍋に湯を沸かし軽く塩をしたら、ナスの皮とみじん切りにした白い部分を入れ、再沸騰してからさらに5~10分間煮る。えぐみを抜き、ツナなどの具材と混ぜ合わせやすくするため。(写真e,f 参照)
- 煮上がったらざるに取り、ナスの白い部分(サイコロ状にしたもの)は粗熱が取れてからぎゅっと水気を絞り大きめのボウルに入れる。ナスの皮は破れないように別にしておく。
- ナスを入れたボウルに、油を切ったツナ・水気を切ったパン・卵・削りチーズ・みじん切りしたイタリアンパセリとニンニクを加え、軽く塩をし、よく捏ねて詰め物を作る。(写真g 参照)
- ナスに、(5)の詰め物を詰める。(写真h 参照)
- 詰め物側に軽く小麦粉をしたら、高温に熱した揚げ油に皮を上にして入れ、表面がカリッとするまで揚げる。(写真i 参照)
- 耐熱容器に薄くトマトソースを敷き、揚げたナスを皮が下になる様に並べる。(写真j 参照)
- ナスの上にさらにトマトソースをのせる。ナスがソースで覆われているようにする。表面にパルミッジャーノチーズを軽くかけたら、180℃のオーブンで10~15分間焼き上げる。(写真k 参照)
- アツアツよりも冷ましてから、1日経ってからの方がおいしい。作ってすぐいただく際も、30分以上は休ませるようにする。(写l 参照)