お料理説明・背景
バルカン半島由来で、アルブレーシュ(※1)が約500年前にイタリアに移民した際に持ち込んだ手打ちパスタのレシピと言われている。アルブレーシュのみに伝わるレシピの為、アルブレーシュ以外のカラブリア人は、このパスタを作らないどころか見たことも無い人が多い。
「地上に存在する手打ちパスタの内、最も簡単なレシピ」(アンナさん談)。
アンナさんはルングロ村に続く旧アルバニア貴族の17代当主でミュージシャン。イタリア化が進み失われるつつあるアルブレーシュの郷土文化を保存する活動を主に音楽と郷土料理のレッスンを通じて行っている。
本国アルバニアは長くオスマントルコ帝国の支配下にあり、アルバニア語の使用禁止はもとより郷土料理を作ることさえ禁じられていた。この影響で、現在本国でこのパスタを作れる人は大変少ないそう。
今でこそイタリアに住むアルブレーシュの間でドロムサは1年を通して作られるパスタとなっているが、かつて、アンナさん宅では雪が降ったらドロムサを作る決まりがあったそう。おばあちゃんとパスタ台を囲んで一家の歴史・英雄の話を聞きながら作り方を教わった思い出のパスタ。
信心深い人が多いアルブレーシュらしく、宗教行事を模した工程、すなわち正教会系の洗礼を模した工程が作業途中に含まれる。(※2) この工程に入る際、作業開始する旨を必ず周囲に宣言してから行うのも興味深い。
自然の厳しい土地に暮らしていたかつての影響か、使用される材料は最小限。また、最低限の料理時間で体が温まる一品に仕上げる工夫がされている。
Dromsaはアルバニア語で「小さな玉」の意。
※1:アルバニア語で「アルバニア人もしくはアルバニア語」の意。彼らは誇りをもって自らを「アルブレーシュ」と呼ぶ。
※2:アルブレーシュの人たちが信仰するのは、カトリックながらも正教会系の一派。アンナマンマの住むルングロ村に彼らが信仰する一派のイタリア国内唯一の司教がおり、重要な宗教行事は全てルングロ村で行われている。今回紹介するドロムサ作りにオレガノを使うが、それはオレガノが魔除けに使われていた時代の名残とも言われている。
カラブリア州コゼンツァ市在住のコーディネーター・通訳・翻訳。スキーと食べ物を愛するAB型。一応ソムリエ。カラブリア州の毎日の生活は「カラブリア.com」にて紹介中。
作り方
- トマトソースを作る。(下記参照)
- パスタを打ってトマトソースと合わせて仕上げる。(下記参照)
トマトソースを作る
- 大き目の鍋にオリーヴオイル・ニンニク・タマネギ・中の種を出した乾燥パプリカ・お好みで唐辛子を入れ、弱火でゆっくり炒める。(極端な辛味が苦手な場合は、トマトソースを加えてから唐辛子を加えると唐辛子の旨味だけを引き出すことが出来る)(写真a 参照)
- 全体にしっかりと火が通ったら、トマトソースを加え、軽く塩をしたらトマトソースが半量になるまで弱火でじっくりと煮込む。(写真b 参照)
- 煮込み始めてから10分ほどたったら、お好みでバジルを加える。(写真c 参照)
パスタを打ってソースと合わせる
- パスタ台に小麦粉を出す。軽く塩をしたら、指先でさっと混ぜる。(今回は小麦粉の分量の半量を全粒粉に置き換えて作っている)(写真d 参照)
- オレガノの花穂の部分を水にしっかりと浸し、キリスト教の司祭が聖水を振りかけるように小麦粉の上でオレガノの花穂から水を飛ばす。(写真e 参照)
- オレガノを持っていない方の手で小麦粉を軽くもみながら、水に浸けた花穂から水を飛ばす作業を5回ほど繰り返す。(写真f 参照)
- 両手で小麦粉を取り、手をすり合わせるようにしてドロムサを形作る。手をすり合わせる作業は、数回行う。(写真g 参照)
- 出来上がったドロムサをざるに取り、不要な小麦粉をふるい落としたらお皿に取る。この作業を小麦粉が無くなるまで繰り返す。(写真h 参照)
- 半量まで煮詰まったトマトソースから、バジルや乾燥パプリカなど香りづけに使った材料をすべて取り出す。(そのままにしておいても良いが、舌触りが悪くなる)
- 煮詰まったトマトソースに同量の水を加えて再び火にかける。水の量が足りないと焦げ付いてしまうので必ず同量を加える。
- 沸騰したらドロムサを入れる。軽くかき回し、再沸騰したら蓋をして火を止める。(写真i,j 参照)
- 蓋をしたまま3分ほど休ませる。蓋を取り、軽くかき回してからサーブする。お好みで唐辛子・チーズをかけていただく。