マンマのレシピ

マンマの紹介

  • フランチェスカ・グエッラ(Francesca Guerra)さん
  • マルケ州ウルバーニア町
  • 得意料理:クロストロ、手打ちパスタ全般

お料理説明・背景

マルケ州北部を代表するストリートフードに、たっぷりラードを何層にも練りこみ、外はサクサク中はソフトに焼き上げるパン、クロストロがある。

パンといっても酵母は入らないとても原始的なパンだ。
郷土料理は、その土地が生み出す食材によって豊かなバリエーションが生まれるが、ここマルケ州では、地中海気候の海岸線沿いや丘ではオリーヴオイルが、内陸ではラードが重要な調味料として使われてきた。まだ家庭で1年に1度豚を解体する文化が残っているこの地域では、生ハムやサラミと共に新鮮で上質なラードが生み出される。揚げ物に、焼き菓子に、パンの生地に練りこんだり……とそれはそれは重要な食材だ。自然の中で厳選された飼料を与えられて育った豚から取れるラードは、香り高く、甘ささえあり、全く臭みを感じない。そんな贅沢なラードが惜しみなく練り込まれたパンなのだが、古代にはこのパンを炭で焼き、そのいい香りを煙と共に天の神様に届けるという儀式があったそうだ。

そしてこの話を教えてくれたのは、ウルバーニアのクロストロ作りの名人、私の料理の師でもあるフランチェスカだ。
年に1度開かれるクロストロ祭りでは、審査員の1人として、町一番を目指して大会に参加する挑戦者たちのクロストロを採点し、彼女自身のお店でも目玉商品としてクロストロを作って販売している。
クロストロといえばフランチェスカ!といった感じで町では彼女を知らない人はいない程だ。元来は炭焼きで焼くのだが、家庭ではフライパンやグリルで焼いても十分おいしくできるのがいい。
中に色々と具を挟んで食べるのだが、何といってもイチオシなのは、青菜のソテーとサルシッチャのグリルを挟んだものだ。見た目の素朴さはさておき、豚の旨みという旨みを満喫することができる。青菜の代わりに春先に摘まれる野草をソテーにしたものと一緒ならばさらに格別だ。

私はイタリアに住んで17年になるが、今まで食べた色々なおいしいものの中で、5本の指に入るとこっそり思っており、この野草のソテーとサルシッチャを挟んだクロストロが食べたいばかりに、地元のおばちゃんたちに混ざって野に出て野草摘みを覚えた。

そして何より、このパンを作るのはとっても楽しい。コネコネ、薄ーく伸ばしてさらにネジネジ、クルクル……色々な作業があり、粉もの王国イタリアらしい食べ物だ!と実感する。パン屋はきっと、綺麗にふっくら焼きあがったパンにまるでわが子への愛着のようなものを感じるのでは、と思うのだが、このパンもまた綺麗にクルクル巻かれた生地を麺棒で伸ばし、サクサクふわっと焼き上げる一連の作業には、美味しく焼けてね、という思いがこもる。ここウルバーニアを出れば、このパンとほぼ同じものが、クレッシャ・スフォリアータ(何層にも重なった生地のパンの呼び名)という名で呼ばれており、ウルビーノを中心としたモンテフェルトロ領のあちこちで作られ、野菜の香草焼きを挟んだもの、チーズやハムを挟んだものなどバラエティーは豊かだ。

もし皆さんが、炭をおこしてバーベキューをする機会があるときは、ぜひこのクロストロとサルシッチャを炭焼きにし、青菜と挟んで食べてみることをおすすめする。きっと忘れられないヴォニッシモ!!を体験するはずだから……。

レポート:林 由紀子(Yukiko Hayashi)
マルケ州、ウルビーノ近郊のカーイ(Cagli)在住。1999年渡伊、ファエンツァの国立美術陶芸学校の陶彫刻科を卒業後、現代美術アーティストBertozzi&Casoniのもとでアシスタントとして12年に渡ってコラボする。2003年にマルケ在住のイタリア人と結婚したのをきっかけに、マルケ州の郷土料理や工芸、美術文化に強く惹かれ、自らも陶芸家として活動する中、ウルビーノを中心とするマルケ北部や県境近郊の食文化、美術工芸文化を発信する(ラファエロの丘から)を立ち上げ、現地アテンドや料理教室、工芸体験などのオーガナイズや、ウルビーノを紹介する記事などを執筆。生産者や工芸家との友人の輪を生かし、食文化とアートが一体となる現地のイベントに進んで参加している。一児の母としても、マンマの料理の腕を上げようと奮闘中! ホームページ:「ラファエロの丘から」
フェイスブックページ:「フェイスブック ラファエロの丘から 」

材料

クロストロ(22~24cmほどの生地 4~5枚分)

・強力粉または00粉300g
・卵小2個または中1個半
・塩6.5g
・牛乳125mlまたは水と牛乳半々ずつ
・ラード小さじ大盛り1
・黒コショウ少々
・ラード150g程度室温にもどしておく

中に挟む具

・サルシッチャ4~5本クロストロ1枚につき1本
・青菜一束ビートの葉、ホウレン草、小松菜など
・オリーヴオイル少々

作り方

  1. 1日目:生地を作り成型して冷蔵庫で一晩休ませる。(下記参照)
  2. 2日目:休ませた生地を伸ばして焼き、お好みの具材を挟む。(下記参照)

1日目

  1. 作業台の上に小麦粉を山型に置き、中心にくぼみを作って卵、室温に戻したラード(小さじ大盛り1程度)と牛乳、塩、コショウを入れてフォークで小麦粉を巻き込みながら生地をまとめていく。(写真a 参照)
  2. スケッパーで集め、1つの塊にしながら滑らかになるように練る。生地が乾かないようにラップをかぶせるなどして最低30分程休ませる。(写真b,c,d 参照)
  3. 休ませた生地を作業台の上で生パスタの要領で伸ばす。台が小さければ生地を2、3個に分けて伸ばす。(写真e 参照)
  4. 生地の上に室温に戻したラードを手で伸ばしながら全体に塗る。(写真f 参照)
  5. 手前に生地を巻いていき、直径2cm程になったら残りの生地から切り離してチューブ状にする。生地が終わるまで同じ作業を繰り返す。(写真g,h 参照)
  6. チューブ状の生地を両手を逆方向に転がしながらねじっていく。ねじった生地をカタツムリのように渦巻状に巻いていき、同じ大きさになるように4~5個にまとめる。(写真i,j,k 参照)
  7. 生地同士がくっつかないよう軽く粉をふり、容器に入れてしっかりとラップをかけるか蓋をするかして冷蔵庫に入れ、一晩休ませる。

2日目

  1. 青菜を少々の塩を入れたお湯でゆで、食べやすい長さに切り、オリーヴオイルを敷いたフライパンで塩コショウと一緒にソテーしておく。(写真l 参照)
  2. サルシッチャは半分に切り目を入れて炭火またはグリル、フライパンなどで色よく焼く。青菜のソテーと一緒にして冷めないように保温しておく。(写真m 参照)
  3. 冷蔵庫で休ませた生地を出し、打ち粉を振って厚さ3mm程、直径22~24cm程の円盤状に広げる。炭火またはグリル、或いはしっかりと熱したフライパンで、表面に刷毛などで少しラードを塗りながら両面をいい色に焼く。(写真n,o,p 参照)
  4. 保温しておいたサルシッチャのグリルと青菜のソテーを挟み、あつあつのうちにいただく。(写真q 参照)
  • a. 小麦粉に卵、ラードなどを入れ混ぜ合わせる
  • b. スケッパーで生地を集める
  • c. 生地を練る
  • d. ラップをかけて休ませる
  • e. 生地を薄く伸ばす
  • f. 表面にラードを塗る
  • g. 直径2cmほどのチューブ状にする
  • h. 生地が終わるまで繰り返す
  • i. 生地をねじる
  • j. 丸く渦巻状に巻く
  • k. 4~5個にまとめて一晩休ませる
  • l. 青菜をゆで炒めておく
  • m. 半分に切り目を入れる
  • n. 生地を丸く伸ばす
  • o. 表面にラードを塗りながら焼く
  • p. こんがり色づくまで焼く
  • q. あつあつの生地に具をのせる

お料理ポイント

生地を薄く伸ばすとき、穴があいてしまったりすることがあるけれど、どうせ渦巻き状にしてしまうから気にせずにどんどん作業してね。水と牛乳が半々くらいだとサクッとした食感で、牛乳のみだと少しソフトな感じだから、好みで調節するの。多めに作って渦巻きにした状態で冷凍もオーケーよ。今日はビエトラ(ビートの青菜)を使ったけれど、ほろ苦い青菜もとっても良く合うわよ!