マンマのレシピ

マンマの紹介

  • フランチェスカ・グエッラ(Francesca Guerra)さん
  • マルケ州ウルバーニア町
  • 得意料理:クロストロ、手打ちパスタ全般

お料理説明・背景

マルケ州北部にある小さな内陸の町、ウルバーニア。
かつてカステルドゥランテと呼ばれ、ウルビーノ公であったモンテフェルトロ家の宮廷ご用達のマヨリカ陶器を生産していた歴史ある街だ。

この小さな町で、食の達人としてちょっとした有名人なのが今回ご紹介するフランチェスカ。3人の子供を育て、マンマとしてもベテランなのはもちろんのこと、このウルバーニアの町民の胃袋を支えているともいえるパスタ・フレスカ(生の手打ちパスタやお惣菜などを販売している食材店)を家族と経営している。

彼女のお店、イル・マッタレッロ(麺棒の意)に入ると、そこはいつもお客さんでいっぱい!フレッシュのパスタはもちろんのこと、ラードを練りこんだ焼きたての白ピッツァ、焼き菓子、種類豊富なお惣菜など、バラエティー豊かで驚かされる。

町の住民が入れ替わり立ち代り店に入り、「チャオ、フランチ!いつものあれちょうだい!」といった感じで彼女に挨拶し、あれこれ世間話。おしゃべりをしながらも手際よく注文の品を包む彼女は、昔、本が大好きで、本の修復を勉強しながら、レシピ本を読み漁っているうちに食について強く惹かれるようになり料理人になったのだとか。

そして彼女が長年かけて集めたレシピの中でも、古い歴史があり、現在でも多くの人々に愛されている一品がこのパッサテッリ。現在ではマルケ州、エミリア=ロマーニャ州などで食べられるポピュラーなパスタだが、このレシピに関する一番古い文献はマストロ・マルティーノという料理人によって書かれたもので、なんと1350年代のころにまで遡るそう。パン粉を使って作られているため、固くなってしまったパンを無駄にしないように作られていた農家ならではの節約料理かと思いきや、このレシピに含まれているシナモンの存在が当時の貴族にしか手に届かない高価なスパイスだったということから、おそらく位の高い人たちが食べていたものだという説もあり、このシンプルなレシピからさまざまな歴史が紐解けそう。

現在では、6~7mmほどの穴が開いた絞り出し器具を使って絞り出すという、結構力のいる方法で作るのが主流だが、戦前戦後は、写真のようなお玉型の金属碗に穴が開いた道具を使って、両手で取っ手を掴んで押し出す方法がポピュラーで、今よりも力を使わずスムーズに生地を押し出せたとか。
昔の知恵がつまったこの道具はパッサテッリやパッサレッラという名前で親しまれていたそう。これもきっと時代と共に消え行く道具の1つなのかもしれない。

普段はお肉と野菜で取ったスープでいただくことが多いパスタだが、春のフレッシュなアーティチョークと野菜で取ったスープでいただいてもとてもおいしいく、フランチェスカのおすすめということで、今回はアレンジバージョンのご紹介。アーティチョークはデトックス効果も高く、鉄分を多く含んでいることから、女性にもとても優しいレシピ。
彼女の出版した、マルケ北部の郷土料理のレシピ本にも登場するパッサテッリ。白黒の写真にはかわいらしいおばあちゃんがせっせと生地を仕込んでいる様子が見られ、パッサテッリが多くの家庭で長年愛されてきたレシピであることが皆さんにも伝わるのではないだろうか。

レポート:林 由紀子(Yukiko Hayashi)
マルケ州、ウルビーノ近郊のカーイ(Cagli)在住。1999年渡伊、ファエンツァの国立美術陶芸学校の陶彫刻科を卒業後、現代美術アーティストBertozzi&Casoniのもとでアシスタントとして12年に渡ってコラボする。2003年にマルケ在住のイタリア人と結婚したのをきっかけに、マルケ州の郷土料理や工芸、美術文化に強く惹かれ、自らも陶芸家として活動する中、ウルビーノを中心とするマルケ北部や県境近郊の食文化、美術工芸文化を発信する(ラファエロの丘から)を立ち上げ、現地アテンドや料理教室、工芸体験などのオーガナイスや、ウルビーノを紹介する記事などを執筆。生産者や工芸家との友人の輪を生かし、食文化とアートが一体となる現地のイベントに進んで参加している。一児の母としても、マンマの料理の腕を上げようと奮闘中! ホームページ:「ラファエロの丘から」
フェイスブックページ:「フェイスブック ラファエロの丘から 」

材料

パッサテッリの材料(4人分)

・パン粉300g食塩の入っていないパンのパン粉が好ましい
・削ったパルミジャーノ・レッジャーノ150gパルミジャーノ・レッジャーノ100gとペコリーノチーズ50gでも可
・卵3~4個
・レモンの皮(無農薬)1個
・シナモンパウダー小1杯
・塩、コショウ少々

アーティチョークのスープの材料(4人分)

・アーティチョーク6~7個
・タマネギ1個
・ニンジン1本
・セロリ1本
・水1.5l程度
・クローブ3~4個
・無農薬レモン1個
・パセリ枝の部分だけ6~7本
・塩適量

作り方

  1. パッサテッリを作る。(下記参照)
  2. アーティチョークのスープを作る。(下記参照)
  3. スープを火にかけ、沸騰したらパッサテッリを直接入れる。再びスープが沸騰し、パッサテッリが水面に浮かんできたら火が通った証拠。火を止めて、浮かんだ泡を取り除き、皿に盛って温かいうちにいただく。好みでオリーヴオイルをたらしてもいい。(写真 n,o 参照)

パッサテッリを作る

  1. パン粉を目の粗いざるでふるい、山型にして中心にくぼみを作り、くぼみに削ったチーズを入れる。両手でもみ込むように混ぜ合わせる。(写真a,b 参照)
  2. 再び山型にしてくぼみを作り、シナモンパウダー、少々の塩、コショウ、溶き卵、レモンの皮をすりおろして入れる。フォークを丸く動かし、パン粉を巻き込みながら少しずつ混ぜていき、卵の水分が全体に行きわたるように混ぜていく。(ここまでの作業は、場所が無ければ、ボウルの中で作業してもよい)(写真c,d 参照)
  3. 両手でスケッパーを使いながら、全体をまとめていく。はじめはぽろぽろしているが、段々となじんでくる。生地が硬すぎて搾り出しにくそうなら、溶き卵を少々加えてやわらかさを調節する。軽く練るように1つにまとめ、ラップをかけて30分程休ませる。(写真e,f 参照)
  4. 休ませた生地を適度な大きさに切り分け、穴の開いた絞り器で絞り出すか、または大きめ(5~6mm)の穴の開いたお玉で生地をつぶすようにしながら押し出し、5~10cm程度の長さで切り落としてトレーに入れ、ラップをかけておく。(写真g,h,i 参照)

アーティチョークのスープを作る

  1. アーティチョークは写真のように、硬い部分を取り除き、枝の部分は皮をむいて、絞ったレモン汁1個分を入れた水に30分程つけておく。(写真j,k 参照)
  2. その他の野菜をすべて洗い、セロリとパセリは葉をとり、にんじんは皮をそぎ、タマネギは皮をむいてクローブを差し込む。レモンの皮は黄色の部分のみ薄く切り取っておく。
  3. 鍋に1.5lの水と、レモンの皮以外の野菜すべてを入れ、蓋をして火にかける。沸騰したら20分程煮込み、レモンの皮を加えて更に10分程煮る。(写真l 参照)
  4. 火を止め、荒熱がとれたらざるで野菜をこし、塩を加えて味を調える。パッサテッリからも塩味が出るので、スープのほうは薄味にしておく。(写真m 参照)
  • a. パン粉のくぼみにチーズを入れる
  • b. 両手でもみ込むように混ぜ合わせる
  • c. シナモンパウダーなどを加える
  • d. 少しずつ混ぜていく
  • e. スケッパーを使ってまとめていく
  • f. 1つにまとめて30分ほど休ませる
  • g. 生地を適度な大きさに切り分ける
  • h. 搾り器で絞り出す
  • i. 5~10cm程度の長さに切り落とす
  • j.アーティチョークの下処理をする
  • k. レモン水につけておく
  • l. 鍋に水と野菜を入れて煮込む
  • m. 野菜をこして味を調える
  • n. 沸騰したスープにパッサテッリを入れる
  • o. 水面に浮かんできたら火を止める

お料理ポイント

スープを煮込むのは30分くらいで十分よ。アーティチョークのフレッシュな味が損なわれてしまうから。パッサテッリの味がしっかりしているから、スープはデリケートな味でも大丈夫!スープを取ったあとのアーティチョークはまだまだ美味しく食べられるので、半分に切って、美味しい塩とオリーヴオイルをかけて、お惣菜として食べてね。
パン粉は、あまり乾燥しすぎていないものがおすすめ。カラカラのものは、卵の水分を吸いすぎて、硬い生地になってしまうのでね。ゆでる前のパッサテッリが余ってしまったら、 冷凍しておけばオーケーよ。でも早めに食べてしまうのがおすすめよ!