お料理説明・背景
マルケ州北部のアドリア海沿いの街、ペーザロ。ここでは肌寒い季節になると必ずマンマ同士が集まって作る名物パスタがある。 デニーゼの得意料理でもある、カペレッティ。名前のとおり帽子型の詰め物のパスタだ。寒い時期に作るのは、温かいブロード(野菜と肉からとったスープ)でいただくのが最高だから。もちろんクリスマスには欠かせない主役だ。
小さく上品に包むのが上手な証拠なので、1人で作っていては伸ばしたパスタが乾いてしまって埒があかない。なので、気の置けない友人同士が集い合ってワイワイ作る。みんなでエプロンをし、笑い話や家族の悩み事などを話しながら、10個前後の卵を使って作られた大量のパスタ生地が、まるでマジックのようにどんどん伸ばされ、四角く切られ、ちょこんちょこんとすごい速さで具が置かれ、何本も伸びてくる手がカペレッティを閉じてゆく。その間にもおしゃべりは全然止まらない。 「あのねユキコ、ロマーニャにもね、これと似たトルテッリというパスタがあるのよね!トルテッリには生ハムやモルタデッラが入っているんだけれど、こっちは具がちがうのよ。まあ家庭の味だからマンマの数だけレシピがあるわ!3,4種類の肉をソテーしてから挽くのよ。それにこうやってすりおろしたチーズ、卵、レモンの皮、ナツメグなんかで香りをつけるの。具だけで食べてもおいしいんだから!」と。つまみぐいしてみると、うん、やっぱりおいしい!
こんなふうにして、大量に作られたカペレッティは、冷凍され、次の日曜日に家族が集うときにお出まししたり、クリスマスにお歳暮のように、いつもお世話になっているドクターに持って行ったりする。
ちょこちょこ遊びにくる二人の孫も、デニーゼのところに来ると、「ノンナ、今日はカペレッティ?それともラザーニャ?」とおねだりする。こんなふうにカペレッティは、ここマルケでは単に郷土料理というだけではなくて、友情や家族をつなぐ役割をしている大切なパスタ料理だ。時には笑い合い、時には涙し、お互いのもろもろを語り合いながらこのパスタを通じて家族や友人が集い、絆を深めてゆく。コロンコロンと金色のスープに浮かんだ小さな帽子たちは、いつも共に過ごした時間や思い出が欠かせないスパイスになっていることを、可愛らしい姿で教えてくれるのだ。
マルケ州、ウルビーノ近郊のカーイ(Cagli)在住。1999年渡伊、ファエンツァの国立美術陶芸学校の陶彫刻科を卒業後、現代美術アーティストBertozzi&Casoniのもとでアシスタントとして12年に渡ってコラボする。2003年にマルケ在住のイタリア人と結婚したのをきっかけに、マルケ州の郷土料理や工芸、美術文化に強く惹かれ、自らも陶芸家として活動する中、ウルビーノを中心とするマルケ北部や県境近郊の食文化、美術工芸文化を発信する(ラファエロの丘から)を立ち上げ、現地アテンドや料理教室、工芸体験などのオーガナイスや、ウルビーノを紹介する記事などを執筆。生産者や工芸家との友人の輪を生かし、食文化とアートが一体となる現地のイベントに進んで参加している。一児の母としても、マンマの料理の腕を上げようと奮闘中! ホームページ:「ラファエロの丘から」
フェイスブックページ:「フェイスブック ラファエロの丘から 」
材料
カペレッティの材料(出来上がり約1kg~1.2kg分、一人当たり100~150g)
・強力粉 | 500g | |
---|---|---|
・卵 | 5個 | パスタ生地用|
・肉 | 700g | 配合:牛肉赤身150g、仔牛肉150g、豚肉赤身200g、鳥の胸肉200g |
・卵 | 3個 | 中に詰める具用 |
・パルミジャーノ・レッジャーノ | 80g | 粉状 |
・レモンの皮(無農薬) | 1/2個 | すりおろしたもの |
・塩 | 適宜 | |
・ナツメグ、コショウ | 少々 | |
・オリーヴオイル | 少々 |
ブロード(スープ)用(約1l~1.2l分)
・牛スジのかたまり | 350g | |
---|---|---|
・雌鳥のかたまり | 400g | |
・タマネギ | 小1個 | |
・ニンジン | 1本 | |
・セロリ | 1本 | |
・甘みのあるトマト | 1個 | またはミニトマト6~7個 |
・ジャガイモ | 1個 | |
・クローブ | 3~4片 | |
・水 | 1l程度 | |
・塩 | 適宜 |
作り方
- カペレッティの具を作る。(下記参照)
- カペレッティを作る。(下記参照)
- 肉と野菜のブロード(スープ)を作りカペレッティをゆでる。(下記参照)
カペレッティの具を作る (パスタの生地と共に前の晩に用意しておくと、味が落ち着いてよい)
- 3種類の肉を3,4cmのぶつ切りにし、オリーヴオイルを少々ひいたフライパンで焼く。肉から水分が出てくるので、蓋をして5~6分ほど弱火で蒸し焼きする。時々肉を回しながら様子を見、肉にフライパンの中に肉汁が少し残っている位になったら火からおろし冷ます。(写真a 参照)
- 冷めた肉をミンサーで挽く。卵を割り入れ、パルミジャーノ・レッジャーノ、レモンの皮のすりおろし、ナツメグを加え、塩、コショウで味を調える。冷蔵庫で休ませる。(写真b,c,d 参照)
カペレッティを作る
- 作業台(木のもの)の上に強力粉を山型にふるい、中央にくぼみを作って卵を落とし入れる。フォークで中心から卵と小麦粉を同時に巻き込みながら、卵が流れ出さないよう気をつけて全体をまとめる。(写真e 参照)
- 粉っぽさがなくなるまでまとめたら、スケッパーで生地をひとつにして表面が滑らかになるまで練る。このとき力は入れすぎず、生地の水分が全体的に均等になればよいので、練りすぎないよう気をつける。(写真f 参照)
- 器に入れ、乾かないように軽くラップをかけたり、ポリ袋に入れたりして涼しい時期なら常温で、夏なら冷蔵庫で最低1時間は休ませる。できれば一晩ねかせるとパスタの伸びが滑らかになるので、その場合は打った後すぐに冷蔵庫へ。(写真g 参照)
- 生地を3~4つに切り分け、ある程度平たい丸型になるよう手でおし広げ、適度な大きさになったら麺棒を使って伸ばす。慣れないうちは少々の打ち粉を使っていいが、できれば打ち粉は少ないか、または無しが理想。
- ある程度薄くなるまで円盤状の生地を90度ずつ回転させながら打っていく。3、4㎜の厚さになってきたら、今度は生地を麺棒に巻きつけながら伸ばす。上の端から手前に向かって少しずつ転がして巻きつけながら、麺棒の中心から両端まで、両手を左右に、手のひらで若干の圧をかけながら滑らせるように生地がすべて巻きつくまで伸ばしていく。(写真h 参照)
- 生地が巻き終わったら、麺棒ごと縦にして、巻物を広げるような感じで麺棒を転がし生地を開く。この作業を、作業台がうっすら見えるくらい生地が薄くなるまで繰り返す。
- 全体に均等な厚さに広げたら2.5~3cm角にパスタに切れ目を入れる。(写真i 参照)
- 切ったパスタのマスに、冷蔵庫で休ませておいたカペレッティの具をひとつまみずつ乗せていく。たくさん乗せすぎると包むときにはみ出るので慣れるまでは少なめにするとよい。(写真j 参照)
- 具の乗ったパスタを手に取り、はじめは三角になるように半分に折りふちをぎゅっとおさえ閉じる。次に閉じた三角の90度の部分が下になるように持ち替え、45度の両端をぐるりと後ろへもっていき端同士を閉じ、閉じた部分をきゅっと持ち上げて帽子のような形になるように整える。(写真k,l 参照)
- できあがったカペレッティは、くっつかないように紙皿に並べておき、その日のうちに食べる分は冷蔵庫へ、保存用なら冷凍庫へ入れ、ある程度凍って固くなったらまとめて冷凍保存用のビニール袋へ入れる。(写真m 参照)
肉と野菜のブロード(スープ)を作り、カペレッティをゆでる
- 牛と雌鳥のかたまりを水で洗い、野菜はすべてよく洗いタマネギは皮をむいてグローブを差し込む。
- 塩以外のすべての材料を鍋に入れ火にかける。圧力鍋なら圧がかかってから25分くらい、普通の鍋なら1時間半~2時間くらい、肉のスジから旨みが出てスープが金色になるまで蓋をして、ふきこぼれないように注意しながら煮込む。(写真n,o 参照)
- ブロードをざるで漉し、肉や野菜類を取り除く。(写真p 参照)
- 最後に塩を加え、味を調える。(カペレッティからも味が出るので、薄味に)(写真q 参照)
- 人数分のブロード(一人当たり250mlくらいを目安)を別鍋であたため、沸騰したらカペレッティを直接入れる。冷凍してある場合は解凍せず凍ったまま入れる。(写真r 参照)
- 沸騰してカペレッティが浮かんだ状態になったら火が通った証拠。アルデンテが好きならここで火を止め、柔らか目が好きならプラス1分くらいゆでる。(写真s 参照)
- スープ皿に盛り、あたたかいうちにいただく。好みでパルミジャーノ・レッジャーノのすりおろしを振りかけてもよい。
お料理ポイント
ブロードを取ったあとの肉のかたまりは、まだまだおいしく食べられるので、リボッリータのメニューを参考にしてサルサヴェルデとあわせて食べてね。雌鳥からしっかり油が出るので、多すぎると感じた場合は、ブロードを冷まし、油が固まったら適度に取り除けば好みのこってり加減に調節できるわ。でも取り過ぎは禁物!
パスタから出る端切れの部分や、余ったパスタ生地は小さな角切りにしてクワドレッティ(写真左)と呼ばれるパスタにし、スープパスタなどにして楽しむいいわ。 余った詰め物は冷凍しておいて、次回の時に足して使えばいいのよ。