お料理説明・背景
トスカーナの人たち曰く「うまく調理できたリボッリータ(Ribollita)は、イタリア料理の栄光の一つだと思う」とのことで、リボッリータはトスカーナの人たちが誇る自慢の一品。ドイツのメルケル首相がフィレンツェを訪問した際、元フィレンツェ市長のレンツィ元イタリア首相がメルケル首相との夕食に選んだ料理もこのリボッリータだった。余って硬くなってしまったパンや、残った野菜で作るエコロジーな料理で、費用がほとんどかからない庶民の味方の名物料理です。この『マンマのレシピ』の取材の話を頂いた時、3人のトスカーナ州出身のマンマに「トスカーナ名物の料理を紹介したいんだけど」と打診したところ、3人とも真っ先に答えたのがやっぱりこのリボッリータであった。それだけ庶民に愛されている料理なのである。
そもそもリボッリータとは、「再び煮る」という意味で、調理済みのミネストローネに硬くなったパンを加えて一度寝かしてから、食べる前に再び煮ることに由来している。寝かしている間に硬いパンに野菜のダシがしみ込んだパンは柔らかくクリーミーになる。
リボッリータに欠かせないのはカーヴォロ・ネロという、トスカーナ州でしか見られない黒キャベツ。ダークグリーンで、背丈の高い大きな野菜です。カーヴォロ・ネロの旬は出来立ての新エクストラ・ヴァージン・オリーヴオイルが出回る時期と同時期で、両者はとても相性がよく、トスカーナの人たちはオーブンで焼いた塩なしパンにニンニクをすりこみ、そこへゆでたカーヴォロ・ネロを載せ、塩をふり、新オリーヴオイルを垂らして食べるブルスケッタが大好物です。
生まれも育ちもトスカーナのマンマ、マリアンジェラもカーヴォロ・ネロが大好きで、自宅の家庭菜園でもカーヴォロ・ネロを栽培しているほどです。カーヴォロ・ネロを使ったリボッリータのレシピはもちろん母親から受け継いだもの。「リボッリータは簡単に作れるけど、時間がかかるのよ」豆を煮るのに1~3時間。ミネストローネを作るのに1時間。乾燥させたパンを加えて一晩寝かせてから再び煮るため、2日がかりの料理になる。
マリアンジェラは夫のルーチョと子供たちと一緒に自宅のあるペーラゴの隣町のポンタッシエベで家族経営のバールをしている。早朝からお昼までバールに立ち、午後は孫たちのお守り、昨年末にはバールに加えエディコラ(新聞や本、雑貨、お菓子を販売する日本でいうキオスクのような売店)も新しくオープンさせたため、夕方から夜まではエディコラでも働くようになった。日ごろから大忙しで、リボッリータの取材をお願いした日も、お豆は前日の夜のうちにゆで、バールから自宅へ戻ってリボッリータづくりに取り掛かり、そしてまたエディコラへと出かけて行った。「明日のランチには美味しいリボッリータが食べられるわね」
そんな忙しい毎日だが「孫が可愛くて仕方ないの」と長女の子供たちを見ると普段の忙しさを忘れるよう。「ほら、この子はまだ6か月なのに既に食いしん坊なのよ、自慢のリボッリータを食べさせる日が待ち遠しいわ」
ポカポカと体の芯から温まる優しく素朴な味のリボッリータには、トスカーナのマンマたちの愛情がたっぷり詰まっている。
フィレンツェ在住。テレビ局報道記者を経て2011年渡伊。2012年からフィレンツェ在局FMラジオに出演中。イタリア製本革バッグのオンラインショップ「アミーカ・マコ」をフィレンツェで起業・経営しながら、週刊誌等でイタリア関連記事のライター活動も。これまでに世界30ヶ国200都市以上旅行。ブログ:AmicaMakoイタリアンスタイル
材料
リボッリータ(6人分)
・古くなって外側が硬くなったバケット | 400g | 本来は外側がかなり硬い無塩のフィレンツェパンを使う。手に入らなければフランスパンで代用 |
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・カーヴォロ・ネロ(黒キャベツ) | 500g | トスカーナ特産。手に入らなければホウレンソウを代用 |
・乾燥豆 | 400g | カンネッリーニ(cannellini)種を使うが、手に入らなければインゲン豆類で代用 |
・フダンソウ | 400g | 岡山県ではアマナなどと呼ばれ日本にもあるが、手に入らなければ小松菜を代用 |
・キャベツ | 1/2個 | |
・ジャガイモ | 2個 | |
・タマネギ | 1個 | |
・ニンニク | 4片 | |
・セロリ | 2本 | |
・ニンジン | 2本 | |
・濃縮トマトペースト | 大さじ4 | または皮無しのトマトホール缶:300g |
・エクストラ・ヴァージン・オリーヴオイル | 適量 | |
・塩、コショウ | 適量 |
作り方
- 乾燥豆を2lの冷水とわずかな塩と大さじ1のオリーヴオイルでゆでる。そこへニンニク2片も加え、蓋をせずごくごく弱火で1時間から3時間程煮て、やわらかくゆであがったら火を止める。(写真a 参照)
- 豆を煮ている間に、他の野菜の調理を進める。別の鍋にエクストラ・ヴァージン・オリーヴオイル大さじ8を入れ、みじん切りにした残りのニンニク2片とタマネギを加え一緒に炒める。
- セロリとニンジンを1cm程に切り、2の鍋に入れて一緒に炒める。(写真b 参照)
- キャベツとジャガイモをざっくり一口大に切り、カーヴォロ・ネロとフダンソウを10cmくらいに切り(カーヴォロ・ネロの茎は歯ごたえがあるので、なめらかな舌触りにしたい場合は葉のみを使う)鍋に入れる。(写真c 参照)
- 1でゆでた豆を煮汁ごと全て鍋に加える。(写真d 参照)
- 濃縮トマトペースを鍋に加える。(写真e 参照)
- 弱火で煮込んでいる間に水量が減れば、時々お湯を加え、1時間程煮て、野菜が全て柔らかくなったら火を止める。この時点でミネストローネが完成。このまま野菜スープとしても食べられる。(写真f 参照)
- 乾燥して硬くなった塩なしパンを厚さ1cm程に薄くスライスする。(写真g 参照)
- スライスしたパンを手で細かくちぎり、別の鍋に入れる。
- パンの上に8のミネストローネを加える。(写真h 参照)
- 10と11を食べたい分量になるまで繰り返す。
- 最後はミネストローネが一番上になるようにして終了し、少なくとも数時間、できれば一晩寝かせる。(写真i 参照)
- 食べる直前に「リボッリータ=再び煮込む」。その時、エクストラ・ヴァージン・オリーヴオイルも加える。特にできたてのオーリオ・ヌオーヴォ(新オリーヴオイル)との相性は抜群。(写真j 参照)
- 全体に馴染ませるようにかき混ぜる。(写真k 参照)
- お皿に盛り付け食べる直前に再度オリーヴオイルをかけて頂く。(写真l 参照)
- 【ひと手間加えた別バージョンのリボッリータ】耐熱皿に14のリボッリータを盛り、薄切りした玉ねぎ(分量外)を上に載せ、さらに黒コショウを振って、200度に熱したオーブンで15分焼く。(写真m 参照)