お料理説明・背景
10月はキノコ狩りの季節。この時期になるとトスカーナの住民たちはキノコ狩りに行きたくてそわそわする。「昨日は雨が降ったから今週末は絶好のキノコ狩り日和ね」という会話がそこかしこで交わされ、八百屋の店頭には大きなフレッシュ・ポルチーニがお目見えする。フィレンツェ郊外の山道には、土日ともなると朝からずらっと車が停められ、森の中を籐のかごを抱えたイタリア人たちがキノコ狩りを楽しむ光景が見られる。傘が赤色のロッシーニ、全体に黄色いガッリナッチ、傘の大きさが人の顔程もある巨大なマッツァ・ディ・タンブーロなど、トスカーナの山にはたくさんのキノコが生えているが、みんなのお目当てはなんといってもイタリアのキノコの王様ポルチーノである。日本ではポルチーニとも呼ばれるが、その違いはポルチーノ=単数、ポルチーニ=複数、つまりはどちらも同じキノコ。いくら大量のロッシーニを見つけても、ひとつもポルチーニが採れなかったらがっかりする。それくらいポルチーニは別格の存在だ。
「これはピナローロじゃなくてポルチーニよ。見た目ではちょっとわかりにくいけど、間違いなくポルチーニ」息子のアレッスィオが山で採ってきたキノコを選定するマリアンジェラ。
彼女もまた、キノコ狩りの名人だ。生まれ育った家が森の中にあったので、物心つく前からキノコ狩りをしてきた生粋のフンガヨーラ(fungaiola)=キノコ探し名人。やはりフンガヨーラだった母クララと一緒に家の周りの森に入り、母からキノコの採れる場所、キノコを見分ける知識など身をもって教え込まれてきた。トスカーナの田舎では、キノコの採れる場所は誰もが絶対に口外せず、秘密の場所は家族の間だけで受け継ぐのが習わし。マリアンジェラも母から教わった門外不出のキノコの場所は二人の子供だけに教えてきた。子供二人を幼い頃から森へ連れていき、母クララから受け継いだ知識を子供たちへ引き継がせ、子供たちを立派なキノコ名人に育て上げた。
この日は、マリアンジェラに新しい「キノコ狩りの弟子」が誕生した。孫のアントニオだ。3歳半のアントニオにとってキノコ狩りデビューの日。自分専用の小ぶりな籐かごをぶらさげて得意げなアントニオ。これはきっとマリアンジェラのキノコの遺伝子を受け継いでキノコ探しの名人になるのでは!?と見守ったものの・・この目論見は大外れ。残念ながらアントニオが夢中になったのは栗拾いというオチ。哀しいかな、アントニオのキノコ狩りデビューは栗のみの収穫で幕を閉じたが、マリアンジェラはポルチーニより高価で貴重なキノコ、オーヴリを発見。「すごいわ、こんな大きなオーヴリは初めて」とマリアンジェラ。美しくオレンジ色に輝く、直径15cmはあろう大きなオーヴリを目の前にして、二人の子供たちも師匠の母には「やっぱり、まだまだかなわないなあ~」とボヤくほど。 そうはいっても二人の子供たちもたった一時間で、合計5㎏はあろうカゴから溢れんばかりのキノコを収穫、マリアンジェラのキノコ狩り魂はしっかり二人の子供たちに受け継がれていたのだった。
「ここ数年、ポルチーニはなかなか見つけにくくなっているから、顔なじみのフンガヨーロからポルチーニを買うこともあるわ」とマリアンジェラ。ポルチーニ料理ももちろん母クララから教わり、今もレシピを大事にしている。得意なのは、オリーヴオイル漬け、タリアテッレ、そして今回紹介してくれたリゾット。「ポルチーニはとてもデリケートな食材。料理方法はその繊細な香りと風味をひき立てるシンプルな調理法に限るわね」ポルチーニを専用ブラシで優しくブラッシングしていたマリアンジェラを見て、なるほど彼女のリゾットからは人をほっこりさせる愛情が感じられるわけだと納得した。
フィレンツェ在住。テレビ局報道記者を経て2011年渡伊。2012年からフィレンツェ在局FMラジオに出演中。イタリア製本革バッグのオンラインショップ「アミーカ・マコ」をフィレンツェで起業・経営しながら、週刊誌等でイタリア関連記事のライター活動も。これまでに世界30ヶ国200都市以上旅行。ブログ:AmicaMakoイタリアンスタイル
作り方
- 肉のブロードを作る。材料をすべて一つの鍋に入れ、水から火にかけ約3時間煮込む。味見をして足りなかったら分量外の塩を加え調整する。
- 生のポルチーニは、ブラシで表面を軽くブラッシングして汚れを落とし、手早く水で洗った後、一口サイズにカットしておく。(写真a,b,c 参照)
- 乾燥ポルチーニを使う場合は、鍋に水を入れ沸騰させ、火を止めてから入れ、そのまま10分程度放置して戻しておく。
下ごしらえ
作り方
- 後でお米を入れるので深めのお鍋を使う。鍋にエキストラ・ヴァージン・オリーヴオイル、ネピテッラ(またはイタリアンパセリ)、ニンニクを入れる。(写真d 参照)
- カットした生ポルチーニを加えて1分程炒める。※乾燥ポルチーニの場合はここでは加えない。(写真e 参照)
- ポルチーニが少ししんなりしたら、沸騰させておいたブロードお玉一杯分を加えて1分程煮る。(写真f 参照)
- 洗わず、乾燥したままのお米を入れて、一緒に軽く炒め、軽く塩、コショウをふる。※乾燥ポルチーニを使う場合はここで入れて、さらにかき混ぜる。(写真g 参照)
- 沸騰させておいたブロードを少しずつ加えていく。(写真h 参照)
- ブロードが減ってきたら追加し、常にお米がひたひたに隠れる程度に入れることを、お米がやわらかくなるまで17分程繰り返す。表面が乾かないよう時々様子を見る。(写真i 参照)
- お米が炊き上がったら最後にバターを入れて仕上げる。バターをお米の真ん中に入れ、そこへ周りのお米をかけ、完全に覆う。(写真j 参照)
- 5分程経過してバターが溶け、全体を混ぜたら完成!(写真k 参照)